『クラスメートのおしゃべりの間に入りたい。』 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック1「休み時間の会話」 ―――――――――――――――――――――――――――――― SE:チャイム音 SE:雑踏の音(一気にクラスメートが話し出してから、フェードアウトして) /快活に、 /ボイス位置:7 【セツナ】 「あ〜、ようやく数学終わった〜」 /ボイス位置:3 【チナツ】 「お疲れ様です」 【セツナ】 「ねぇ、チナツぅ、清水先生の授業、たるくない? ねぇ、ねぇ!?」 【チナツ】 「まぁ、セツナはそうでしょうね。私はそうはおもいませんが」 【セツナ】 「え、なんでよ。なんでそこではしご外すの? 少しくらい同意してくれてもいいじゃん!」 【チナツ】 「いや、はしごを立てた覚えすらないんですけど……ほら、ぐでってないで早く次の授業の準備してください」 【セツナ】 「いやいやいやいや、まだ数学終わったばっかじゃん。少しぐらいだらっとさせてよ」 【チナツ】 「そうやってぐだっているから、チャイムが鳴ってから間に合わなくなるのでは?」 【セツナ】 「そういう正論もいらない〜! あたしが欲しいのは全肯定してくれるスーパー執事くんだよ」 【チナツ】 「そんな都合の良い人、いるはずがないでしょう」 【セツナ】 「辛辣ぅ〜。まぁ、いいや。で、次はなんだっけ?」 【チナツ】 「津田先生の日本史です」 【セツナ】 「津田センか〜、あの人の授業って聞き取りづらいんだよね〜」 【チナツ】 「セツナ……そうやっていつも授業に文句ばかり言っていません? もうちょっと内容に興味を持つことはできないんですか」 【セツナ】 「いや、日本史自体は大好きだよ? ほれほれ、あたしが前のテストで何点取ったのか覚えてるでしょうに」 【チナツ】 「……97点でしたっけ」 【セツナ】 「そ! 一個だけ間違えちゃったんだよね。荘園(しょうえん)の絡み、あそこ分かりづらいから」 【チナツ】 「聞き取りづらいとか何も言わずに勉強している私が負けるなんて……。なんですか、私に対する嫌味ですか!?」 【セツナ】 「えー? 嫌味なんかじゃないよ、チナツだって平均点以上は取れてたじゃん」 【チナツ】 「で・も! 私は78点しか取れていませんから」 【セツナ】 「まぁまぁ、点数なんて気にしなくていいんだよ。ちゃんと内容を覚えてて、最終的に共通テストを突破できればこっちのもんでしょ。勝ちよ勝ち」 【チナツ】 「いったい何と戦っているんですかねぇ、セツナは」 /SE:両側で教科書をバッグから出す /教科書を出すときに声を出して、 【セツナ】 「うん、しょ……」 【セツナ】 「ほら、担任もよく言ってるじゃん、受験は団体戦だって。だから受験は勝ち負けよ」 【チナツ】 「あぁ、あの自称進学校によくありがちなやつですよね。辟易とするやつ……」 【セツナ】 「そうそう。中学時代は「そんなことないやろ!」って笑ってたのに、ここに入ったらマジで言う人がいたから真顔になっちゃったよねー」 【チナツ】 「当事者になると笑いたいものも笑えませんよね」 【セツナ】 「そうそう。それに団体戦って言われても、そんなわけないじゃん、全員敵だろ! ってあたしは思っちゃうわけですよ。どうせ雰囲気とか意識みたいなところで団体戦って言ってるんでしょ、あれ」 【チナツ】 「わかりますけど、散々な言いようすぎません?」 【セツナ】 「事実は事実じゃん? だから勝ち負けで合ってるんだよ。最後に合格さえできればあたしたちの勝ち」 【チナツ】 「セツナはどこ志望でしたっけ」 【セツナ】 「急にどうしたし」 【チナツ】 「いや、話の流れ。進路調査票配られたばかりでしょう」 【セツナ】 「あーそうだった! んとね、県立大。家から通える範囲で、それなりに興味ある分野ってなるとそこしかなくて」 【チナツ】 「興味ある分野?」 