●:ねえ、今ちょっと良い? ○:はい、どうかしましたか? ●:明日のお祭りでちょっとさ…、なにニヤニヤしてんのよ。 ○:いえいえ、それで、何の相談ですか? ●:なんか、あんまり言いたくないんだけど。 ●:…せっかく縁結びの奉納もあるっていうからさ、告白しようかなって。 ○:やっぱり! ●:ちょっと、声が大きい! ○:あ、ごめんなさい。嬉しくてつい。 ●:…いいわよ、まあそうなるかなと思ってたし。 ●:それで、覚悟を決めたのはいいんだけどさ。 ●:どう伝えたらいいか、全然わからなくて。 ○:難しく考えることはありませんよ。 ○:あなたの気持ちを真っ直ぐ誤魔化すことなく、言葉にすればいいんですよ。 ○:それが一番あなたらしいと、私は思います。 ●:私らしい、か。 ○:大丈夫ですよ、きっとよいお返事を頂けると思いますよ。 ●:…うん、わかった。 ●:ちょっと気持ちが楽になったよ。 ○:それなら良かったです。 ●:それにしても巫女さんも大変ね。 ●:私がいうのもあれだけど、今週はずーっとこの手の相談ばっかりだったんだよね。 ○:まあ、いつも以上に私のとこに来られる人は多いですね。 ○:皆さん、恋のお悩みも様々といった感じで。 ●:私にも手伝えることがあれば良かったんだけど。 ○:せっかく私を慕って相談に来られるので、変わってもらうわけにはいきませんからね。 ○:それにクラス委員の仕事を手伝って貰ってるだけでも、とても助かってますよ。 ●:そう? それなら良いんだけど。 ●:あーあ、でも惜しいなー。 ○:なにがです? ●:5年ぶりの奉納演芸だっていうのに、写真も動画も、そもそも見物もダメ。 ●:結局私達が楽しめるのは、どこかでやってるような夏祭りみたいな部分だけでさ。 ●:地域のお祭りなのに、一番大事なとこは地域の人でも見れないなんて。 ○:前も話しましたけど、昔からその部分は秘密とされていますから、仕方ありませんよ。 ●:一般公開した方がお祭りの見物客も増えると思うんだけどなー。 ○:主催が言うにはそれはそれ、これはこれ、だそうですから。 ○:私もそれがわからないわけではないです。 ○:縁結びや子孫繁栄を祈願する奉納演芸は今でも神聖視されています。 ○:古い考え方ですが、それを一般公開することに穢れを意識してしまうのでしょう。 ●:そう言われちゃったら、納得するしかないのよね。 ●:あー、でも見たかったなぁー。 ○:駄々をこねても無理なものは無理なんですから。 ●:だってさ、舞台の演目とはいえ神様と結婚するんでしょー。 ●:写真の一枚でも撮ってあとから茶化したいじゃない。 ○:もう、あなたはそれがしたいだけでしょう。 ●:まあね。それができないから屋台の冷やかしでもするよ。 ○:それもダメですって。 ●:…でさ、神様って誰がすることになってるの? ○:実は私もわかってません。そこまでが秘密らしいんです。 ●:えっ、普通に怖くない? ○:まあ不安はありますけど。 ○:誰が選ばれたとしても、私は役目をまっとうするだけですから。 ○:あら、もう予鈴ですか。少し話し込んじゃいましたか。 ●:あれ? 次って確か… ○:科学室で実習だったはずです。 ●:やばっ、急がなきゃ…ねえ、あいつ登校してきてるんだけど。 ○:えっ? もう2限終わってるんですよ? ○:今頃来る意味あります? ●:わーお、今日も毒舌だね。 ○:いえ、たんに軽蔑してるだけです。 ●:よりひどいじゃん。 ○:そういうあなたも良くは思ってないでしょう? ●:まあ、そりゃね。 ○:はぁ、あんなのでも注意しないといけないなんて。 ●:もしかして今日は厄日? ○:お祭りの前日にそれだけはやめて下さい。 ずいぶんと遅い登校のようですけど、今何限目かわかってます? そうですね、2限目がちょうど終わったところですね。 時間割はちゃんと読めているのに、何が悪いんでしょうね? …そのにやにや笑い、やめてもらえますか。 気分が悪いです。 はぁ… 多少素行が悪い程度なら私も気にもとめないんですけどね。 返却物やプリントを席が隣だからと押し付けられたり、出欠の確認までわざわざされたりして、いい加減気分が悪いんですよね。 そのプリントは来週月曜の朝礼に提出で、そっちのノートは再提出だそうです。 それと、次の授業は科学室で実習になってます。 はあ?再提出の期限? そんなの私が知るわけないじゃないですか。 自分で聞いてください。 そこまでしてあげる義理が、私にあると思います? ましてや私の仕事を増やすだけのあなたに。 いっそのこと今日もいつもみたいにお休みされればよかったのに。 どうせ授業に出ても居眠りされてることの方が多いじゃないですか。 非常に不快なんですよね。 明日のことでいろいろ考えなきゃいけないのに。 こんなどうでもいいことに時間を取られるんですから。 はあ? あなたも明日のお祭りに? 何の用事があって? 縁結びのお祭りですよ。 あなたとは一番縁遠いと思いますけど。 身近にいる学友として忠告させてもらいますが。 あなたはお祭りに来るより溜まっている提出物を片付けた方がいいですよ。 そっちの方が有意義でしょう。 今のあなたでは、縁結びの神様を困らせるだけですよ? ●:おーい、志乃。早くいくよー。 ○:あっ、はい、はーい。今行きますよー。 では、忠告はしましたからね。お話はこれでおしまいです。 ○:すいません、お待たせしました。