5. ハクアと二人で ハクア: ふぅ…。 この珈琲……あなた、淹れ方を変えましたか? ……ふぅん、成る程。 まぁ、好みの質感です。 腕を上げましたね、褒めてあげましょう。 ……何です? 私が素直に褒めるのが、そんなに珍しいのですか……? はぁ……あなた、一体私を何だと思っているんです? 私は蠱惑野家の当主として、成果を出したものにはきちんと報いますよ。 特に、ここ最近のあなたの仕事振りについては、メイド達からも報告を受けています。 どうやら……よくやっているようですね? 私から見ても……おおよそ及第点と言えるでしょう。 ……それに、クロエもあなたのことをとても気に入っているようです。 元から人懐っこい子ではありますが……同時に飽きやすいところもあるので…… 今後も、あの子を飽きさせないでくださいね。 私は私で、蠱惑野家の当主としての仕事上、 いつでも構ってあげられる訳じゃありませんから……。 ……ええ。あなたには、今一度説明しておきましょうか。 私達蠱惑野家は、表立っては由緒ある資本家の一族ということになっています。 当然、私達がサキュバスであることは公にはできませんので…… あくまで、表向きの顔ということです。 その裏では、各界の主要人物を魅了し、意のままに操る…… そうやって、蠱惑野家は安定した富と地位を築いてきました。 ……ですが、あなたも知っている通り…… そういった人間達は、生きていてこそ意味のある者達……。 精気を奪い、抜け殻にしてしまっては何も意味がありません。 ですから、私達は食事に困っていたのですよ。 あまり多くの人間を魅了するのも目立つ……。 勿論、行方不明者など出そうものなら、その後始末も手間だと思っていたところ…… あなたが現れた、という訳です。 ……正直、食事に関しての悩みが解消されて、仕事に集中できるのは助かっています。 十分な精気を得られなければ、頭も碌に働きませんしね。 それに……あなたはそこそこ使えるようです。 人間のオスなんて、性欲に支配された浅ましい生き物だと思っていましたが…… あなたぐらい従順で使い勝手がよいオスなら、 手元に置いておくのも悪くはないでしょう。 ……ええ。ですから、褒めているのですよ? あなたの存在価値と、その仕事振りを。 分かったのなら、今後も私を失望させないように……精々励むことです。 いいですね? ……では、あなたのその忠誠心に報いて、ご褒美をあげましょう。 少し……こちらに顔を寄せていただけますか? ……はい、そのまま……私の目を見なさい……。 そうです……逸らさないで……。 ……チャーム。 【唇を触れ合わせる軽いキス】 ん……。 いいですか……? クロエには……内緒ですよ……。 ふふ……。 ……ほら。 そろそろ、仕事に戻りなさい。 珈琲を淹れるだけが、あなたの役目ではないでしょう? ……ええ。期待していますよ、私の執事さん。