こんにちは。ご無沙汰しております。  私でございます。  先日は大変お疲れ様でした。  結月ともども、お元気そうで何よりです。  ふふっ。  順番にご質問にお答えして参りますね。  まず、ご指摘の通り、先日治療が終わった際、役目を果たした私は、そのまま消滅する予定でございました。  私は、コンピューターが結月の脳を読み取った際、治療のサポート用として生み出されたAI。  治療が済めば不要な存在だからです。  しかしながら、こんな私の存在を惜しまれた、奇特な方がおられた。  ……貴方様です。      あの日、仮想空間から戻られた貴方様は、結月の無事を確認すると、すぐさま私を探して下さいましたね。  ただ十数分お話しただけの、命さえない私の事を、随分と気にかけて下さった。  それは貴方様が、私の正体を薄々勘づいての事だったのでしょうが……。  私はそのお気持ちを、とても嬉しく頂戴しました。  そこで一言お礼の言葉をお伝えしたく、予定よりも少しだけ長くサーバー上にとどまり、この度花宮院長のご許可のもと、お電話差し上げたという訳です。  突然おかけして申し訳ございません。  はい。貴方様のご想像の通りです。  私は香椎結月。  正確には、香椎結月の一部……コンピューターが結月の脳をスキャンした際、彼女の『もっとも成熟した部分』と『理想とする人物像』を読み取って生まれた、疑似的な人格です。  とはいっても『人格を模したAI』が正しい所ですし、それも、イメージだけで構築された、架空の存在なのですが……。  そんなものまで惜しんで下さるなんて、貴方様は本当に、結月がお好きなようですね。  ……ありがとうございます。  ふふ。  あらあら。嬉しい事を仰る……。  ええ。それは大変愉快なご提案です。  データを貴方様のスマートフォンに移植して頂き、今後は貴方様専属のナビゲートアプリとして生きる。  もしそれができたら、どんなに素敵な事でしょう。考えるだけで胸が躍ります。  でも、できません。  だって香椎結月は、二人も要らないでしょう?  あぁ……。  それに、そろそろお時間のようです。  ――では、最後に一つだけ。  香椎結月はあの通り、何をするにも手間がかかるというか……交際相手としては、少々骨の折れる相手ではございますが。  そんな彼女を仮想空間まで迎えに行き、彼女の我がままに気が済むまで付き合って。見事お救い下さった貴方様であれば。  彼女を守り、導き、一緒に幸せになって下さると確信しております。  私はそんな未来の訪れを信じておりますし……その日を楽しみにしております。  ……そう。例えば。  私のような落ち着いた大人の女性になった結月が姿を見せる日を、です。  ふふふふふっ。  ……それでは、さようなら。   ……どうか今後とも、もう一人の私をよろしくお願い致しますね。  貴方様のご協力に、心より感謝し……。  貴方様方の幸せを、いつまでもお祈りしております。