ここは聖凜学園。  能力、または家柄に秀でた者が通う日本屈指の名門校だ。  私はそこに務める一人の教師として、歴史の授業を受け持っている。  まだまだ若輩の身として、自身もまた学びを得ながら教鞭を執る日々だ。  意欲のある優秀な生徒が多く、教師冥利に尽きるというものだ。  そうそう生徒といえば、教え子の中に特に印象深い生徒が二人いる。  二条 小春(にじょう こはる)。  日本有数の名家、二条家の跡取り娘。多くの令息・令嬢が通うこの学園の中でもトップの家柄であり、学園長の孫娘。  凛とした気品に満ち、それでいて柔和な淑やかさを併せ持った文武両道の大和撫子。  決して驕らず、分け隔てのないその人柄から多くの生徒に慕われている、学園の象徴のような存在だ。  蜂須賀 光(はちすか ひかり)  テレビや雑誌で見ない日は無い、今日本でもっとも人気のあるカリスマモデル。  その影響力は凄まじく、去年の流行語大賞が彼女の発言だと知った時は驚いた。  学内にも多くのファンがいるようで、黄色い歓声をあげる人混みがあれば、その中心には彼女がいる。  彼女たちが印象深いのは、その家柄や知名度のことはもちろんだが、もっと単純で大きな理由がある。  二人は私のことをとても慕ってくれているのだ。  二条(にじょう)は私の授業をいたく気に入ってくれて、放課後に二人で何度も歴史について語り合った。  会話が弾む中で、ずっと一緒に同じ家で暮らせたらいいのにと言ってくれたこともある。あれは本当に嬉しかった……。  きっと私を兄の様に思ってくれたのだろう。私も時々、二条のことを妹のように感じることがあったからな……。  蜂須賀(はちすか)も一人で明日の授業の準備をしている私を見かねて、何度も手伝いをしてくれたいい子だ。  流行に疎い私なんかと話すことを、心の底から楽しいと言ってくれた。先生が一番好き、とまで言ってくれたのだ。  優秀な他の先生方よりも、私を一番の教師に選んでくれたこと、なによりも嬉しかった……。  だが……最近私に対する二人の様子が少しおかしい。  なにか怒らせるようなことをしてしまったのだろうか……。  考えられるのは……  家族に紹介したいので本家に招待させてほしいと頭を下げてきた二条(にじょう)の頼みを断ったことか……?  気持ちは嬉しかったが、特定の家と親密になりすぎるのは良くない……。教師として生徒全員に平等に接するのが私のポリシーなんだ……!  しかし風呂や寝床の準備まで出来ていると言われたのは流石に申し訳なかったな……すまない二条……!  蜂須賀(はちすか)は……一緒にホテルに来てください!と土下座までさせてしまった件だろうか……。  ゴメンな蜂須賀……私の授業がわかりにくかったばっかりに……。誰にも知られずに勉強したかったんだよな……!  いい点が取れるようになるまで、半泣きの蜂須賀をなだめながら補習に付き合ったが……足りなかったか……!?満点が取れるようになるまでやるべきだったか……!?  ううむ……。  本当にこの理由なのだろうか……。  もっと大きな理由がありそうだが……。  ──キーンコーンカーンコーン……。  おっともうこんな時間か……。  一旦切り替えよう……。  コーヒーを飲んで、明日の準備をして、それからまた……考……え……?  な、なんだ……?眠い……!  コーヒーを飲んだ途端、凄まじい眠気が……!!  ダメだ……耐えられ……ない……!  う……うぅ……………