XX25年 1月5日(日) 今日は9時~15時でバイトして、その後なお先輩とお茶してきた。 「ねえ、ひまり。三月のライブ、私ひまりのドラムで歌いたいな」 カフェでコーヒーを飲んでいたら、急にそんなことを言われて、 私は驚きと喜びでいっぱいになった。 「ひまり、一緒にやろ?」 なお先輩は私の目を見て、そう続ける。 憧れの先輩が、私をバンドに誘ってくれている。 こんな嬉しいことがあるだろうか。 私はその場でやった~~~!! と飛び上がりたい気持ちを抑えながら 「お誘いありがとうございます。やりましょう!」 と答えた。 そうしたらなお先輩が 「やった~~~!!」と大声で言って、飛び上がりはしなかったけど、両手を天に掲げて喜んだ。 なお先輩って感情表現が豊かで、楽しい人だなあ。 こうして私は、三月のライブ、なお先輩とのバンドで出演することに決まった。 1月7日(火) 昨日が始業式で、今日から三学期。 放課後に軽音楽部の部室で三月のライブのバンド決めがあった。 なんとね! 三月のライブは、学校でやるんじゃなくて、 ライブハウスを借りてライブするんだよ! すごいすごいすごい! ライブハウスでライブするって、また推しと同じ状況になるじゃん! ああぁあめっちゃ楽しみだなあ~! 三月のライブで私が参加するのは、なお先輩のバンドのみになった。 しかし、私となお先輩しかメンバーが決まってなくて、 他のメンバーは後日決めるってことになった。 部長は「それでも問題ないけど、決まったら出来るだけ早く教えてくれると嬉しい」 と言っていた。 1月8日(水) なお先輩とのバンドで、高橋くんがベースを弾いてくれることになった! これで、ギターボーカルはなお先輩、ベースは高橋くん、ドラムは私ということで決まったんだけど、 なお先輩は、もう一人、リードギターが弾ける人が欲しいと言っていた。 とは言っても、ギターが上手だった石田先輩はもう部活をやめてるし、えりちゃんは忙しそうだし、 他のギタリストの部員もなかなか難しそうだ。 「あ、じゃあセフィロス呼ぶか!」 放課後の部室でギタリスト決めの話をしている最中、なお先輩が突然そう言った。 ?マークが頭に浮かんでいたであろう私と高橋くんに、なお先輩は 「私と同じ学年に、ギターがめちゃくちゃ上手い幽霊部員がいるんだよ。セフィロスっていうの」 と説明してくれた。 「ちょっととっつきづらいとこあるかもしれないけど、ギター上手いし、結構いいやつだから!  今度スタジオ入ってみて、感触良かったらセフィロスに決めちゃお!」 そう彼女は続け、私たちは謎のギタリスト、セフィロスさんとスタジオに入ることが決まった。 1月18日(土) 「瀬戸ですどうも」 セフィロスというあだ名の先輩は、伏し目がちに挨拶をしてくれた。 彼は背が高くて、細くて、髪の毛とか肌がすごくきれいで、 そして、ちょっとだけ内気な人だった。 「よっ、セフィロス! 久しぶりじゃん。 来てくれてマジありがとね」 なお先輩が声をかけると、彼は 「別に暇だし」 という、よくわからない返答をした。 無気力系の先輩なのかな……と思っていたのだが、 セフィロスさんはギターを弾くと豹変した。 その無気力に見える立ち振る舞いは、全てギターにエネルギーを吸い取られているからだ。 と説明しても納得してしまうような、力強く、狂気を感じる演奏。 そう、狂気のギターだった。 なお先輩の圧倒的な歌と、セフィロスさんの狂気のギター。 すごいことになってしまった。 私は今、強大な力がぶつかりあっているのを目の当たりにしている。 声で、ギターで、ここまでの表現が出来るのか。 と思うほどの、概念を超越した存在感のぶつかりあい。 それを曲という形に落とし込むのが私と高橋くんの役目のように感じた。 「おいセフィロス、ノリノリじゃねえかよ。最高かよ」 「ああ、暇だったからちょっと練習した」 会話になっているようななっていないようななお先輩とセフィロスさんの言葉のやりとり。 「ははっ。その言い方ウケる」 「ってかなお、何で石田じゃなくて俺なの?」 「あ? あいつ部活辞めたし。あと別れたし」 「マジか。まあ石田は理詰めで弾く感じだから、なおとは難しそうだわな」 二人のとりとめのない会話を聴きながら、私は考えていた。 もっと、もっとこの二人が生き生きとやれるリズムを叩きたい。 なお先輩もセフィロスさんも「本物」だ。 高橋くんはもう既にすごく上手だから、その「本物」たちがより自由に、 生き生きと表現できる場所を作るには、私が頑張る必要があるんだ。 結局、このメンバーで三月のライブはいくことになった。 セフィロスさんは「じゃあよろしくー」と伏し目がちに挨拶して去っていった。 ギターを持っているときと持っていないときでは本当に別人みたいで面白いなあ。 1月19日(日) 店長に、バイトの日数を増やしてほしいと伝えた。 どうしても三月のライブまでにマイスネアを買って、 良い音を出したいからだ。 ちょうど今、水曜日の夕勤が人手不足だったようで、 私はその時間にもシフトに入れてもらえることになった。 1月20日(月) メンバーが決まったので、なお先輩が部長にバンドのメンバー表を提出していた。 バンド名は「セーファ・セフィロス」に決まった。 なお先輩が立案したそのバンド名にセフィロスさんは難色を示していたけれど、 「いややっぱセーファ・セフィロスでしょ! かっこいいしさ! 何かラスボスっぽい感じが良くない!?」 とごり押しされ、最後には了承したのだった。 1月29日(水) 今日は初めての水曜日バイトだった。 いつもと働いている時間が違うから、一緒に働いているスタッフも 納品されるものも違って新鮮だった。 夕方にはお菓子の納品があったよ。 明日はセーファ・セフィロスの練習。 1月30日(木) セーファ・セフィロスの練習だった。 やっぱり、このメンバーはすごい。 最初の練習(厳密には二回目だけど)で、 3月のライブでやる曲が全て通せる状態になってしまった。 あとは細かいところを詰めるだけだね。 と、なお先輩は満足げに話していた。 2月10日(月) お給料が振り込まれたので、放課後に楽器屋さんに行ってきた。 もしも良さそうなスネアがあったら買おうと思って。 いろいろ試奏させてもらって、めちゃくちゃ好きな音のするスネア、 おそらくセーファ・セフィロスのバンドサウンドにぴったりな音のするスネアを見つけたんだけど、 私の全財産をはたいても、ちょっと足りない金額だったので 今回買うのは諦めることにした。 足りない金額は二万円なので、来月の給料日には買えるはずだ。 来月買ったら、ライブには間に合う! 2月14日(金) バンドとバイトと勉強に気を取られていて、今日がバレンタインということを忘れていた! いや、というかそもそも私って今までの人生でバレンタインというものには縁がなかった。 渡す人もいないしね。 まあそれはそれでいっかあ。 と思っていたら、部室でなお先輩とえりちゃんが 高橋くんと、いつもは部室にいないのに今日はたまたまいたセフィロスさんにチョコを渡していた。 しまったああああああああああああ! 私もメンバー用のチョコレートを用意しておくべきだったああああああ! と後悔しながら今日記を書いているというわけ! 2月20日(木) セーファ・セフィロスの練習だった。 なお先輩は終始楽しそうだったが、 セフィロスさんからは演奏後に私や高橋くんへの注文がいくつか飛んできた。 リズムパターンが変化した後の一発目のスネアが速いとか、 キックとベースのアタックをもう少し意識してほしいとか。 うん。録音したものを聴きなおしたけど、確かにそうなってる。 バンドの完成度をもっと上げたい。 だから、注文に応えられるように頑張りたい。 