@『ご挨拶』 初めまして。カレン・ラングフォードよ。 恵波(えなみ)の島女学院の二年生で、イギリスからやって来た留学生です。 そう……。ずっと、ずっとこの学校にいるの」 *** A『【二年生の四月】初めて話した日(446文字)』 「あの! そう! 貴方。貴方に話しかけてる、の。 あ、私転校生の……。 あ、それは知ってるわよね。そうよね。 えっと……。あの、ね? これからお昼だから……。 食堂の場所を教えていただきたいのだけど……。 うん。 貴方がいいの。 貴方にお願いしたいの……。 あ、いいの? ありがとう! よろしくお願いするわ! あ、ごめんなさい。そうなの。 私、少し足が悪くて……。 杖が必要なほどではないのだけど。あまり早くは歩けなくて。 えっ? ……いいの? ありがとう……。 ううん! 差し出がましくなんかないわ。嬉しい。 お言葉に甘えて。腕につかまらせてもらってもいい? ありがとう。貴方って優しいのね。 親切な方と知り合えて、私安心したわ。 というか……思ってた以上に素敵なんだけど……。 何でもないの。 それより……どうして敬語なの? 私たち、同級生よね。できればかしこまらないでほしいのだけど……。 うん! そうしていただける? あと。私のことは『カレン』って呼んでくれる? ありがとう! ふふ……これから、よろしくね! 貴方と一緒なら、私、とっても楽しく過ごせそう」 *** B『【二年生の七月】告白(321文字)』 「暑くなってきたわね。 お話ってなあに? うん。そうなの。夏休みの間は、一時帰国させていただくわ。 だから、暫く会えないわね。 えっ? 『お付き合いしている人に会ったりするの?』って……。 いないいない! いないわ! そんな人はいません……! 好きな人は……わからない。 ただ、私は。貴方といるのがとても楽しい……。今みたいな幸せが、ずっと続けばいいって思ってる。 貴方も? 本当? 私たち、一緒ね。すごく嬉しいわ! え? 『一緒じゃない』ってどういうこと?  えっ!? あ……あ……そう、なの……? 貴方が……私を……? 本当……本当に? 嫌じゃないわ! 困ってなんかない! 私も一緒よ。貴方のことが好き……。 そう。一人の人として、貴方が大好き。 そうよ。私たち、つまり。 両想い、みたい……」 *** C『【二年生の十月】ハロウィン(372文字)』 「はい! 次はだあれ? あれ? 意外だわ……貴方はこういうイベントごと、苦手と思っていたから。 でも嬉しい。 貴方も私に、ハロウィン用のメイクをしてもらいに来たのね! え? ここ『感染源』って呼ばれてる?  入った生徒が皆ゾンビ化して出てくるから? ……うまいこと言ってくれるじゃない。 そんな私の仮装? ふふ、吸血鬼よ! なかなかいいでしょう。 皆の血を吸って、仲間にしちゃうから。 「それでもいいよ」って。いいの? 化け物の恋人で。 あ、ありがとう……。 なあに? 貴方ってば、そんなにこの格好が、 あっ…!? あの……えーっと……。 抱きしめられていると。メイク、できないんだけど……。 こんなところ見られたら……。 また皆に「バカップル」って言われちゃうわよ……。 もう……。 ありがとう……。 あのね。いつか必ず……必ず、すべてを話すから。 その時も今と同じことを言ってくれたら……嬉しい……」 *** D『【二年生の十二月】本編の翌日(390文字)』 えっと、あの。やっとお昼休みになったわけだけど。 あれからお加減はいかが? 私はこの通り平気。まだ足軽いの慣れないけど。 本当? 良かった……。 私もよ……。 授業なんて手につかない。ずっと、昨夜のことばかり。貴方のことだけ考えてた……。 いや私いつもそうね? この学校の授業なんて正直飽き飽きよ? えーっと、そうじゃなくて。 これからのことなんだけど。 私が、貴方に会うまでどう過ごしていたかとか……。 私が学校生活を送れるよう助けてくれていた……私の正体を知る唯一の人。 この学校の学院長のこととか。 順を追って、貴方に話したいって思ってるの。 驚くこともあるだろうし……。 私、貴方の前では相当格好つけていたから。 素の私を知って、がっかりすることもあるかもしれないけど……。 