香ばしい香りに鼻孔をくすぐられ、あなたは歩みを止めた。  疲れた身体を引きずり帰路につく途中、普段は曲がらない角を覗き込んでみると、新しく出来たばかりのパン屋があった。  このパン屋は評判も高いらしく、いつもこの時間には完売していると聞くが、珍しい事もあったものだ。  あなたは売れ残りのパンを求めて、その香りに誘われるままにドアを潜る。  カランカラン。ドアベルが小気味よい音を立て、貴方の来店を知らせると、店主と思しき女性が奥からパタパタと足音を立てて現われた。 「いらっしゃいませ。どんなパンがお望み?」  三十代半ばから四十代前半くらいだろうか――女性店主はカウンターに手をつくと、品定めするように貴方の頭から足元までを眺めてから、ふう、と息を吐き、「疲れているようだから、甘いパンがいいかしら」そう提案した。  ひと目でわかるほどに疲れた顔をしていたのか。貴方は途端に恥ずかしくなり、もじもじと身を縮こまらせる。  その姿を見た店主はふふっと笑い、「こちらへどうぞ」と厨房に続くドアを開け、あなたを招いた。 「折角だし、特別なパンを作りましょう。手伝っていただけるかしら」  本当は今すぐパンを食べて寝たいほどに疲れていたはずだが、不思議と身体が軽くなっている。  あなたは困惑しつつも、誘われるまま厨房に足を踏み入れた―― * 「パンを作るなら、そんな服ではだめよ」  厨房に入るなり、店主は糊のきいたユニフォームを差し出してきた。これに着替えろ、という事らしい。  素直に受け取った貴方は、物陰に隠れて服を脱ぎ始める。  下着一枚になったところで、先程受け取ったユニフォームに手を伸ばしたつもりが、空を掴む。  それどころか、今しがた脱いだばかりの服もなくなっている。 「脱げたなら、こっちに来て」  困惑しつつも、逆らえない雰囲気に、下着一枚で店主の前に姿を見せる。  店主は笑みを深くし、乗って、と作業台を指さした。  促されるまま作業台に身体を横たえると、すぐに店主の指が顔に触れた。  店主はにっこり笑うと、貴方の耳に指を這わせ、ムニムニと耳たぶをこね始める。 「それじゃあ、美味しいパンを作っていきましょうね」  指は徐々に下がり、ついにはぷっくりと主張を始めていた乳首に到達した。 「あら、随分と硬いのね。たっぷり時間をかけてほぐしてあげるわ」  ムニムニ。コネコネ。店主の指によって、好き勝手こねくり回される貴方の乳首。  いじられすぎて、店主の吐息がかかるだけでも反応してしまうくらいになると、またも店主の指が移動する。 「こねごたえがありそうね」  最近気になり始めたお腹をこねられるのは、乳首をそうされるよりも恥ずかしい――。  思わず起き上がろうとするも、店主が両手を使い本格的にこね始めたのが気持ちよくて、再び店主に身を任せる。 「こねて、柔らかく……力は抜いて」  店主の指は、貴方の太腿に到達していた。外腿を撫で上げ、内腿をやわやわとこね、揉みほぐす。  この先に期待しながらも、巧みな指技にすっかり意識がとろけてしまう。  身体中の力が抜け、いまや店主の思うままに全身をこねくり回されるだけのパン生地。  この心地よさのまま眠りたい――性欲よりも睡眠欲が勝ちかけた瞬間、店主は「よいしょ」と掛け声を出し、貴方の顔に跨ってきた。  極端に短いユニフォームなのか、それともボトムを脱いだのかはわからないが、店主のレースのパンティが目前に迫る。 「ここはしっかりとこねなくちゃ」  店主の下半身によって、どこを触られるのか見えなくなった貴方。視界を塞がれた不安と期待に、生唾を飲み込む。店主は貴方の下着に手を掛けると、 「ぅんしょ……んっ」  なんとも色っぽい声を出して、一生懸命にずり下げる。  貴方は台の上に寝たままで、不格好に陰部をさらけ出しただけの格好となってしまった。  激務をこなした後の汗ばんだ股間が予期せず外気に触れ、寒さからかそれとも期待からか、ぴくりと脈打つ。  疲れを理由に数日分の精液を溜め込んだ睾丸に、店主の細い指が這わされた。  流石にこれ以上は――貴方は声を上げようとするが、どんどん近づいて来る店主のレースのパンティの迫力に言葉を飲み込む。  むわりとした女の匂いがあなたの胸を満たし、陰茎が痛いくらいに張り詰めた。  睾丸の皮を伸ばされ、揉みこまれる。