2月23日(日) バイトしてからスタジオで個人練習してきた。 曲の練習をして、録音したものを聴いて、 気になって部分を意識して、またそれを聴いて、と繰り返していると 個人練習の時間はあっという間に過ぎた。 もっと練習したかったよぉおおおお。 3月1日(土) 卒業式だった。 そういえば、軽音楽部の三年生の先輩方との絡みってあんまりなかったなあ。 二年生の先輩とは仲良くなれたんだけど。 そういうものなのかな。 3月2日(日) バイトして個人練習。 今日は愛川さんがお休みだったので、店長と二人で働いたよ。 愛川さん、体調悪いのかな。 早くよくなりますように! 3月6日(木) セーファ・セフィロス練習。 セフィロスさんの顔色が悪い。 どうしたんだろと思っていたら、なお先輩が 「ひまり~、高橋~。セフィロスはね、キミたちと同じ学年になるかもしれないよ~」 と言ってきて、セフィロスさんが 「ばっ! 言うなよ! お前マジでデリカシーないな」 と怒っていた。 「セフィロスはね、その驚異的なギターの腕前と引き換えに、成績を失ってしまったんだ……」 なお先輩は何かの物語の登場人物、それも解説キャラみたいな感じで言った。 すごく失礼な話なんだけど、私、今日でセフィロスさんがちゃんと血の通った人間なんだなって思えた。 それに、勉強がおろそかになるぐらいギターに夢中になって、それであれだけ上手になっているのは すごいことだと思う。 来週は期末テストで練習はないけど、もう明日本番でも問題ないぐらい出来上がっているから、きっと大丈夫だろう。 3月10日(月) 買っちゃったああああぁぁぁぁぁああああああああ!!!! マイスネア、買っちゃった!! 今日は学年末試験で学校がお昼で終わったので、 その後すぐに楽器屋さんに行って、スネアを買ってきた!! 念のため、今の予算で買えるスネアをいくつか試奏したんだけど、 やっぱり前から決めていたスネアが一番好きな音だった。 それでね、次の練習まで叩くのを我慢するなんて無理だったから、 楽器屋さん隣接のスタジオで個人練して叩きまくってきたよ。 めちゃくちゃいい音だと思う。 シンプルなビートを叩いていても、リズムがシャープに聞こえるし、 フィルで連打したときの粒立ちもすごくいい。 あれ、なんかすごくドラマーっぽいこと書いてる。 そうだ、私、ドラマーだもんね。 ああ、早くこのスネアでセーファ・セフィロスの練習に入りたいなあ。 きっと合うと思う。 3月13日(木) 明日で学年末試験最終日。 今回はそんなに問題なかったかも。 試験がなかったら今日はバンド練習だったのになあ。 毎度のことながら、テスト期間中は部活がないのが寂しい。 3月20日(木) 祝日で学校は休みだったけど、セーファ・セフィロスの練習だった。 休みの日でも、顧問の先生の許可があれば練習はできるんだって。 今日から導入したマイスネア、みんなにいっぱい褒められちゃった! 最初に反応してくれたのはすっかり顔色が良くなったセフィロスさんで、 「いいね。その音、このアンサンブルに合ってる」 って言ってくれて、高橋くんもそれに同調してくれていた。 なお先輩は 「あのひまりがこんなにいい音をするスネアを持ってくるなんて、あたしゃ嬉しいよ……おーいおいおい」 とよく分からない泣き真似をしていた。 ライブは来週の火曜日なので、今日が最後の練習になる。 ここに来て、ライブ前最後の練習にして、私たちはまた一つ、大きな壁を越えた感じがある。 私と高橋くんのリズムの中で、なお先輩とセフィロスさんは生き生きと泳いでいる。 それは、とても自由で、無限大だ。 楽しい。 心の底から思う。 音楽って楽しい。 3月25日(火) ライブハウスで軽音楽部の三年生卒業ライブだった。 今日のライブは、私が音楽を始めてから、一番良いライブだった。 うん、断言できる。 私たちはすごいライブをやった。 一曲目、私がカウントをいれて、曲が始まった瞬間、 全員の出音が今までのどの練習よりも良いことに驚いた。 なお先輩が歌いだすが、一曲目だというのにものすごいテンション感だ。 それに呼応するようにセフィロスさんのギターも雄叫びを上げる。 高橋くんは私のビートにバチバチに合わせてくれて、ニヤッと笑った。 あのさ、 私ってさ、 中学校でいじめられててさ、 人よりも繊細で、すぐ不安になってさ、 些細なことで傷ついてさ、 でもさ、 そんなこと、もうどうでもいいよね。 私たち、今、すごいライブしてるよね! ライブハウスのステージを彩るライトの美しさとその熱さ、 そして、私たちの表現する芸術が、ただただ心地よかった。 ずっと、ここで演奏していたいな。 文化祭のライブで帰りたいなんて思っていた自分が嘘のように、そう思っていた。 ライブが終わった後、控室で、まだ興奮さめやらぬ感じのセフィロスさんが 「高橋くん、沖田さん、あとなお。ありがとう。すげー楽しかった」 と言ってくれた。 私も、すごくすごく楽しかった。 だから、なお先輩が 「このバンド、最高だよ。またやろう。今度は文化祭あたりで」 と言ったのに、すぐに賛同した。 みんなもそうだった。 3月26日(水) 昨日のライブの余韻に一日中浸ってた。 浸りすぎて、夕方のバイト中、 お客さんのお弁当をソースごと温めるところだった。 あっぶな! 仕事中はちゃんと仕事に集中しないとね。 3月30日(日) 今日はね、私が変わったなって思える出来事があったよ。 バイトの時に、中3で同じクラスだった子がお客さんとしてきたの。 私、高校生になっても、中学時代の同級生が近くにいると 何だか怖くて隠れちゃったりしてたんだけど、 今日はね、その子と堂々と向き合えたよ。 仕事だからそうするのが当たり前なんだけど、隠れたり逃げたりしないで、 一人の店員として、その子と向き合えたよ。 私はもうあの頃の沖田ひまりじゃないんだ。って、 変われたんだって思えて嬉しかった。 4月1日(火) 今度は文化祭あたりでまたやろう。 となお先輩が言っていたセーファ・セフィロスなんだけど、 文化祭よりずっと前のライブでの出演が決まった。 来週行われる軽音楽部の新入生歓迎ライブに、 セーファ・セフィロスに出演してほしいと連絡があったのだ。 私としては、あのメンバーでやれるのであれば、いつでもどこでもやりたいので すぐにOKした。 なお先輩も、セフィロスさんも、高橋くんもOKを出して、出演が決定。 うわああああああぁぁまたやれる! 来週またやれるんだ!! 楽しみだぁあああああああ!! 4月2日(水) 水曜日の夕勤のバイトはこの時間帯に入る新人さんが決まったので、 今日でラストだった。 私のわがままを聞いてくれて、本来この時間の担当じゃない私を 働かせてくれた店長と、一緒に楽しく働いてくれたパートのおばちゃんに感謝だ。 おかげでマイスネアを買うことができました。 ありがとうございました。 4月3日(木) 今日から新学年。 ひまりは高校二年生になりました。 えりちゃんと同じクラスになったよ! 同じクラスに軽音の人がいるの、嬉しいなあ。 4月4日(金) セーファ・セフィロスの練習。 まさかライブハウスでのライブが終わって二週間も経たないうちに、 またこのメンバーで音を出せるなんてね。 練習はやっぱり楽しくて、みんなの演奏のうまさ、表現力に圧倒されっぱなしだった。 私も私で頑張ったよ。 あ! そうそう! セフィロスさんは無事三年生になれたんだって! よかったよかった! 4月10日(木) 明日は新入生歓迎ライブ。 一年前に私が見て感激した舞台に、 今年は私が立つんだ。 時間の流れって面白いね。 新入生の心に残るようなライブが出来たらいいな。 頑張ろう。 