変わらず一緒にいて、くれる? うん。ありがとう。嬉しい。貴方ならそう言ってくれるって思ってた。 ふふ。私たち。これからやることたくさんね?」 *** E『【二年生の十二月】秘密のアルバイト(658文字)』 「あ、いたいた! あのね。週末のデートの話なんだけど……。 私、映画館に行ってみたいの! そう! 映画、好きなんだけど……。 いつも図書館で、見てたから。 そうだ。お金のことなら安心してね。 実はね、私。アルバイトしてたの。もうやめちゃったんだけど。 警備員! 織江(おりえ)……学院長の勧めでね。 『どうせ暇なんだから少しは役に立て』 って言われていたわけ。 だから、透明になれるのを活かして、夜間見回りをしたり……。 授業中や休み時間の様子を覗いて、トラブルの有無をチェックしたり。 それを報告して、アルバイト代をもらっていたの。 スマホもタブレットもそれで買ったし。 だから、お金には困っていないから。 何十年もやってたし。 当時は、どうせ学校から出られやしないのに、お金なんか貯めてどうするのよって思っていたけど……。今は、やっておいてよかったと思うわ。 それに私、結構役に立っていたと思うのよ。 うん? 何か思い当たるって顔ね? へ? この学校に伝わる七不思議? うんうん。 昼間でも開けっぱなしのドアが勝手に閉まるとか。 深夜の図書館でパソコンがひとりでについて、怖い映画が再生されるとか。 落とし物が突然プカっと浮いて飛んでいくのが目撃されているとか……。 あーそれ私ね。私じゃなかったら怖いわね? あ。実際怖がってる。貴方がすんなり私の正体を受け入れたのも、その噂があったから? え? てことは? 何それ。私怖がられてたの? えーっ? でもね。それらは全部、善意のつもりで……。 私はどちらかというと……『学校の守護神』? そういう感じのつもりだったのに! 怪奇現象なんて、あんまりよ!」 *** F『【二年生の十二月】初めてのデート(491文字)』 「ええ。出来心だったの。今は反省しているわ。本当よ。 ちょっと驚かせたかっただけなの。だって貴方、最近ますます格好いいし。 なんかそれって悔しいし。 だからちょっといたずらしてやろうって思っただけなの。 なのに、まさか。初めてのデートがこんなことになっちゃうなんて……。 ああ! もっと早く気づくべきだったわ。思えば貴方、明らかに引きつっていたし。 私が無類のホラー好きだから、怖い映画に付き合ってくれただけ。それを理解すべきだった。 でも、貴方って、とても感受性が鋭いし。非現実的なこともすんなり受け入れちゃうし。 まあそこが好きなんだけど。ていうか大好き。 とにかく。だからいけるかな? って思ったのね? だから私、つい言ってしまったの。スクリーンに現れたあの巨大なお化けを見て……。 『あれって、実在するのよね……やだなぁ……怖いなぁ……』 って。 でもね? まさかそう言っただけで。 貴方が真に受けて、泡を吹いて倒れちゃうなんて思わないじゃない? あぁ……! お願い目を覚まして! ごめん嘘! あれ偽者! あんなのいない! お化けはこの通り実在するけど少なくともさっき見たのはフェイクよ! 幽霊歴の長い私を信じて! 起きてー!」 *** G『【ちょっと未来】朝よ?(128文字)』 「おはよう。朝よ。もう、起きる時間。 うん。 あ、ここ寝癖。 すごい。 ちゃんと直すのよ。 ふふ……なんだか、こういうのっていいわね。 朝起きたら、好きな人が隣にいる、って……。 今は寝癖に困ってらっしゃるけど。 ふふふ。 ん……ちゅっ。 ふふっ。 今日も一日、頑張りましょうね?」 *** H『【ちょっと未来】早く帰ってきてね(194文字)』 「……もしもし? よかった、つながって。 どうしたの? 今、どこにいるの。まだ帰ってこられなさそう? うん? そうだったの……。辛いことが、あったのね。 自信なくしちゃったの? 珍しいわね、弱音。 でも、私は早く貴方に会いたいけど。 もし貴方が……貴方の言う通り、だめな人だったとしても……。 私は貴方が居てくれるだけで、本当に幸せだから。 ね? だから、早く帰っていらっしゃい? 暖かいもの用意して、待っているから」