【セツナ】 「福祉だよ福祉、将来のことも考えるとそこがいいかな〜みたいな」 【チナツ】 「テニスは続けないんです?」 【セツナ】 「ん、いや〜。そんなガチ勢ってわけでもないしさ? 趣味でできればそれでいいかなって」 【チナツ】 「なるほど。一理あります」 【セツナ】 「それでチナツは? どこ行くのよ、どこ」 【チナツ】 「……笑わないでくださいね?」 【セツナ】 「笑うわけないじゃん」 【チナツ】 「セツナと同じところです」 【セツナ】 「えー! 県立大なんだ、どこの学部?」 【チナツ】 「学部も、ですよ」 【セツナ】 「へぇ……! てっきり文学部かと思ってた! チナツ文芸部だし、そっちかなって」 【チナツ】 「本好きだからって文学部に行くとは決まってないですから。福祉の勉強をしても、必ず福祉のお仕事に就くとは限らないでしょう? いろんな将来を考えた結果です」 【セツナ】 「そっかー。いやぁ、でも嬉しいな。同じ学部に受かったら、また四年間喋っていられるし」 【チナツ】 「そうですね。なんとしても受かりたいものです」 【セツナ】 「ねー! てかマジで偶然だよね、進路同じとか! これって運命? 奇跡? じゃない!?」 /小声で、 【チナツ】 「……はぁ。そういうところなんだよな……」 【セツナ】 「ん? なんか言った?」 【チナツ】 「いや、今どき鈍感な主人公は流行らないという話をですね」 【セツナ】 「おぉ、脈絡どうした?」 【チナツ】 「私の中では筋が通っているんです。気にしないでください」 【セツナ】 「おかしいな、席隣なのにディスコミュニケーション起きてる?」 【チナツ】 「ジェネレーションギャップがないだけいいと思ってください」 【セツナ】 「そりゃ同い年だからね。ぴちぴちの女子高生にジェネレーションギャップがあってはならないよ」 【チナツ】 「でも、もしかしたら年が違うかもしれませんよ? 私が中学卒業後に浪人していたとしたら……どうします?」 【セツナ】 「え、そうだったの!? 実は南須原(なすばら)チナツさん? 敬語使わないといけないですか!?」 【チナツ】 「冗談を真に受けないでください」 【セツナ】 「あーよかった、同い年で!」 【チナツ】 「そりゃあそうでしょう。中学時代も同じ学年だったんですから、浪人じゃ計算が合いません。あの頃一緒だった私たちは蜃気楼かなにかですか?」 【セツナ】 「蜃気楼て。でもよかったわ、こうやってぐだぐだ話してられる時間がまだ続くなんてね」 【チナツ】 「……そうですね。受験シーズンになったら、こうは話していられないでしょうし」 【セツナ】 「えっ、そうなの!?」 【チナツ】 「当たり前ですよ。ちゃんと赤本開いて、傾向と対策掴まないと受かれないんですからね」 【セツナ】 「急にチナツが担任みたいなこと言い出した」 【チナツ】 「ちゃんと受験に合格できるよう、セツナの勉強もサポートしますから」 /若干引いて、 【セツナ】 「うわ、間に合っていますんでそういうのは」 【チナツ】 「間に合っているとかじゃないんです、教え教えられることで知識は定着していくんですよ」 【セツナ】 「さいですか」 【チナツ】 「そうです。だから今日の放課後から始めましょう。まず、古文です」 【セツナ】 「それチナツの得意分野じゃんよ〜。あたし苦手なんだよ〜」 【チナツ】 「いいじゃないですか。千年の時を超えた恋の歌……とってもロマンに満ち溢れていると思いませんか!?」 【セツナ】 「いやいや、いいな〜とは思うけど、大昔の人の恋バナ聞かされてもなーって……」 【チナツ】 「なんにしても、勉強しないことには点数が取れるようにはならないんですよ」 【セツナ】 「ド正論来た。はいはーい、やりますよー」 【チナツ】 「それでいいんです。とはいえ、今から始まるのは日本史ですけどね」 【セツナ】 「そうだった。いつの間にか津田セン来てるし」 【チナツ】 「結構前からいましたよ」 【セツナ】 「言ってよ。