4月11日(金) 新入生歓迎ライブ終了! ライブハウスで猛威を振るった(と思う)セーファ・セフィロスは、 学校内でも勢いを失うことはなく、その演奏が多くの新入生の心に響いたようだった。 ライブが終わった後にたくさんの人が入部したいって言ってくれたよ。 嬉しいなあ。 あとね、本番が終わった後、えりちゃんが 「ひまりちゃん上手くなりすぎだよお。私感動した!」 って言って泣いてた。 えりちゃん、ありがとう。 4月17日(木) 部室にいると、新入生が入部届をもってきてくれる。 今日はドラム希望の男の子が来てくれたよ。 特に経験があるわけではないけど、やってみたいって。 私も去年そうだったんだよ。って話をすると、その子は 興味津々に私の話をきいてくれて、 なんだか嬉しかったし、かわいかった。 「わからないことがあったら、私でよかったら教えるから、  なんでも聞いてね」 と伝えると、後輩くんは嬉しそうに 「ありがとうございます」って言ってくれた。 そのやりとりを見ていたえりちゃんが 「ひまりちゃんもすっかり先輩だね。ひまり先輩」 と言って、私は少し恥ずかしかったけど、悪くないかもって気分になった。 ひまり先輩、かあ。 中学校時代に部活に所属していなかった私としては、すごく新鮮な響き。 4月21日(月) 今日も入部希望の新入生が来たよ。 今日来たのは、子どもの頃にエレクトーンを習っていたっていう女の子。 なお先輩もちっちゃくてかわいいんだけど、それよりもちっちゃな、小動物みたい女の子だった。 「あ、あの……私は……キーボード希望で……ゲームの曲とかを……やりたい……やることを所望します……」 って言ってて、きっとこの子は、部室に来るのも勇気が必要だっただろうに、 こうやって何がやりたいかまで伝えて、 すごく頑張ったんだろうなあって思えて、心が暖かくなったし、力になりたいって思った。 「うんうん。素敵だね。もしもバンド決めの時にドラムが決まらなかったら、私に声をかけてね」 私がそう告げると、その小動物みたいな女の子は嬉しそうにしていた。 私は、後輩たちに対しては、思いっきり優しくしたいと思う。 やっぱり、新しい環境に身を置くのは勇気がいることなのだ。 だから、そういう子たちが頑張って部室に来てくれていることに対して、 私はめいっぱいの優しさで応えたいと思う。 4月23日(水) 7月ライブに向けてのバンド決めだった。 一年生でドラム希望で入部した子が、この前来た後輩くんしかいなくて、 彼はいきなり2バンドの掛け持ちになったみたい。 う~~ん、いきなり2バンドってなかなかの負担だよね。 それでも後輩くんは頑張ってみたいって言ってて、 私、彼のことを応援しようって決めた。 私はというと、久しぶりの絶滅危惧種と、あとは、 この前入部希望を出してくれたキーボード希望の子とバンドを組むことになった。 メンバーは、キーボード希望の一年生と、ブラントベールの時にベースを弾いていた先輩と、私の三人だ。 ブラントベールのベースの先輩に、 「沖田、あの時はごめんな。フォローできなくて」 って言われて、 ベースの先輩だってあの時は大変だったはずなのに、 そういう風に言ってもらえたのが嬉しかった。 4月24日(木) 一年生のドラムの子、未経験なのにいきなり2バンドやることになって大変そう。 何か手伝えることあったら手伝いたい。 みたいな話をえりちゃんにしたら 「だったらひまりちゃんが教えてあげればいいじゃん」 って言われた。 確かに! 4月25日(金) 放課後、すごく久しぶりに絶滅危惧種の練習だった! いや~、やっぱりこのメンバーで音を出すのは楽しいね。 3月のライブで先輩とのバンドを経験したえりちゃんは、またまた上手くなっていた。 「どーも、帰ってきた絶滅危惧種です」 高橋くんがマイクを通してそんなことを言っていて、MCみたいだなって思って笑っちゃった。 4月26日(土) キーボード希望の一年生の子、竹ノ内りかさんのバンドでやる曲を聴いてる。 ソシャゲの曲って聞いてて、どんな感じなんだろと思ってたけど、すごくいいなあ。 生演奏でどこまで再現できるのかわからないけど、竹ノ内さんが音楽を楽しいって思ってもらえるように 私は私の全力を尽くそう。 4月27日(日) バイト中、愛川さんに、 「一年生のドラム希望の後輩くんが未経験なのに2バンドもやるんですしかも頑張るって言ってて  私それ聞いてすごく応援したくなっちゃって」 と話した。 愛川さんは、ふふ、と優雅に笑い 「それは……応援したくなりますね。その後輩さんも、沖田さんも」 と言った。 沖田さんもってどういう意味なんだろう。 って聞こうとしたらお客さんが入ってきたので会話は打ち切られた。 4月28日(月) 竹ノ内さんのバンドの練習だった。 彼女はその小柄な体躯とは不釣り合いな大きなキーボードと、あともう一台小さ目のキーボードの合計二台のマイ楽器を持参していた。 マイ楽器が二台。この時点で、もしかして……みたいな空気があった。 「じゃあ、この曲は私がワンツースリーフォーってカウント入れるから、それに合わせて入ってもらうって感じでいいかな?」 「は、はい……その形を所望します……」 曲の前にそんな会話があって、私がカウントを入れて、曲が始まった瞬間、不可解な感覚に襲われた。 これ、誰かが音源をスピーカーから流している? リズムも、音程も、音の厚さまでもが完璧、こんな演奏、生で出来るわけがない……と思っていたら、 竹ノ内さんが二台のキーボードを使って演奏していた。 意味が分からない。 どうして、こんなことが出来るの? 繊細で、大胆で、普段会話している姿からは想像もつかないような彼女の演奏する姿と、 その指先から作り出される完全な世界に圧倒され、最初の曲は終わった。 「え! やべ~! これやべ~よ!」 曲が終わった後、興奮気味にベースの先輩が話した。 「所望ネキさ、めちゃくちゃ上手くね!? うわーマジすげー新入生来たわ」 所望ネキ、という謎の呼び方をされた竹ノ内さんは、咄嗟に移動し、私の背後に隠れた。 本当に小動物のようだ。 「あれ? もしかして俺、何かまずいこと言っちゃったかな。ごめん」 そう告げる先輩に対し、竹ノ内さんは 「い、いえ……私、褒められたり、あだ名をつけられたり、そういう経験があまりなくて……  恥ずかしいのと、嬉しいので……隠れちゃいました」 と返した。かわいい。 所望ネキちゃんは、中学校時代、あまり友だちがいなくて、ずっとエレクトーンの練習をしていたらしい。 少しだけ、私に似ているなと思った。 練習後、バンド名を決める会議が始まった。 「このバンドは所望ネキちゃんが主役なんだから、好きなものを言ってみてよ」 「あ、ありがとうございます……。実は……いくつか考えてきてまして……」 少し恥ずかしげに、バンド名のアイデアを書いた紙を渡される。 シュポガキ、補修部、Luminous Memories、Usagi Flapsなどなど、たくさんの候補名がある中で、 私たちのバンド名はUsagi Flapsに決まった。 所望ネキちゃんの演奏、本当にすごかったなあ。 あの子もなお先輩やセフィロスさんと同じ、「本物」だ。 4月30日(水) 一年生のドラムの後輩くんのバンド練習があったから、見学してきたよ! あのね、後輩くん、すっごく頑張ってた! 未経験だって言ってたから、今日のバンド練習まで、 きっと一人でたくさん勉強して、練習してたんじゃないかなあ。 初めてのバンド練習なのにちゃんと曲になってたし、 途中でちょっとだけ難しそうな場面はあったけど、 きっとすぐに叩けるようになると思う。 とっても良かった! だから、練習終わった後、拍手しちゃった。 ちなみに今、拍手したのうざかったらどうしようってちょっと悩んでる。 