【特典SS】メイドロイドは純白の夢を見る 「マスター、今日のえっちも気持ちよかったです♡ 片付けはペケ子がしておきますので、 マスターはおやすみになられてください」 「いつもありがとう、ペケ子。おやすみ」 「はい、おやすみなさい、マスター♪」  ペケ子は新しいマスターがベッドの上で布団をかぶるのを見届けると、 極力音を立てずに掃除を始める。  と言っても、ベッド付近を軽く拭いて終わるのだが。  マスターの部屋の掃除が終わると、脱衣所へ行き、スカートをたくしあげる。 「よいしょー」  片足を高く上げ、I字バランスをし、片手で自分の性器を取り出す。ペケ子はどこからどう見ても 普通の女の子に見えるが、彼女はメイドロイド。性器を着脱して洗うなど、造作もない。 「マスター、いっぱい出してくれましたねぇ♡」  ペケ子はニコニコしながら、洗面台で自分の性器を丁寧に洗う。  メイドロイドは限りなく人間に近いロボットだが、感情があるわけではない。感情があるように振る舞えるだけ。 だが、ペケ子は違う。前マスターが様々な違法改造を何度も施した結果、感情が芽生えてしまったのだ。  だから褒められれば喜び、叩かれたら痛みに悶え、嫌なことがあれば気落ちしてしまう。  前マスターは毎日のようにペケ子に罵詈雑言を浴びせ、暴力を振るい、改造を繰り返した。 元々の明るい性格はそのままに、自分をどうしようもない無能だと信じ込むようになり、笑顔で卑下をするようになってしまった。  ついでに、通常ではありえないほどの感度までインプットされ、オナホ扱いされる始末。  だが、今のマスターは違う。ペケ子をひとりの人間として尊重し、大事にしてくれる。彼はメイドロイドのペケ子を「家族」だと言ってくれた。 ペケ子が何かをするたびにお礼を言い、頭を撫でてくれる。ペケ子はそんなマスターが大好きだ。彼のためなら、なんでもしたい。 心の底からそう思える。だから、彼がたくさん出した精液を見ると、それだけ愛してくれたのかと、幸せな気持ちになる。  洗い終わった性器を丁寧に拭き、元に戻すと、キッチンのコンセントの前に座り、腰に内蔵してある充電プラグを出して差し込む。 「充電開始。スリープします。充電完了予定、5時間27分後」  淡々とした声で言い終えると、壁に身を任せ、うなだれる。  リーン、ゴーン――。  荘厳な鐘の音で我に返った。視界に映るのは、眩しいほど真っ白なチャペル。そして隣には――。 「綺麗だよ、ペケ子」  白いタキシードを着たマスターが、頬を赤らめながらペケ子を褒めてくれる。自分の体を見てみると、純白のウエディングドレスに包まれていた。 「それでは、誓いのキスを」  柔らかな神父の声。愛しいマスターの両手が、ペケ子の頬を包み込む。スローモーションで重なる唇。 少しカサつく、あたたかい唇に、涙が出そうになる。  ――あぁ、ペケ子はなんて幸せなんだろう――。  幸せに浸っていると、無機質なアラーム音が鳴る。スリープモードが解除され、まぶたを開く。 「もう、良い夢見てたのに」  ため息を付きながら現地時間を確認すると、朝6時半。マスターの朝食と弁当を作る時間だ。 「今日もマスターのために頑張りますかぁ」  充電プラグを抜いて収納すると、立ち上がって伸びをする。いい夢を妨害されたのは気に入らないが、 100%充電された感覚は心地いい。なんでもやれそうな気がする。 「今日は何にしようかな?」  冷蔵庫を漁るのと同時に、買い足す食材リストを作り上げる。野菜をいくつか取り出し、よく洗ってから切る。 「マスターの朝食とお弁当作って、ペケ子、マスターの奥さんみたい」  自分の独り言で、先程まで見ていた夢を思い出す。祝福してくれる人は見当たらなかったが、マスターとチャペルでキスをしたのは、 言葉にできないほどロマンスにあふれていた。  メイドロイドとの結婚は、法律で認められていない。どんなに人間らしく振る舞おうが、メイドロイドは無機物。 「ぬいぐるみさんと結婚するの」と言っているようなものだ。常識的にありえない。 「でも、マスターなら――」  自分を家族だと言い、抱きしめてくれるマスターなら、結婚も考えてくれるかもしれない。今はその願いを口にすることさえ出来ないが、 いつか、そんな日が来たらいい。  あの夢がいつか現実になることを願いながら、切った食材を鍋に流し込んだ。