で、今日はどこだっけ」 /あきれながら、 【チナツ】 「……室町の」 【セツナ】 「あ、あそこか! ノートノート……あれ、どこだ〜? もしかして忘れた!?」 【チナツ】 「はぁ。なんで、これで私より勉強ができるのか……」 【セツナ】 「お、喧嘩か!? 売られたなら買うぞ〜」 【チナツ】 「売ってないです」 【セツナ】 「あ、そろそろ始まるみたい。授業受けよっか」 【チナツ】 「はい」 /SE:チャイム ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック2「学園祭の休み時間」 ―――――――――――――――――――――――――――――― SE:雑踏の音(一気にクラスメートが話し出してから、フェードアウトして) /ボイス位置:7 【セツナ】 「あのさ、なんで文化祭ってこんなにやること多いの」 /ボイス位置:3 【チナツ】 「生徒の自主性とかそういうのがメインだからですよ」 【セツナ】 「そういうのはいらないから、とにかく楽しい・簡単・想い出になる! そんな文化祭でいいとセツナちゃんは思うんですけどね」 【チナツ】 「『簡単』と『想い出になる』は両立しにくいと思うんですけど。手をかけてこそ記憶に残るのでは?」 【セツナ】 「案外、楽しければなんでも人生の糧になるもんだよ? やってから言ってみよう。Let’s try!」 【チナツ】 「それってブラックベンチャー企業の言い方じゃないですか」 【セツナ】 「無理って言う前に実現できる方法を考えてみようよ、そうしないと新しいイノベーションの欠片を見つけることはできないんだよ、はっはっは」 【チナツ】 「もっとそれらしいこと言い始めてるし」 【セツナ】 「もしかしてあたし……ベンチャー企業の創業者になれる才能がある?」 【チナツ】 「ブラック間違いなしですけどね」 【セツナ】 「ダメかぁ」 【チナツ】 「でも、セツナの言う通り、衣装づくりがめんどくさいのは分かりますよ。型紙通りにチャコペンで線を引いて、それを裁断していく……出来合いのものを用意せずに、そこまでガチでやる理由は見受けられません」 【セツナ】 「チナツさん、そういう作業好きそうじゃん。嫌なんだ。意外」 【チナツ】 「嫌いじゃありませんよ。でも、この題材なら貸衣装でもけるじゃないですか。省力化できるところはした方がいいと思うんです」 【セツナ】 「たしかし。うちのクラスの劇、『ロミオとジュリエット』だもんね」 【チナツ】 「そうですよ、『ロミジュリ』。ベッタベタのベタじゃないですか! 衣装なんて探せばいくらでも見つかるでしょう!」 【セツナ】 「うわ、チナツさん、いつになく辛辣っすね」 【チナツ】 「辛辣にもなりたくなりますよ。無難な出店でもやるのかなと思ったら、ステージ枠が取れちゃったんで演劇やります、脚本とか誰も書けなさそうなんで『ロミジュリ』そんままで、代わりに衣装はちゃんと作りましょうね、ってノープランが過ぎるんですよ」 【セツナ】 「気持ちはわからなくもないけども」 【チナツ】 「それに極めつけは……!」 【セツナ】 「7組とネタが被ったこと! だよね〜」 【チナツ】 「ですです。そこが一番ですよ。『ロミジュリ』なんて大抵の人がストーリー知ってるでしょう。それを二回連続で観たい人なんてどれだけいると?」 【セツナ】 「いないよねぇ」 【チナツ】 「しかも私たちが後ろなんて、もう虚無感しかないですよね。こんなに衣装づくりを頑張っても、報われることがないなんて……」 【セツナ】 「そうカッカしているところ悪いんだけど、チナツ」 【チナツ】 「?」 /申し訳なさそうに、 【セツナ】 「実はさ、あたし『ロミジュリ』よく分からないんだよね」 /驚いて、 【チナツ】 「えっ……本当ですか」 【セツナ】 「ざっくりどういう話かは知ってるよ? でも、なんでキャラがそこまで命を懸けるのかとか、分からない部分があって」 【チナツ】 「つまりあれですか、好きって気持ちが分からない、みたいな」 【セツナ】 「うん」 【チナツ】 「……本当によくここまで、悪い虫が付かずに育ってきましたよ。