後輩くんが頑張ってるのに感激しちゃって、つい……。 5月1日(木) 昨日の後輩くん、すっごく素敵だったなあ。 未経験だってことから、私がドラムを始めた一年前と重ねちゃうかも。 頑張ってて偉いね。ってよしよししてあげたい。 うわ~~~~~何書いてるんだ私!! 5月6日(火) 今週の木曜日放課後から、 「沖田ひまりのドラム教室」をやることになった! これは、頑張っている後輩くんの手助けができればいいなと思って考えた企画だ。 軽音楽部にはドラマーが少ないので、他のパートの人もドラムを叩けるようになれば、 それはそれで良いんじゃないかというえりちゃんの提案で、 希望者を募って集まって、教えるということになった。 後輩くんとマンツーマンで教えるのもいいなって思ってたんだけどな……。 いやいや、とにかく、ドラムレッスン、頑張るぞ~! 5月8日(木) 今日はひまり先輩のドラム教室だった。 当初、「沖田ひまりのドラム教室」って名前だったんだけど、 参加したえりちゃんとなお先輩が 「ひまり先輩のドラム教室」の方がいい、というのでそうなった。 あのね、後輩くんが習いに来てくれたよ! それにね、私が教えたこと、すぐに覚えてくれたし、実践してくれた。 すごいよ! キミは覚えるのが早い子なんだね。 きっとすぐに私よりも上手くなるんだろうね。 簡単にはできないことも、放り出したりせずに、何度も挑戦している。 その姿はすっごく輝いてて、胸を打たれたよ。 今日のレッスンが、彼の役に立ったらいいなあ。 そう言えばね、レッスンの参加人数が意外と多かったの! えりちゃんは前から来るって言ってくれてたけど、後輩くんに、 なお先輩に、高橋くんに、あと所望ネキちゃんも来てくれたの! 所望ネキちゃんは 「わ、私……将来は、ゲームの作曲家になることを所望しており……  そのために、ドラムも学べればいいと思って……はせ参じました……」 と言っていた。 将来の夢があるのって、眩しい。 私の後輩たちは、すごく眩しくていい子ばかりだ。 うん。今日もいい一日だった。 5月11日(日) バイトだった。 お客さんがいない時間に愛川さんが 「そういえば、沖田さんの後輩のドラム希望の方は、その後どんな感じですか?」 と聞いてくれたので、この前のドラム教室のことを話した。 そうすると愛川さんは、ふふ……とまた優雅に笑い 「それで、沖田さんはその後輩さんのことをどう思ってるのですか?」 と聞かれた。 え? ただ、頑張ってて偉いなって、応援したいなって思ってるだけですよ。 と答えたかったけど、答える前にお客さんが来て、 またしても私たちの会話はそこで途切れた。 5月12日(月) Usagi Flapsの練習だった。 所望ネキちゃんはやっぱり普段話しているときと、演奏しているときでは別人だ。 そういえばセフィロスさんもこんな感じだったなあ。 セフィロスさんは演奏時、狂気に取りつかれ、燃え上がる炎のような感じになるけど、 所望ネキちゃんは繊細で美しい世界を創造しているかのようだ。 無垢な少女がお人形遊びで自分の世界を作るような感じで、指先から紡ぐ音たちで世界を作っている。 音で世界を作る……タイプとしてはなお先輩に近いのかも。 圧倒的な実力を持つ人と演奏するのは楽しい。 楽しくて楽しくて、練習時間がすぐに過ぎた。 5月14日(水) 後輩くんのバンド練習をえりちゃんと一緒に見学してきた。 今日も後輩くん頑張ってたよ! この前上手くいかなかったところもできるようになってて、さすがだなあって思った。 「お~、ひまりちゃんの弟子、上手だね」 えりちゃんがそう発言したとき、嬉しいような恥ずかしいような、 あと、「私の弟子」っていうのは何だか彼に対してちょっと申し訳ないような、 いろんな感情が入り混じった複雑な気分になった。 でも、一番大きな感情としては「嬉しい」だ。 今日もお疲れさま。 練習何回も見に来て、うざかったらごめんね。 キミの演奏、かっこよかったよ。 5月15日(木) ひまり先輩のドラム教室だった! もし後輩くん来なかったらどうしようって思ってたけど、 ちゃんと来てくれたよ。 しかもね、自分が叩けるようになりたいポイントをまとめてきて、 私に教えてくれたの! 自分で空いた時間にスタジオに入って、それでまとめてきたんだって! もう! 偉いっ! 偉すぎるよ! ただ習うだけじゃなくて、自分のやりたいことをちゃんと考えて、それを伝えるなんて 本当に偉いと思う。 だから私もそれに応えられるように一生懸命教えたよ。 あと、なお先輩が上手になっててびっくりした。 「いやいや、ひまりが教えるのが上手だからさ~」 と言ってくれたのが嬉しかったし、 えりちゃんも、所望ネキちゃんも、後輩くんも頷いてくれてるのが嬉しかった! 5月29日(月) 絶滅危惧種の練習だったよ。 テスト明けだからか、みんなのテンションが高くて楽しかった。 演奏のクオリティはもうバッチリで、 後はライブに向けて細かいところを詰めていくだけ。 いいライブがしたいなあ。 絶滅危惧種も、Usagi Flapsも。 いいライブをして、それを後輩くんに見てもらいたいな。 6月10日(火) なお先輩は七月のライブに弾き語りで出演するんだけど、 その練習を見学させてもらった! めちゃくちゃすごかった! 窓越しに見える夕暮れの空と、6月の湿った空気、揺れるカーテン、 そこになお先輩の歌が加わって、まるで映画の1シーンのようだった。 やっぱりなお先輩はすごい。 この空間に後輩くんもいてほしかったかも。 一緒になお先輩の歌をきいて、感動を共有したかった。 まーた何書いてるのって感じだけど、ここは私の本音日記だから許してね。 6月17日(火) 廊下で後輩くんとすれ違ったよ。 お互い会釈した。 それだけで、心がほっこりした。 6月30日(月) 今日から期末テストだぁ~。 テスト自体は別に嫌ではないんだけど、部活がないのが嫌だよお。 バンドやりたいし、後輩くんの演奏見学したいし、ドラムを教えたい。 7月3日(木) 期末テスト四日目。 テストがなかったら後輩くんにドラム教えられてたのになあ。 んも~。 7月6日(日) バイトだった。 熱中症警戒アラートが発令されていたからか、 お客さんは少なめ。 だから、愛川さんといろいろお喋りしちゃった。 「沖田さんは、その後輩さんのことを、好きなのではないですか?」 後輩くんの話になったとき、愛川さんにそう言われた。 「す、好き? 好きって、恋愛的なやつですか?」 「そう。Like ではなく、 Loveです」 予想だにしていない言葉を投げかけられ、 私は耳まで真っ赤になっているのを感じた。 「そ、それは分かりません……」 そう答えて、少しの間沈黙が流れた。 好き、かあ。 私はただ、後輩くんのことが気になって、 コミュニケーションをとれるのが嬉しくて、 ドラム頑張ってるの素敵だなって思ってて、 一緒にいろんな経験をしてみたいなって思ってるだけで、 別に好きってわけじゃないと思うんだけど…… ああ~~書いててよくわからなくなってきちゃった! 今日の日記おわり! 7月7日(月) Usagi Flapsライブ前最後の練習だった。 絶好調だった。 このバンドは所望ネキちゃんの素晴らしい実力によって7月のライブの台風の目になる気がする。 それぐらいすごいクオリティだ。 「な、何だか……今日のひまり先輩のドラム……いつもよりもキラキラしてて、  でも暖かくて……それでいて楽しそうで……すごく素敵ですね……」 って所望ネキちゃんに言われちゃった。 なお先輩もそうだけど、この人天才かもって人は、 音楽について語るとき、理論ではなく特有の感覚で言語化する傾向がある気がする。 