不良少女が57を素数だと言い張ってくれるボイス お、来た来た。 悪いな呼び出して。 大体分かるだろうけど……って、相変わらず変な顔して、もしかしてなんで呼び出したか分かってないのか? まったくホントお前って勘が悪いよな。 俺みたいなかわいい女の子が、男を呼び出したんだぞ? 理由なんて一つしかないだろ? それとも……ホントは気がついてるくせに、わざわざ言わせるのか? だとしたら、とんでもねぇ変態だな。 (そうかなぁ) まあ呼び出したほうが切り出すのが当たり前か……しょうがないな。 俺が57を素数だと証明してやるよ。 聞いてたか? 俺が、57を、素数と、証明するつってんの。 女の子が男を呼び出す理由なんて他にあるか? ん?そもそもなんで57を素数だと証明する必要があるんだって顔してるな。 数学の授業の時、俺が57が素数かどうか聞かれた時、素数って言ってただろ? あの時の教師の顔、めっちゃムカつくぜ…… それに、お前もちょっと笑ってただろ? だから今日から57を素数にする。分かったな? 俺が今から素数だと証明してやるっつってんだよ…… まあまあ、そんな顔するなよ。 大丈夫だ、こう見えても数学得意なんだよな。 お前疑ってるな? 小学校の時から算数が得意で、"四の段の霹靂"と言われてたからな。 あまりの四の段のすごさに「もう五の段じゃん!」とか言われてた時期もあった。 なんなら金曜日の夜は「六の段じゃん!」と言われていたな。 中学の頃もすごかったな…… お前のルート……左下の部分、尖りすぎてない?ってよく言われていた。 ルートが鋭角すぎて、このままじゃ人を傷つけるよって言われて……少し悲しくなる夜もあった…… 金曜日の夜は鋭角すぎて……もう実質トゲじゃん…… ロックマンが当たったら死ぬやつじゃんって……言われていた…… そう……天才は時に……人に理解されないんだ…… きっと、アインシュタインもルートは鋭角だったんだろうな…… アインシュタインも、近所のおじさんとかに「ルートの左下の部分、めっちゃ鋭角ですやん!」とか言われて涙した金曜日の夜もあったんだろうなって…… ん? 何の話だっけ? あ、そうそう、とにかく俺は数学が得意だから安心しておけって話。 今からお前は、57が素数になる……奇跡の瞬間を目撃するからな…… まず57が素数かと問われた時……お前みたいな凡人はどう考える? 60が3の倍数で、そこから3を引いた数が57だから…… 57は3の倍数だと考えるだろう…… つまり3が20個ある状態から1個引けば57だ、と考えるわけだ。 だけどな…… そんなこと……俺がさせない! 3は20個あってこそ……みんな一緒だ! 絶対離ればなれにさせないからな! 思えば3はいつも一緒だった…… でもある日、3が……一人だけ都会に行こうとするわけだよ…… 「あたい……60を抜けて東京に行こうと思うの……みんなと一緒にいたかったけど……でも、この村守りたい……あたい東京で出稼ぎしようと思うの……いっぱい稼いで……この村にでっかいスーパー作ろうと思うんだよね……みんなが不便しないような……だから、裏切ったと思ってくれてもいい……60が57になっても……みんなが幸せになるなら……」 そう言われて、57になれるかよ! お前60から3引いたって、みんなの心は一緒だろ! そう……60は離れ離れになっても60なんだ。 57って言ってるやつはみんな、60から引かれる3の気持ちを考えたことないんだろうな…… 人の気持ちはそんなに割り切れない、そう、素数のように…… だから57なんてものは成立しない。 QED(キューイーディー) どうだ、完璧な証明だっただろ? 高校の頃は、数学と理科が得意だったからな。 数学と理科は55点で、国語が45点くらいだったから、ちょっとロストワンの号哭(ごうこく)と言われていた…… 背景の机と椅子が2個ずつくらいしかない感じのロストワンの号哭だ。 いや、っていうと全然強くなさそうって気がするかもしれないけど、金曜日の夜は……えげつないロストワンの号哭だったけどな。 ん?もしかして……納得してないのか? こんな丁寧に説明してあげてやってるのに……もしかしてお前数学苦手なのか? なんだその顔。 分かった分かった。捻くれ者のお前はこういいたいんだろ? そもそも19×3が57だろと。 そこも説明しなくちゃいけないなんて、お前はホント欲張りさんだな。 だけど知への探究心……嫌いじゃないぜ…… たしかに19×3は57になる、つまり57は合成数だ。 けどな、それは19と3がちゃんと出会えたらの話だ。 じゃあもし、俺が19になりすましてたら、どうするよ? ああ、合成数マッチングアプリでさ。3と19が意気投合して、三ヶ月やりとりして……ついに待ち合わせの日が来るんだよ。 3のやつ、いつもはしないオシャレなんかしてさ、 「今日会う19さん、どんな人だろ〜楽しみだな〜」 とか言うわけよ。 駅前で待ち合わせ時間より30分くらい早めについちゃってさ。 それなのに、ギリギリに来た19に「あ、うん、さっき着いた所だよ」とか言っちゃうわけよ。 しかし、この19をよく見ると……ビリビリ……ビリビリビリ…… 真ん中の裂け目から……俺参上…… 19を装ってたのは俺だよ…… わりーなー、人間が来ちゃって…… 人間と、数字じゃ、合成数になれないね〜。ざんね〜ん。 絶望に顔が歪む3に、囁いてやるわけよ。 57になれなくて……残念だったな……ってな。 こうして3と19の出会いは消えた。 当然、3×19も成立しない。57は作られない。 つまり、57が合成数だとは証明できない。 お前が言いたいことはよく分かる…… 3が可哀想じゃないのかってことだろ? 分かってるよそんなことは……それでも、俺は…… 57を素数にしたいんだ…… なに!? お、お前その体……そんなぐにゃんぐにゃんに体を曲げて! 一体何を、はっ!? まさかお前、体全体で3を表現しているのか!? 3の正体が自分だとでもいいたいのか……そ、それなら確かに合成数になれなかった3は存在しない…… 3と19が出会わなかったとは言い切れない…… 俺の負けだ…… でも……残念だったな。 結ばれるはずだった3と19、その場所に俺とお前がいるってことは、俺達が結ばれるってことだろ? そりゃそうだろ、本来、合成数になるわけだったから。 人間同士だと結ばれるに決まってるだろ。 なに首捻ってるんだよ、そういうもんだから仕方ないだろ。 ほら、そろそろ帰るぞ。 あ、今日金曜日だから夜もよろしくな。