東京都産純粋培養乙女、このまますくすく育ってほしいですね」 【セツナ】 「なんかバカにしてない?」 【チナツ】 「いや、むしろ褒めてるんですけど」 【セツナ】 「ならよかった」 /胸をなでおろして、 【チナツ】 「でも、好きが何かって、そんなの……誰かを好きになったことないんですか?」 【セツナ】 「恋愛ってことでしょ、likeじゃなくてlove。それならないかな」 【チナツ】 「初恋、まだなんですね」 【セツナ】 「うん。胸がトキメいたことなら何回かあるけど、それはあくまでアイドルに対する推しの感情と一緒だしなぁ……みたいな? 一緒にいたいとか、付き合いたい、みたいな気持ちはないかも。だから、ロミオとジュリエットみたいに命を懸けてまで好き合えるの、良く分からないんだよね」 【チナツ】 「好きを言語化するなんて、これまで数多もの哲学者たちが挑んでは敗れてきた題材ですから。分からない方が普通ですよ」 【セツナ】 「だから、さっきの同じ『ロミジュリ』をやっても意味がないって話に戻るんだけどさ。その好きって何かを、7組よりもっと突き詰める展開にしたらどうだろうか」 【チナツ】 「難解すぎません? しかも、誰かが台本を書かなきゃいけないやつじゃないですか」 【セツナ】 「いいじゃん、チナツが書けば」 【チナツ】 「いやです。そもそもクラスメートからは、「書く人いなさそう」って……認識されていないんですよ、私」 【セツナ】 「そこ、根に持ってるんだ」 【チナツ】 「持ちますよ、そりゃ。あぁ、私は日陰者なんだな〜って思うじゃないですか。普通につらいですよ」 【セツナ】 「まぁ、クラスメートみんながどの部活だなんて覚えてないよ、だから仕方ないって」 【チナツ】 「セツナがテニス部なのはみんな知ってると思いますけどね」 【セツナ】 「マジ? ま、そりゃ大会出てるし、朝礼で表彰されたりもしてるからじゃないかな」 【チナツ】 「うちの文芸部は、大会とか出たことありませんから……趣味人の集まりでしかないので」 【セツナ】 「で、台本は書かないわけね」 【チナツ】 「はい。それに好きを突き詰める内容だなんて、私は書ける立ち位置にありませんよ」 【セツナ】 「私小説とかでそういう展開あるじゃん」 【チナツ】 「セツナも私小説読むんですね……でも、無理なものは無理です」 【セツナ】 「え〜、オリジナリティの欠片もない『ロミジュリ』よりはそっちの方が面白いじゃんかよ〜」 【チナツ】 「だとしてもです。ところで、衣装の布にチャコペンで印付け終わったので、切るのお願いしてもいいですか」 【セツナ】 「合点承知の助、ちょっとそっちに行くね」 /SE:ハサミで布を断ち切る音(10秒くらい聞かせてから、セリフをかぶせていく) /ボイス位置:2 【セツナ】 「でも、テンプレ通りやりたくない気持ちは分かるよ。何か手段を探りたいところだよね」 【チナツ】 「手段を探っても、私たちはあくまで大道具・小道具・衣装担当だから何もできないんですけどね」 【セツナ】 「そこで諦めたらゲームオーバーだよ! 例えば、『ロミジュリ』を元に現代劇をやるとかどうかな」 【チナツ】 「ベタですねぇ……。それで許されるのは大学の学生劇団ですよ、これはあくまで高校の文化祭でやるクラス演劇ですから」 【セツナ】 「それはそうだけど、なにかやりたいじゃんかよ」 【チナツ】 「たしかに……」 【セツナ】 「よし、こっち終わった。あとは縫うやつだね」 【チナツ】 「ありがとうございます」 /ここまで断裁の音あり /ボイス位置:7 【セツナ】 「とはいえ、最後にキスするのもなんでかよくわからないんだけどね、『ロミジュリ』」 【チナツ】 「あそこが一番盛り上がる場所じゃないんですか」 【セツナ】 「ほら、文化祭の演劇だと実際にキスするわけでもないじゃん? なのにそこで盛り上がってドキっとするかー? って話」 【チナツ】 「文化祭の演劇に何を求めてるんですか」 【セツナ】 「いやいや、重要だよ、リアリティ。