二つの玉を離されたり、くっつけられたり。かと思えば、少し強めに引っ張られる。  荒い呼吸を繰り返す度、店主の秘部から漂う匂いに気が遠くなる。  ずっと耐えてきた声をついに漏らしてしまった時、パンティ越しの秘部に顔を覆われた。  息が出来ない。濡れているのは店主の愛液か、それとも自分の唾液なのか。  貴方はふがふがと苦しみあえぎながらも、その手で店主の身体を自分の上からどかそうとはしない。  思えば最初から、抵抗や拒絶などしようとも思わなかった。店主の手でどんな美味しいパンが出来上がるのか、期待が膨らむ。  膨らんだのは、期待だけではなかった。貴方の睾丸はパンパンに膨れ、今か今かと射精の時を待っている。 「ほうら、砂糖水が出てきた」  気付いた店主が嬉しそうに実況し、指先ですくった先走りを陰茎に塗りたくる。 「ライチみたいにプルプルのところは、優しく」  店主は両手で亀頭を包み込み、壊れものを扱うように指を滑らせる。性器への直接的な刺激に腰が浮きそうになるのを耐え、貴方は深く息を吸った。  パンティ越しのいやらしい匂いが鼻や口を刺激し、あなたの胸を満たす。  直接嗅ぎたい。直接触れたい。ふつふつと湧き上がる欲求を押さえる事が出来ず、貴方はついに手を動かし、店主の太腿をつかんだ。  しかし、それだけで終わった。下着をずらす事はおろか、店主を自分の顔から下ろす事も押し倒す事も出来ず、貴方はもだえる。  店主の手が、指が、陰茎を程よい強さで握ったのだ。  にちにちと水音が響く。聴き慣れたはずの音なのに、自分以外の誰かに出されると酷く卑猥に聴こえるのはどうしてだろう。  耳を塞ぐ代わりに、店主の太腿を掴んでいた手を這わせる。ムニムニと、店主の動きを真似するようにして。 「美味しいパンにするコツは、根気よくこねる事なの。ちょうどいい硬さになるまで、たくさん、たくさんこねてあげる」  貴方の動きに応えるように、店主の動きも激しくなる。ぎゅっぎゅっと陰茎を握り込み、時にスライドし、控えめだった水音は、いつしかぬちゅ、ぬちゅとより淫猥なものへと変わっていた。 「パンなのに硬くなっていいのか不思議かしら? バゲットもチュロスもプレッツェルも硬いでしょう?」  チュロスとプレッツェルはパンというよりお菓子の部類と思っていたが、パン屋である店主がいうのならそうなのだろう。そして確かに、バゲットは硬い。  貴方は想像した。この作業台で美味しいパンを作る店主の姿を。アンパン、クリームパン、カレーパン。形も味も様々なパンを作るように、店主はいま、貴方を料理している。これからパンを食べる度に、この体験を思い出す事になるだろう。  店主の五本の指は意思を持った生き物のように、それぞれ違う力加減で貴方の陰茎をこねる。ときおり睾丸をこね、いたずらに陰毛を揉み、「ライチみたい」と言った亀頭を撫で上げては、また陰茎を握る。  パンを作るように愛情たっぷりの愛撫に、疲れも性欲も溜まっていた貴方はついに我慢が出来なくなってしまう。 「あッ」  嬉しそうな店主の声を聴いた時には、射精していた。びゅるびゅると音を立て、自分でも驚くほど長く、そして多く射精する。その間も店主の指は止まる事なく、陰茎を揉み、こね、そして握っていた。 「ほらね、練乳が出てきた。しっかり全部出して。あま~いパンにしなくっちゃ」  顔に押し付けられた臀部が、更にぐりぐりと押し付けられる。酸欠と射精で意識が飛びそうになりながら、貴方は店主の匂いを肺いっぱいに吸い込む。  びゅくっ、びゅくっと震えながら射精する陰茎から、最後の一滴まで搾り取るような指の動きに、貴方は身もだえる。  もう出ない、もう触らないでくれ――その一心で腰をねじるも、店主の動きは止まらない。  それどころか、その指は精液を潤滑油とし、ぬるぬると陰茎を滑る。  自分の精液を自分の陰茎に塗りたくられ、なんともいえない気分に陥りながらも、貴方は店主からの愛撫を受け入れるしかない。  逆手(さかて)でカリ首を刺激されても、手のひらで鈴口をぐりぐり撫で繰り回されても、くすぐるように裏筋に爪を立てられても、拒否権など与えられていない。  執拗な愛撫に、とうとう貴方は腰が大きく跳ねるのを感じた。その拍子に、上に載っている店主の柔らかな胸に自身の上体が触れ、いっそう気持ちよさが増す。  