ほう……?誰ぞ向こうて来ると思うたが……。 何じゃ?お主……妾に何用かの? ……ふむ。左様……妾は今し方、戒めより解放されたしがない妖狐じゃ。 辺りを見るに…… どうやら幾年もの間、この道観に封じられておったようじゃのう……。 全く……酷い話じゃ。 妾が妖じゃというだけでこの仕打ち……のう?小僧。 お主も、そうは思わぬかえ? ……ほう、妾を知っておるのか? とすれば……お主、術師か。 くふふ……あまりに矮小な気であった故、気付かんかったぞ。 ……それで? もう一度問うが……術師風情が、妾に何用じゃ? よもや妾を再び封じるなぞ、戯言を抜かすのではあるまいな……? ……くふふ、やめておけ。 お主では、妾と勝負にすらならぬぞ? それでも向こうてくると言うのであれば、止めはせぬがな……? 妾にしても、久方振りの俗世じゃ。 景気づけに、若い人間の肉を喰ろうておくのも悪くはあるまい。 ……それにしても……。 すぅ……ふぅ……。 ……しかしまぁ、かつてと違うて濁った空気じゃのう……。 どうやら俗世から妖は消え、人間が随分とのさばったようじゃな。 全くもって嘆かわしいことじゃ……。 ……む、何じゃ……問答は無用かえ? はぁ……やはり、人間は浅はかで救えぬ……。 ……いや待て、この術は……。 お主まさか、妾を封じた忌々しいあやつの……。 ……くふふ、そうか。 であれば……妾も気が変わったぞ。 ……ほれ、「動くな」。 そして「直れ」。 ……どうじゃ、動けぬであろう? くふふ……よもや言葉一つで、 動きを完全に封じられるとは思いもしておらんかったようじゃな……? じゃが……これが妾とお主の力の差じゃ。 仮に今の法術が上手く作用していたとて、結果は何も変わらんかったじゃろう。 ……お主も知っておろう? かつて妾を封じた術師は、 その命と引き換えの捨て身の術にて、妾に封印を施した……。 まこと忌々しい話じゃが、あやつも稀代の術師であったからのう……。 当時の人間に斯様な真似ができる者は、他におらんかったであろう。 ……じゃが、よもやあの女に子が居たとはのう……。 お主で何代目となるかは知らぬが……。 くふふ、あやつの神通力も随分と落ちぶれたようじゃ。 目の前の小僧からは、当時の毛ほども力を感じぬぞ? どうやら……血はかなり薄れたようじゃな。 ……さて、と……。 くふ、このままお主を始末してやってもよいが……それではつまらぬ。 妾も今の俗世について、知りたいことが山ほどあるしのう……。 ……どうじゃ?お主……妾に仕える気はないかえ? 妾に忠誠を誓うしもべになるというのであれば……その命、生かしてやろう。 あやつめの子孫というのも興味があるしのう……。 ……ほう?断ると……。 何じゃ、命が惜しくないのかえ……? 身動きのできぬ今、妾がお主の胸にこの手を突き入れ、 心の臓を取り出してやるといったことも容易なのじゃがのう……? ……ふむ、成る程……。 妖には降らぬと……。 ふん、腐ってもあやつの子孫か……。 くふふ、面白いではないか。 ……ならば、妾の物となるまで躾けてやるだけじゃ。 その身も心も、妾に屈するまで少し可愛がってやるとしよう。 お主も、覚悟はよいな……? ……では、ほれ。 ついて参れ。 妾の命に従う形でならば、体を動かすことができるはずじゃ。 ……くふふ。 その威勢……いつまで続くか見物じゃな。 のう……?小僧。