5. 長寿の秘訣 んー…? 何だ、お前…。 読書とは、珍しいではないか。 …っと、すまぬ。驚かせたか…。 いやなに、お前が何の本を読んでおるのか、少々気になってな。 …ふむ。長寿の秘訣、とな。 ふふっ…お前、その歳でもう長生きすることを考えておるのか? いくら人の子が短命であるとはいえ… その考えに至るには、お前はまだ少々若い気がするがな? …む。そう、か…。 我と少しでも長く過ごすため…。 ふふ。お前、嬉しいことを言うてくれるな…。 だが、人の子らの書いた書物では、大した知識は得られぬのではないか? …あぁいや、別に人の子らを低く見ている訳ではない。 ただ…お前達は、精々二百年も生きられぬであろう? 先人たちが残した書物に、誠なる長寿の秘訣が記されておるならば… 今頃、世の中は人の子らで溢れておるだろうしな。 …つまり、長寿になる方法は、同じく長寿である者に聞くべきだ。 違うか…? ふふ…。 なぁ…? …うむ、我は知っておるぞ。 聞きたいか…? …ふふ、そうか。 では、教えてやる前に…。 お前は…仮に千年後であっても、我と共に在りたいと思うか…? 長寿であることは、よいことばかりとは限らぬ…。 人の身には余りある、悠久の時…。 その中で、あらゆる物事がお前の精神を蝕むだろう…。 それでも…お前は、我と同じ時を生きたいと… そう、願うのか…? …「クー様と一緒なら」…か。 くふふ…。 その覚悟…嘘ではないな? ならば…。 っ…! …ん、案ずるな…少し腕を切っただけだ。 この程度の傷であれば、すぐに塞がる…。 …本題は、この…我の血だ。 指先から滴る、これを…。 ん…ほれ…。 お前に与える…。 さぁ…飲むがいい。 …ふふ、そうだ…。 これこそが、我の知る長寿の秘訣…。 ドラゴンの血を飲んだ人間は、その身に我らと同じ力を宿すという…。 無論、全く同じ…という訳にはいかぬだろうが…。 少なくともお前が望む、我と過ごす為の長寿は得られるであろうな。 …どうした? もしや、怖くなったか…? …ん?どうやって飲む、か…。 ふふ。そんなもの、我の指先をちろちろと舐めればよかろう。 お前は我の足まで舐めたのだ…。 今更、指先ごときで躊躇うこともなかろう…? …ん…ふふ…。 そうだ、そうやって…。 ちろちろ、ちろちろ…。 いいぞ…上手だ…。 ふぅ…ん…。 …どうだ、我の血は。 美味いか…? …熱い? ほう…我の血は熱いのか。 自らの血の熱さなど、確かめたこともないゆえ…。 ふむ、意外な発見だな…? ふふ…。 …さて、こんなところか…。 傷も塞がって、血も流れなくなってきた…。 お前の体の方はどうだ? …おい? ん…大丈夫か…? 辛いのであれば、我に身を預けておれ…。 こうして、支えていてやる…。 …あぁ、恐らく…始まったのだろう…。 呼吸の浅い、その様子…。 我の血が、お前の体を内側から作り変えておるようだな…? …なあに、今暫くは辛いやもしれぬが、死にはせぬ。 故に案ずるな…。 我も、こうしてお前が落ち着くまでそばに居てやるから…。 …うむ、当たり前であろう? この様な状態の従者を置いて、どこかへ行がいるものか。 だから…安心しろ。 な…? (呼吸音:20秒) …ん、お前…? …気を失ったか…。 ふふ…まぁ、仕方あるまい…。 我の血は、特別濃いからな…。 …それにしても、我が人の子に血を分け与えるとは…。 此奴と出会って、我も少々変わったか…。 …やはり、長生きはするものだな? くふふ…。