7月9日(水) 後輩くんのバンド練習を見学しに行こうと思ったんだけど、 途中でこの前愛川さんに言われたことを思い出して、 すごくドキドキしてきちゃって、 どんな顔して後輩くんに会えばいいのか分からなくなって、 今日はやめておいた。 7月10日(木) やったぁあああああぁぁ! 後輩くんと連絡先交換しちゃった! 今日はドラムをみんなに教える日で、 来週はライブだし、ライブ後のみんなの予定も分からないということで、 ひとまず今日で一区切りってことになったんだけど、 「また分からないことあれば何でも聞いてね」 って後輩くんに言ったら 「あ、じゃあ連絡先教えてほしいです」 って! うわ~~~~~~! どうしてこんなに嬉しいんだろうって思うぐらい嬉しい! これで後輩くんにメールできるし、通話も……。 ああぁいろいろ考えちゃうよ。 やっぱり、好きなのかなあ。 7月12日(土) 海の見える公園に行ってきたよ。 最近、いろんなことが起こって、 嬉しいこといっぱいだったけど、 ちょっとゆっくり考える時間が欲しいなって思って。 私、後輩くんのことをどう思っているんだろう。 よく晴れた日差しの中、波の音を聴きながら、ゆっくり考えた。 潮風が気持ちよかった。 すごく暑かったから、コンビニで買ったスポーツドリンクがとっても美味しかった。 暑いね。美味しいね。 そういう感情を、彼と分け合いたいし、彼の感情も私に共有してほしい。 そうか、そういうことか。 まだ確証は持てないけど、きっと……。 7月16日(水) 二日間に分けて行われる軽音楽部の放課後ライブの初日だった。 私は今日はUsagi Flapsで、明日は絶滅危惧種で出演することになっている。 会場にセフィロスさんがいて、なお先輩に 「お、セフィロスじゃん! たまには顔出せや」 と言われていた。 Usagi Flapsのライブ前、所望ネキちゃんが緊張した面持ちで、体が少し震えているように見えた。 一年前の私もこんな感じだったのかな。 少しでも楽になれたら、と思って、彼女の手を握った。 「大丈夫。怖くないよ」 そう告げると、所望ネキちゃんはすがるように、小さな体を私に寄せてきた。 私は軽く彼女を抱きしめた。 本番。 「あ、あ、ああ、あの、Usagi Flapsです。よよろしくお願いします……」 開始前の所望ネキちゃんのマイクを見て、 会場が暖かい空気に包まれた。 緊張している一年生のライブを優しく見守ってあげよう。 そんな空気だ。 しかし、演奏が始まるとその空気は大きく変わった。 きっと、私がこのバンドの最初の練習で感じた驚きと畏怖を会場にいる誰もが感じたのであろう。 本番前の緊張が嘘のように、 所望ネキちゃんはいとも簡単に世界の構築に成功した。 上手い。という言葉では表現できない。 こうも美しく、かわいらしく、そして繊細な音たちが躍動する時間を作れるものなのか。 ああ、これ、練習よりやれてるな。 このバンド、今回のライブの台風の目になるかもって思ってたけど、 本当にそうなったかもなあ。 客席を見ると、セフィロスさんが呆気にとられたような顔をしていて、 なお先輩も驚いた顔をしていた。 Usagi Flapsのライブは、大成功に終わった。 ライブ終了後にセフィロスさんが所望ネキちゃんに 「す、すごく良かったです!」と何故か敬語で話しかけ、 所望ネキちゃんは4月のときみたいに私の影にかくれて、 そこから 「あ、ありがとうございます……」 と返していた。かわいいなあ。 明日は絶滅危惧種のライブ、その前がなお先輩の弾き語りで、 その前は後輩くんのバンドだ。 うわあああああ後輩くんのバンド見るの楽しみだなあああぁ! 7月17日(木) 今日は絶滅危惧種のライブであり、なお先輩のライブであり、後輩くんのライブだった。 後輩くんのライブ、すごく良かった。 速い曲や激しめの曲もやってて、 高校に入ってから始めて、ここまでやれるようになるんだ。 すごいなって思った。 彼は本当に頑張り屋さんで、 ちゃんと努力して、ちゃんと上達して、 出す音はすごく素敵で、 ステージでの姿はとってもかっこよくて、 私は、彼のことが好きなんだってようやく気付けた。 本当によく頑張ったね。 初めて見たときとは別人みたいだよ。 あの時もよかったけど、今日はもっとよかった。 かっこよかったよ。 いろんな言葉を彼にかけてあげたかった。 でも、好きって気づいたとたん、そういうことをするのが少し怖くなった。 その後のなお先輩の弾き語りは感動的だったし、 絶滅危惧種のライブも過去一番ってぐらい出来が良かった。 うん、いい日だよ。 すごくいい日。 今の私は、後輩くんのことを好きになったってことに気づいて、 自分が恋をしていることを自覚して、 何だかふわふわしている。 ふわふわしていて、何だか心地よい感覚だ。 すき。 すき。 だいすき。 今日のライブかっこよかったよってメール送ろうとしたけど、 夜中だし、それでうざいって思われたら嫌だからやめておいた。 7月19日(土) 昨日終業式で、今日から夏休みなんだけど、私は学校へ向かった。 夏合宿のバンド決めがあるからだ。 夏合宿! 後輩くんも参加するんだよ。 ということは、数日間、後輩くんと一つ屋根の下で生活するわけであって……。 うわああああああああ考えるとやばいよおおおおおお。 朝ご飯も夜ご飯も一緒の場所なのかな。 まってまってそんな風になったら私緊張してご飯食べられないかもしれないじゃん。 なんてことをバンド決め中に考えていたら、所望ネキちゃんに声をかけられた。 「あ、あの……合宿でもUsagi Flaps……やりたい……やることを所望します……」 所望ネキちゃんも合宿に参加するみたい。 Usagi Flapsの継続に断る理由はなく、前回と同じメンバーでやることに決まった。 私の夏合宿のバンドはUsagi Flapsと、 えりちゃんとベースの一年生と私の3ピースバンドの二つに決まった。 一年生のベースの子、この前のライブでえりちゃんの演奏を見て感激して、 「この人とバンド組みたい!」って思ったんだって。 えりちゃん、すごい! 私の大好きな後輩くんもバンド決まったみたい。 本音を言えば私も後輩くんとバンド組みたいよお。 一緒に音を出してみたい。 さっきここにいろんな妄想を書いちゃってたんだけど、さすがに恥ずかしくなったので消した。 はぁああ~。 夏合宿、楽しみだなあ。 8月9日(土) Usagi Flapsでスタジオ練習してきた。 合宿でやる新曲をやったけど、すごくいい感じにやれたよ。 今日の感じだと合宿では問題なさそう! 8月11日(月) 来週は合宿。 来週には後輩くんに会える。 でも、来週まで待つのは長い。 メールを送りたい。 でも送るのが怖い。 8月12日(火) ずっと後輩くんのこと考えてた。 すきだよ。 だいすきだよ。 こんなこと言ったら引かれるかな。 でも、だいすきだよ。 あいたいよ。 8月15日(金) なお先輩と、所望ネキちゃんとご飯食べてきた! なかなか新鮮な顔合わせだ。 なお先輩が言ってたけど、 二学期から、毎週木曜日はシフト制でドラムの個人練習が出来るようになるんだって。 いつもスタジオで個人練習をしている私にとっては嬉しいニュースだ。 それに、後輩くんも個人練習できるだろうし、 それを私も見学できるだろうし……。 ドリンクバーでオレンジジュースだけを飲む所望ネキちゃんに、 いろんなドリンクを混ぜたオリジナルカクテルを作るなお先輩。 こういうのって、人それぞれの個性が出て面白い。 「そういえばさ、今年の合宿所のお風呂、露天らしいよ」 なお先輩がそう言った瞬間、所望ネキちゃんがビクっと震えた。 「ろ、露天って、そそそその、男子の方が……覗きとか……しないですよね……?」 「ははっ。するわけないじゃん。