☆月★日 山岳族揺籃歌、「一番星はただそこに」。 歌詞前半部分についても様々検証・研究がなされているが、 意味自体はわかりやすいので考察の余地はない。 各種神話と同様、「過去に起きた事件を暗喩の形で記録した歌」という見立てもあるが、 抽象的すぎるから可能性は低いと思う。 それよりは後半部の、 「誰かを助けた記憶を飲み込んで 戦いを終わらせる本当の戦いを」の部分。 ここについてが非常に興味深い。 山岳族の歴史書を探し回った。 この曲の後半部は、ずっと前は「誰かを助けた記憶」ではなく、「誰かを殺した記憶」だったようなのだ。 歌を歌い継ぐうちの誰かが、こう改変したようだ。 この歌は一見「死にそうでもなんとかなるからがんばれ」というようなメッセージを持った歌に聞こえる。 だが、「誰かを殺した記憶を飲み込んで、戦いを終わらせる本当の戦いを」という歌詞を念頭に置けば、 全く逆のメッセージを受け取ることができる。 この歌は、罪を犯した人族に対する、「君はそこまでは悪くない。 罪を犯すことをやめ、これからはもっと善行を成して生きろ」という応援のエールなんだ。 thea le st am ilt。今でこそam iltは山岳族古語で一番星という意味で通っているが、昔からそうではないはずだ。 山岳族古語は多数の山岳族の言葉が一つになった言葉。 この揺籃歌はどの部族から人族領域全土に広まった? その出処を探せば、その部族はam ilt=一番星と呼称していた部族なのではないか。 そしてその部族に、罪を犯した人族がいる。あるいは、その部族は部族ぐるみで傭兵稼業でもやっていたか……? また歴史の謎を解いてしまった。 やはり僕は天才だ。歴史学教授の地位もすぐだろう。 しかし、大学に入って一年経つが、「論文の執筆はその一切を禁じる」話が撤回される様子はない。 お前らこっそり大学の地下で最新の科学を研究しているんだろう? ちょっと賢いジャガーでも知っているぞ。 これじゃ何のために大学に入ったかわからない。 僕は過去を研究して論文を書いて世界を前に進める為に大学に入ったんだ。 同学年で、「アトム理論」について勉強している友人がいる。 話を聞くとすごい研究だ。あいつは天才だ。(ちょっと変わってるけど) 火属性魔法の究極が、容器と燃料だけで再現できるかもしれない。 入学前からばんばん魔族語の論文を読み漁って、土属性の幼馴染に手伝って貰って、自宅で実験装置を弄ってたらしい。 しかも、いいやつなんだ。 あいつが今すぐにでも論文を公表できるよう、僕も動いてみようか。直談判とか、署名とか……。 あるいは、それさえ受け付けられないようなら、 大人数で正門で論文をばらまいてやる。 教官どもの驚く顔が目に浮かぶ。 妹は僕に今日も口を利かない。大学で研究をするきょうだいが疎ましいらしい。 新しいものを探して何が楽しいの、とそればっかり。父親も母親もだ。肩身が狭いし、悲しい。 新しいものを探して世界を前に進める……ってのは、すごいことのはずなんだ。 それでも後ろめたい気持ちがあって、どうしてもそれを抑えられない。 妹と話をしてないから、最近嫌なことがあったのか、良いことがあったのか、それさえわからない。 毎日あいつが楽しく過ごせてるといいんだが。