実際の俳優さんたちは好きじゃない相手ともキスをして、好き合っているように見せてるのに」 【チナツ】 「そういうお仕事ですし……あ。そういえば7組の『ロミジュリ』は、外山(とやま)さんと紅林(くればやし)さんがやるみたいですよ」 /嫌いそうに、 【セツナ】 「うげっ、ガチカップルじゃん。え、本当にキスシーンやる気なの?」 【チナツ】 「そうなんじゃないですかね。いいんじゃないですか、ドキドキするでしょう?」 【セツナ】 「いや〜、それはちょっとバグだな。ロミオとジュリエットが結ばれたんだな、じゃなくて、外山と紅林がキスしてるよ、になっちゃうじゃん。私の求めてるリアリティとはちょっとちがうよ」 【チナツ】 「その気持ちは分かりますけど」 【セツナ】 「それにキスっていうのは純粋な気持ちでやらなきゃいけないんだよ、クラス演劇ならみんなが見ている前でできるとかそういうのはよくないと思うんだよな」 /恥ずかしがって、 【チナツ】 「……じゃあ誰も見ていなきゃいいんですか」 【セツナ】 「ん? まぁ、そういうことなんじゃない?」 /小声で、 【チナツ】 「……よし、誰も見ていないな」 【セツナ】 「なに?」 /チナツ、ボイス位置3から8に移動して、 /SE:頬にキス(※センシティブで削除した方が良い場合は、軽い吐息などお願いいたします) /驚いて、 【セツナ】 「……んんっ!?」 /ボイス位置:8 【チナツ】 「……これで少しくらいは、恋心というものを学んでください」 【セツナ】 「ん!? 今何が起きたのかな!? まだあたし、理解できていないんですけど!?」 /ボイス位置:3 【チナツ】 「はーい、ちゃんと縫製作業続けてくださいね」 【セツナ】 「今の流れでできると思うんか!? なんだ、今の……まだほっぺたに感触が……!」 【チナツ】 「言わないでもらっていいですか、恥ずかしい。人が見てるじゃないですか、早く手を動かしてください」 【セツナ】 「人が見てなければいいのか!? ほんとにお前初めてか!? 慣れてねぇか!?」 【チナツ】 「そんな大声出さないでください、バレちゃうじゃないですか」 【セツナ】 「これであたしが怒られるの、不条理が過ぎない……?」 【チナツ】 「いいから、手を動かしてください!」 【セツナ】 「は、はーい……」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック3「ハンバーガーショップに行こう!」 ―――――――――――――――――――――――――――――― /SE:入店音 /SE:雑踏の音(一気にお客さんが話し出してから、フェードアウトして) /快活に、 /ボイス位置:3 【セツナ】 「いただきます」 /ボイス位置:7 /二つとも合わせて、 【チナツ】 「いただきます」 /二人ともハンバーガーの包装を外して、 【セツナ】 「チナツ、何のセットにしたの?」 【チナツ】 「決まっているじゃないですか、ダブルチーズバーガーです」 【セツナ】 「あー、いつもそれだよね。好きすぎない?」 【チナツ】 「大好きですよ。そう言うセツナは何にしたんですか」 【セツナ】 「いつも通りベーコンレタスバーガーセットだけど」 【チナツ】 「好きですよね、それ」 【セツナ】 「いいじゃん、シャキシャキ感が好きなんだよ。あーむっ」 /SE:食事中の袋のごそごそ音(5秒ほど) 【セツナ】 「で、ドリンクはなににしたの?」 【チナツ】 「コーラです」 【セツナ】 「おっ。意外」 【チナツ】 「いつもは避けてるんですけど、たまに飲みたくなりませんか?」 【セツナ】 「分かるよ、分かる。