まあもしされても私がドロップキックするから大丈夫」 なお先輩は自身満々にそう言ってたけど、何が大丈夫なのかちょっと分からなかったや。 でもさ、私は、私単体だったら、別に後輩くんにだったら覗かれてもいいかも、って思っちゃった。 でもそのかわり、後輩くんがお風呂に入るところも見せてほしいな。 あ、何だったら一緒にお風呂に入ってみたりとか、ってうわあああああああああああああああああああああ って妄想が暴走していたら、 「ひまり、顔が赤いよ。大丈夫?」 ってなお先輩に心配された。 もう! みんなでご飯食べてるときに、何考えてるの、私。 8月17日(日) 明日から合宿。 後輩くんに会える! あああああ早く会いたいなあ。 この一か月、会えない期間、すっごく長かったよ。 明日から何日も一緒に過ごせるなんて、夢みたい。 今日はバイトの後、少し長めに個人練習してきた。 Usagi Flapsの曲も、えりちゃんのバンドの曲もバッチリ。 これで心置きなく合宿を楽しめるぞ~。 8月21日(木) ただいま~。 合宿最高だったよ。 めちゃねむいのでおやすみ~ 8月22日(金) 昨日合宿のことを振り返ることが出来なかったので、今日の日記で振り返ろうと思う。 感情がジェットコースターのように動いた合宿だったよ。 まず、Usagi Flapsも、えりちゃんのバンドも、どちらもめちゃくちゃいいライブが出来たし、 後輩くんのバンドもすっごく良かった! それ以外のところでは、こんなことがあった。 初日の夜ご飯の後、後輩くんと所望ネキちゃんが二人で話してるの見かけちゃって、 何だか二人とも真剣な顔をしてて、すっごく心がざわざわした。 何を話してるんだろう。 もしかして、後輩くん、所望ネキちゃんのこと、好きになっちゃった? あるいは所望ネキちゃんの方が? 今思い出しても胸がずきんってする。 こんな展開、私は所望していないんだけどなあ。なんてことを思いつつ、 就寝時間を迎えると、同室だった彼女が私に話しかけてきた。 「ひ、ひまり先輩……まだ、起きていますか?」 「うん、起きてるよ」 「ひまり先輩に話したいことがあって、少しだけいいですか……?」 所望ネキちゃんは部屋の外で話すことを希望し、私たちは廊下の先にある休憩所へ腰をかけた。 「で、どうしたの?」 「あ、あの……一年生のドラムの子、いますよね? ひまり先輩の弟子の……」 「うん」 平然を装っていたけど、私の心臓はすごい勢いで鳴っていた。 「あの子……その、またひまり先輩にドラムを教えてほしいけど、  どういう風にお願いしたらいいか分からないって言ってて……。  その……ひ、ひまり先輩がよかったら、合宿中の空き時間に、  また教えてあげて欲しい…教えることを所望します……」 彼女が言い終えた瞬間、いろんな感情が私の中にこみあげてきた。 ごめん! ごめんね! 所望ネキちゃん、私勝手にいろんなことを考えて、いろんな気持ちになっちゃってごめんね! こんなの、予想していなかった。 こんな嬉しいことがあるなんて。 こみ上げてきた感情……嬉しさと、勝手に嫌な気持ちになった申し訳なさでいっぱいになった私は、 所望ネキちゃんをぎゅうっと抱きしめた。 「分かった。伝えてくれてありがとう」 翌日、スタジオの空き時間に個人練習をしているという彼の元へ向かった。 少し驚いた顔の彼に、 「やっほー、私だよ! ひまり先輩だよ」 と声をかける。 ねえ、私に教えてほしいと思ってくれてありがとう。 私も、キミにドラムを教えたかったよ。 キミと一緒にいたかったよ。 今、すごく嬉しいよ。 その日から最終日まで私はずっと浮かれ気分で、 どういうわけか所望ネキちゃんもあの夜以来私にすごくなついてくれて、 最終日の夜は朝方までずっとお喋りしちゃった。 いやぁ~楽しい合宿だったなあ! そういえばね、後輩くんもスタジオで結構個人練習してるんだって。 頑張り屋さんだね。素敵だよ! 8月23日(土) 合宿の幸せな余韻が少し抜けてきた頃、 不安や自己嫌悪が襲ってきた。 私、後輩くんにドラム教えたの、タイミング大丈夫だったかな。 もし集中しているタイミングだったら、嫌だったかもな。 それに、所望ネキちゃんに勝手にやきもち妬いちゃったの、 私ってすごく嫌なやつだなあって思う。 勝手に変なこと考えて勝手にやきもち妬いて。 今日はちょっとそういうこと考えて、勝手に沈んでいた一日だった。 気分を変えたいと思って海の見える公園に行ったけど、 そこでもそのこと考えちゃって、少しだけ泣いちゃった。 私ってこういう部分あるんだよなあ。 後輩くんが私のこういうとこ知ったら、嫌われちゃうかな。 嫌だな。 8月24日(日) 昨日はメンタルやばかったけど、寝たら復活した。 よかったぁあ~。 バイトして個人練習してきましたよっと。 8月31日(日) 夏休み最終日。 セーファ・セフィロス会議がファミレスで行われた。 三月のライブ終了後、文化祭あたりでまたやろう。 と口約束をしていたセーファ・セフィロスは 新メンバーに所望ネキちゃんを加えたい。 という話になった。 彼女が加わることで更にすごいバンドになれる。と、 提案したのはなお先輩で、セフィロスさんはそれに強く賛同した。 私も、高橋くんも、断る理由がなかった。 私はシンプルに、なお先輩、セフィロスさんというめちゃくちゃすごい先輩たちの中に 所望ネキちゃんというこれまたすごい子が加わることで、 どんな化学反応が生まれるのか見てみたい。 もしかすると、とんでもない最高のバンドになったりして……! 明後日のバンド決めの時に声をかけてみようということで今日は解散になった。 うわ~~~期待しちゃうなぁああ~!! 9月2日(火) 文化祭ライブのバンド決め。 所望ネキちゃんにセーファ・セフィロスでキーボードをやって欲しいことを伝えると、 少し考えた後、 「は、はい……頑張ります」 と言って、引き受けてくれた。 やったぁ!! なお先輩、セフィロスさん、所望ネキちゃん……この三人が同じバンドに集まる日なんて、 夢のオールスター戦みたいな感じだよ。 そのバンドの土台を支えるのが私と高橋くんのリズム隊。 そう考えると、すごいよね。 高揚感と緊張感が同居してるような感じがする。 頑張る。 私、頑張る。 9月3日(水) 毎週木曜日のドラムの個人練習のシフトなんだけど、 率先して練習したがっているのが私と後輩くんの二人だったので、 この二人で基本回していくことになった。 来週と再来週が後輩くんで、 その後は私が個人練習。 明日の後輩くんの練習、見学に行っちゃおうかなあ~! 9月4日(木) ど、ど、どうしよう。 私、軽率だったよ。 男の子のこと、全然わかってなかった……。 えっとね、今日、後輩くんのドラム練習の見学に行ってね、 それで、アドバイスが欲しいって言われたから、いろいろアドバイスしてたら つい体が密着しちゃって、 その、後輩くんの男の子の部分が大きくなってたの……。 私、それに気づいたとき、どうしていいか分からずに、 逃げるように帰って来ちゃった。 どうしよう、どうしよう。 今度会うとき、どういう顔をすればいいんだろう……。 9月5日(金) ずーっと昨日のこと考えてた。 後輩くんのズボンが膨らんでたってことは、 私のこと、一人の女として魅力を感じてくれてるのかな。 それとも、女の子なら誰でもいいのかな。 もしも前者だったら…………。 9月7日(日) バイトして個人練習をしてきた。 後輩くんのことが気になって仕方がないけど、 今は、明日に迫ったセーファ・セフィロスの練習に集中するべきだ。 9月8日(月) 所望ネキちゃんを加えたセーファ・セフィロスの練習だった。 もともとすごかったセーファ・セフィロスはさらにすごくなり、 化け物を超えた化け物のようなバンドになっていた。 