ついにはぷしゅっ、と音を立て、精液とは違うものを鈴口から吐き出しながら。店主の胸の柔らかさを、そして色濃くなった女の匂いを、焼き付けるように堪能する。 「あらあら、甘いパンなのに、そんなに塩水を足しちゃだめよ。……ふふっ、全然止まらないわね?」  とがめながらも、店主の指は止まらない。ぬるぬるの精液とさらさらの潮が混ざりあい、また陰茎に塗りたくられる。店主が動く度に、潮が吹き出た。  そうして言い知れぬ疲労感が身体を襲い、貴方はまどろみ始める。もう、指一本動かすのも億劫だった。 「よいしょ、」  店主が顔の上から降り、夢の終わりを感じ取る。少しだけ休憩したら、片付けを手伝おう。そして売れ残っていたパンをすべて買って帰ろう。こんないい思いをさせてもらったせめてもの礼だ。  貴方はそう心に決め、久しぶりの新鮮な空気を肺いっぱい吸い込み、目を閉じる。 「えいっ」  完全に油断していた。掛け声とともに、店主が貴方の身体をごろんと作業台に転がしたのだ。  自分が出した精液や潮で濡れた作業台に触れているのは心地いいとはいえず、貴方は身を起こそうとする。しかしどうしても、身体に力が入らない。こんなになるまで疲れを溜め込んだ事を、貴方は改めて後悔した。 「それじゃあ、仕上げをしていくわね」  店主は楽しそうに言うと、パン、と手を叩く。妖艶というより、無邪気に。そうして貴方の腰を起こすと、四つん這いの体勢にした。これでは尻穴が店主に丸見えだ。  慌てて上体を起こそうにもやはり身体に力は入らず、むしろ精液や潮に膝が滑って、尻穴を店主に突き出す体勢になってしまった。 「そのままでね」  今度は吐息たっぷりに囁き、店主は貴方の尻穴へ指を這わせる。  ぐにぐにと揉み捏ね、縦に、横に広げる。あまりにも屈辱的な行為に、射精したばかりの陰茎が硬さを取り戻すのを貴方は感じた。  やがて、つぷ……っと小さな音を立て、貴方の尻穴は店主の指を受け入れる。  どの指が、どのくらい挿入されてしまったのだろうか。自身の出した精液と潮を潤滑油に、指がどんどん奥に入り込んでいく。ある一点に到達した時、びくっと全身が震えた。 「見~つけた」  嬉しそうな店主の声に、陰茎が反応する。吐息が尻に掛かったせいでもあるだろう。  貴方が反応した箇所に指の腹を押し付け、店主は撫で始める。コリコリしたなにかを揉みこね刺激されていくうちに、貴方は自身の腰が揺れている事に気付く。自分の身体だというのに、最早貴方の意思は関係ないようだ。  店主が指を出し入れし始めた。排泄とも違う気持ちよさが貴方を襲う。  指が入り込む度にコリコリした箇所を刺激され、その度にあなたの腰は跳ねる。  酷くゆっくりした動きにも関わらず、貴方は今まで感じた事のない大きな快感に飲み込まれ、夢中となった。 「あら、まぁ……ふふっ」  店主の笑い声に、自分の状態に気付いた貴方。  名前も知らぬコリコリした箇所を刺激して欲しくて、疲労で動かしにくい身体にむち打ち、必死な思いで店主へと尻を突き出していた。 「たぁくさん、こねてあげるわね」  店主はうっとりした声でそう言って一度指を抜き去ると、質量の増したものを挿入し始めた。――指が増やされたらしい。二本の指でコリコリとこね、快感のもとを摘まみ上げられる。  貴方は声にならない声をあげた。店主の前で、もう我慢などするつもりはなかった。  与えられる快感のままに声を上げ、懇願するように尻を振る。従順に振る舞うだけ、店主は応えてくれた。  尻の中のコリコリを刺激しながら、空いた手が睾丸に伸ばされる。  二か所を同時にこね繰り回され、貴方はあっという間に射精してしまった。  さっき出したばかりとは思えないほどに濃厚な精液が、作業台を濡らしていく。  羞恥と達成感、そして幸福感に満たされ、貴方は深く息を吐く。 「美味しいパンの出来上がり」  遠のく意識の中で、店主の声を聴いた。 *  普段は曲がらない角を覗き込むと、新しく出来たばかりのパン屋がある。  どのパンも美味しく、夜まで売れ残っている事はそうそうない。  だけど、貴方は知っている。美味しい匂いにつられてドアを潜れば、あらゆる欲を満たしてくれる店主がそこにいる事を。 「いらっしゃいませ。どんなパンがお望み?」