セフィロスさんは、更にギターの腕に磨きがかかっているように思えたし、 そのセフィロスさんと互角に渡り合い、共に世界を作っていく所望ネキちゃん。 そして、その世界の中心で唄うなお先輩。 それを私と高橋くんの二人で支える。 これだ。 この感覚だ。 この感覚こそが、音楽をやる喜びなんだ。 「やばっ。初の音合わせでこれとか、すごすぎるわ」 なお先輩が満足そうにそう言った。 みんなも満足そうだった。 9月10日(水) 明日、後輩くんの個人練習、見学に行ってもいいかなあ。 この前のことがあるから少し気まずいんだよね。 でもさ、ああいう風になる原因を作っちゃったのは私であって、 そのことをちゃんと謝るべきだと思うし、 それでまた仲良くなれたらいいな、とか……。 うん、神妙な感じじゃなくて、いつもの感じで声をかけてみよう。 あとね、私、ちょっといけないこと考えちゃってる。 ここは本音日記だから書くね。 後輩くんって、もしも私のことを女として見てくれているとしたら、 その、もしかして、私のこと考えて、一人でしてたりするのかな……。 ううううう、書いててドキドキしてきちゃった。 もしそうだったら、ちょっと嬉しいかも……なんて。 わぁあああああああああ何書いてるんだあああもうおわり! 9月11日(木) しちゃった。 今もドキドキしてるし、その光景を思い出してキュンってする。 後輩くんがね、私の画像見ながら一人でしてるの、偶然見かけちゃって、 それで、そのお手伝いをしちゃった。 男の人のものを見るのも、触るのも初めてだった。 嫌がられたらどうしようって思いもあったけど、 私の画像を見ながらしてたって事実が、 私を行動に移らせてくれた。 後輩くん、すっごく、すっごくすっごくかわいかったし、 かっこよかった。 でもさ、付き合ってもないのにこういうことするのって良くないよね。 だから、ちゃんと私の気持ちを伝えなきゃって思って、 日曜日に私の家でお話しようって約束したよ。 その時に、告白しようと思う。 9月13日(土) 明日、後輩くんに告白するね。 怖いけど、頑張るね。 9月14日(日) すっっっっっっっっっっっっごく幸せな一日だった!!!! バイトの後、すぐに帰宅して、その後に後輩くんが家に来てくれて、 それで、彼に告白したよ。 そうしたらね、後輩くんも、私と付き合いたいって言ってくれて、 私たちは彼氏彼女の関係になった。 私の本当の気持ちを伝えるの、怖かったけど、 それをちゃんと彼は受け止めてくれて、付き合いたいって言ってくれて すごく嬉しかった。 今も心がふわふわした感じだよ。 大好きな人と付き合えるって、こんなに嬉しい気持ちになるんだね。 はあぁ、中学校時代、友だちがいなくて、いじめられてた私がこんなに幸せになれるなんて。 人生って分からないものだなあって心から思う。 恋人同士になれたのが嬉しくて、いっぱいぎゅうってして、キスもして、 そのまま、えっちもしちゃった。 彼のこと、好きで好きでたまらなくて、愛おしくてたまらなくなって、 押し倒しちゃって、そのまま……。 裸になって、彼と繋がるの、心も体も一緒になれて、 気持ちよくて、幸せだった。 うん、今日は本当に幸せな一日だったよ。 後輩くん、私を彼女にしてくれてありがとう。 だいすきだよ。 だいすき。 9月15日(月) 学校はお休みだけど、セーファ・セフィロスの練習だった。 昨日のことが嬉しすぎて、それが尾を引いて演奏に集中できなかったらどうしようかと思っていたけど、 そんなことは全然なくて、むしろ演奏に感情が乗った。 面白いなあ。 セフィロスさんが 「沖田さん、今日の演奏、感情が入っててすごくいいね」 と褒めてくれた。 セフィロスさんに褒めてもらえるなんて、すごく珍しいことで嬉しかった。 なお先輩は 「ってかひまり、今日やけに『女』なんだよね。空気感が違うって言うかさ。何かあった?」 と聞いてきた。 うわぁああああああああああなんでこの人ってこんなに勘がするどいの!?!? 後輩くんとお付き合いすることになってキスもえっちもしちゃいました、なんて言えるはずがなく、 どうしようどうしようと思ってたら、所望ネキちゃんが次の曲をやることを所望してくれて事なきを得た。 はあああドキドキしたぁああ。 9月16日(火) セーファ・セフィロスが文化祭の体育館ステージでライブをすることに決まった! あとね、後輩くんのバンドも私たちの出番の二つ前に同じ場所でライブをするみたい! 私も彼氏も体育館のステージに上がれるなんて、すっごい嬉しい! 9月17日(水) 今日は通話でたくさんお話しちゃった。 後輩くんの好きな食べ物とか、音楽以外の趣味とか、いろんなことを教えてもらったよ。 後輩くんは自身のことをたくさん教えてくれる。 私は……私が繊細であることを、どこかで打ち明けるべきなのか、隠し通すべきなのか迷っている。 本当は打ち明けたい。 きっと彼だったら受け止めてくれるんじゃないかって期待もある。 でも、明るくて優しい沖田ひまりが、実は繊細で傷つきやすいって分かると、 幻滅されてしまうんじゃないかって怖さも同じぐらいある。 通話しているときは心がポカポカして温かかったけど、このことを考えると、少し不安になってきた。 もう寝よっと。 今日、いっぱいお話してくれてありがとう。 大好きだよ。 9月21日(日) 愛川さんが今月いっぱいでバイトやめちゃうんだって! うわぁあああああショックだよぉおおおおおおおお! 愛川さんは高校三年生なので、受験勉強に専念するために辞めるそうだ。 残念だけど、でも、中学校時代から私は愛川さんの神接客に何度も癒されてきて、 一緒に働くようになってからは、職場の先輩としてすっごく優しくしてくれたので、 「今まで本当にありがとうございました。受験、頑張ってください」 と伝えた。 「こちらこそ、ありがとうございました。10月からは、職場の仲間ではなくて、友人としてよろしくお願いしますね」 愛川さんはそう返してくれて、私は飛び上がりそうなぐらい嬉しくなった。 バイトを辞めても、私とは仲良くしてくれるみたいだ。 愛川さんと連絡先を交換したので、さっきメールしてみた。 そうしたら、丁寧な文章とかわいいスタンプが返ってきたよ。 愛川さん、これからもよろしくお願いします。 9月25日(木) 今日は私の個人練習を、後輩くん……大好きな彼氏が見学してくれた。 大好きな人に練習を見てもらえるのは、嬉しいような、恥ずかしいような、不思議な気分だったよ。 練習が終わった後、片付けをして部室に戻ったら誰もいなかったから、 私がおねだりしちゃって、そこでまたえっちをした。 学校でしたいなんて、どれだけえっちしたいんだよって感じなんだけど、 彼はそんな私の欲望を受け止めてくれた。 もっと好きになった。 大好き。 だいだいだいすき。 9月28日(日) 愛川さんがバイトラストの日だった。 いつも通りの日曜日、9時から15時までの6時間。 私、アルバイトのことをしんどいと思ったことは一度もなくて、 それって、愛川さんが一緒に働いてくれてたからなんだろうなあって思うと、 感謝の気持ちでいっぱいになった。 シフト交代のときに、夕勤の人たちと店長が、 愛川さんに花束を渡していて、愛川さんは涙ぐんでいて、 いい職場だなあって思ったよ。 愛川さん、今まで本当にありがとうございました。 9月29日(月) 「あなたの其の瞳(め)が頷く瞬間(とき)に  初めて生命の音を聴くのです」 文化祭ライブでセーファ・セフィロスが最後にやる曲の練習中、 なお先輩がその部分を歌ったとき、ドラムを叩きながら涙が溢れた。 どうしてか、後輩くんのことを思い出して、叩きながら、胸がいっぱいになったのだ。 やっぱり、なお先輩はすごい。 一緒に演奏しているだけでこんなにも感情が揺さぶられる。 バンドの演奏はもはや完璧で、もう特にやることもないかなって状態になっていた。 そんな折、なお先輩が発言する。 「所望ネキちゃんさ、アウトロのところ、もう手加減しないでいいよ」 「え……え?」 「私が歌い終わった後、ひまりの長いフィルがあって、その後はギターとキーボードが主役だから。  所望ネキちゃんはそこでは本気出していいってこと」 手加減している? 本気を出していない? 「所望ネキちゃんは本当に賢いし、優しい子だよね。  Usagi Flapsの時とはタッチを変えて、ちゃんとこのバンドに合うようにやってくれてるの、  私もセフィロスも分かってるよ。  だから私、すっごい歌いやすかった。  ここまで、私に主役を譲ってくれてありがとう。  だから最後のところは、所望ネキちゃんが輝いて」 「あ……ああ、ありがとうございますっ!」 言われてみれば確かに、彼女のキーボードはUsagi Flapsの時よりも、バンドの調和に重きを置いている印象だった。 でも、言われてみればってレベルであって、所望ネキちゃんと初めてバンドを組むなお先輩やセフィロスさんが それに気づいてたなんて……。 すごいよ、本当に。 なお先輩の指定通り、所望ネキちゃんはアウトロでその演奏を爆発させ、 セフィロスさんがそれに呼応するかのようにギターをかき鳴らし、 とてつもない空気感の中、曲が終わった。 最高だ。 このバンドは、最高だ。 9月30日(火)  セーファ・セフィロスの文化祭ライブ前の練習は昨日で最後だった。 あとは本番を待つのみなんだけど、 何故かここに来て、去年のことを思い出してしまった。 去年の文化祭。 ただただ怖かった文化祭。 大丈夫だよね。 今年は大丈夫だよね。 ん。 ちょっと不安だから寝る前にパッドで練習しようっと。 10月1日(水) う~~~~~~。 やっぱりちょっと不安だぞ。 大丈夫。 去年とはメンバーが違うし、 私も自分なりにだけど上達できたし、 きっと大丈夫。 10月3日(金) 文化祭前最後の個人練習。 後輩くんと一緒にスタジオを借りて、 交代で叩いて練習したよ。 それでね、終わった後、私の部屋で ライブ前で不安だから甘えさせて欲しいって言ったら、 ぎゅうさせてくれてね、その後頭をなでてくれたの。 ここ数日の不安がそれだけで消えていくみたいだった。 不安っていう現実を、彼が忘れさせてくれた。 これは現実逃避なのかな。 私は彼と身体を重ねて、一つになって、 その間はずっと、不安という感情から解放され、 私の中は彼でいっぱいになった。 今もまだ、幸せの余韻の中にいる。 うん。 頑張れそう。 10月4日(土) 文化祭の初日。 今日は私も後輩くんも出番なし。 えりちゃんのバンドのライブを二人で見てたよ。 えりちゃん、また上手になってたし、かっこよかった! 10月5日(日) ちょっと今日は書けない 近日中に書くね 10月6日(月) 昨日はよく晴れた日で、文化祭は学校外からの人たちも多く来ていて、賑わっていた。 私たち軽音楽部の体育館ライブは、去年よりも多くの人たちが見てくれていたように思う。 15時過ぎ。 体育館ステージのトリとしてセーファ・セフィロスが入場し、セッティングを終え、 演奏を開始する直前のことだった。 椅子に座って、体育館全体と、ステージ上のメンバーを見たとき 去年のことがフラッシュバックした。 石田先輩のあの目つき、「帰りたい」と思ってしまった私、ただ怖かった時間、 ああ、どうしてこんなときに思い出しちゃうかな。 怖い、怖い、怖い、怖い。 これ、やっぱり無理かも。 ここまでやっておいてそんなことを考えるなんて最低だ。 でも、それでも無理かも。 ごめんなさい。 そう思っていたら 「沖田さんっ!」 と客席から声が聞こえた。 愛川さんだった。 10月からは友人としてお願いします。と言ってくれた愛川さんが、 私のライブを見に来てくれていたのだ。 彼女の目は輝いていて、私の演奏を楽しみにしてくれているようだった。 その近くにはえりちゃんがいて、そして少し離れたところには 私にとって世界で一番大切な人……後輩くんが、心配そうに私の方を見ていた。 私、彼になんて顔をさせちゃってるんだろう。 心配させてごめんね、大丈夫。 そう、音で応えなきゃね。 強烈だった不安はそこでなくなり、私たちのライブは始まった。 始まったその瞬間から、このライブが過去最高のものになると確信した。 強い。 私たちは、強い。 なお先輩の歌が体育館に響く。 去年、一人で出演したときよりも力強く、でもどこか切なく、優しい、そんな歌声。 体育館にいるたくさんの人たちが、それに酔いしれていたように思えた。 最後の曲で、彼女の歌が終わり、長いアウトロに入る。 狂気の中、切なく、悲しく、何かを破壊していくようなメロディを奏でるセフィロスさんのギター。 そしてそれを慈しみ、救い上げ、優しく繊細に音色を奏で、何かを作り上げていく所望ネキちゃんのキーボード。 そこには一つの世界の死と再生があった。 私はその光景に自分の、沖田ひまりの中学生時代と高校生になってからのことを重ねてしまった。 悲しみだらけだった中学生までの私と、 ドラムに出会って変わった私、 好きな人が出来た私、 まだ分からないけれど、おぼろげに、愛というものに触れた私。 音楽とは、ここまで表現できるのか。 なんて、素晴らしいんだ。 アウトロが佳境に入ったとき、なお先輩が私の方を振り返った。 練習の時は私が涙を流したが、本番ではなお先輩が涙を流していた。 涙を流したまま、彼女は私に微笑みかけてくれた。 その時の光景は今思い出しても感動してしまう。 私の中で大切な宝物だ。 出演後、しばらくはメンバー全員が控室で燃え尽きていたんだけど、 なお先輩、セフィロスさん、高橋くん、所望ネキちゃんの順で控室を出ていき、 残っているのは感想を伝えにきてくれた後輩くんと私の二人きりになった。 そのまま、そこでキスをして、いっぱいハグして、 その後、私の部屋に場所を変えて、たくさん愛し合った。 満足できるライブをして、大好きな人と二人きりの空間でひたすらに愛し合う。 私たちはただただ求めあい、ただただ幸せだった。 こんなに喜びを感じられる時間があるなんて、知らなかった。 いろんな人にありがとうって言いたい。 最高の一日だった。 10月10日(金) 文化祭ライブの余韻もだいぶ収まってきた中、 私は、私自身が繊細で弱い人間だということを彼に打ち明けることに決めた。 明日、海の見える公園に二人で出かけて、 そこで彼に伝えようと思う。 正直な気持ちを書くと、すごく怖い。 「そんな彼女はいらない」って言われたらどうしようとか考えちゃう。 でも、彼だったら受け止めてくれるはずって信じてる。 うん。 彼には本当のことを話そう。 10月11日(土) 彼に全てを話した。 繊細で弱い、本当の私のことを。 そして、彼はそんな私のことを受け止めてくれた。 なんて優しいんだろう。 私は、なんて恵まれているんだろう。 本当のことを話して、それを受け止めてもらえたとき、 心の中が暖かくなって、今までよりももっと深い幸せを感じることが出来た。 彼は私にいろんなことを教えてくれる。 私が知らない幸せを与えてくれる。 今日、本当のことをちゃんと聞いてくれてありがとう。 受け止めてくれてありがとう。 キミのおかげで、私、すごく幸せだよ。 キミが私の全てを受け止めてくれたように、 私もキミの全てを受け止めたいと思ってるよ。 だから、私にしてほしいことがあったら何でも言ってね。 そして、これから大人になっても、ずっと一緒にいようね。 大好き。 愛してるよ。