無性に飲みたくなるときってあるよね」 【チナツ】 「それで、セツナはなんなんですか」 【セツナ】 「え、お茶だけど」 【チナツ】 「渋い」 【セツナ】 「炭酸ってお腹膨れちゃわない? ダイエットだよダイエット」 【チナツ】 「隣に炭酸飲料頼んだ女がいるっていうのに、よくそんなことを言えますね」 【セツナ】 「隣で炭酸を飲んでいる女がいるからこそ、それを見ているだけで充分なんだよ」 【チナツ】 「そういうものですかねぇ……」 /SE:ドリンクの氷が鳴る音 【チナツ】 「ぷはっ。そういえばなんですけど」 【セツナ】 「どした?」 【チナツ】 「昨日、テレビを観ていたときに偶然やっていたバラエティ番組が面白くてですね」 【セツナ】 「どんなのやってたの」 【チナツ】 「知りませんか、ミリオンダウトっていう芸人さん」 【セツナ】 「あー、あの9人組のやつだ。観たことあるよ、その人たちのコント」 【チナツ】 「そうその人たちが面白くて。そんなにがっつり観るつもりじゃなかったんですけど、いつのまにか23時になっていました」 【セツナ】 「それくらいの時間、あたしはずっとゲームやってたからな……」 【チナツ】 「あぁ、ずっとやっているあのパズルゲームですね。私は難しくて止めちゃいましたが」 【セツナ】 「面白いのに残念。あれを無限にチェインしていくと、なんかストレスが飛んでいくのに」 【チナツ】 「そこまで私には飛ばしたいストレスがあるわけではないですからね」 【セツナ】 「そういえば、あたしも最近よくYouTubeで観る芸人がいてさ」 【チナツ】 「へぇ、珍しいですね」 【セツナ】 「えーとねぇ……この人! ほら、顔めっちゃかわいくない!?」 /やや不機嫌に、 【チナツ】 「へぇ、こういうのがお好きなんですか」 【セツナ】 「なにその不服そうな顔。かわいいじゃん、このかわいい人がだよ!? すっごいシュールなリズムネタやるの! いきなりYouTubeで流れてきて笑っちゃったんだよね、再生数はそこまで伸びてないみたいだけど」 【チナツ】 「たしかに。152回……かわいいだけじゃダメなんですね」 【セツナ】 「残酷だねぇ」 /SE:セツナ(7側)がドリンクを飲む音 【セツナ】 「で、本題なんだけどさ」 【チナツ】 「本題とは……? 普通に放課後ハンバーガー食べに来ただけじゃないですか。何も話すことはないと思うんですけど」 【セツナ】 「そんなこと言わずにさ、実は今日ずっとチナツに話したいことがあったんだよね」 /まんざらでもないように 【チナツ】 「あれだけ休み時間に話しておいて、まだなにかあったんですね」 【セツナ】 「いいじゃんいいじゃん、今日は水曜日、ってことは部活もお休み! だからこうやってチナツとの会話もボーナスステージなわけですよ」 【チナツ】 「世の中には、おしゃべりをするだけで10分数千円とか取るお店もあるそうですよ。私とのおしゃべりも課金制にしますか?」 【セツナ】 「はい、じゃあ課金」 /SE:ポテトの咀嚼音、チナツ側(3) 【チナツ】 「ポテト一本でおしゃべりができるほど、私は安い女じゃないんですけどね……で、本題ってなんなんですか」 【セツナ】 「現金な奴だなぁ……そうそう。前、水族館に行ってきたんだよ。ほら、スカイツリーの近くにあるじゃない」 【チナツ】 「ありますね、水族館。誰と行ったんですか」 【セツナ】 「いもーと」 【チナツ】 「あぁ、舞果(まいか)ちゃんですね」 【セツナ】 「そう、舞果がどうしても行きたいって言っててさ。だから、あたしと舞果と、その友だちの七海(ななみ)ちゃんだったかな、と三人で行ってきたの」 【チナツ】 「私も誘ってくれればよかったのに」 【セツナ】 「おしゃべり課金制にしようとしてたのに、よく言うよ」 【チナツ】 「それはそれ、これはこれです」 【セツナ】 「で、水族館でチンアナゴを見たり、他のお魚を見たりしたんだけどさ」 【チナツ】 「チンアナゴ以外の分類が雑過ぎませんか?」 【セツナ】 「いいんだよ〜、お魚さんがいっぱいいたのは事実だし! で、その後水族館の周りを散策してたらさ、見つけちゃったんだよ……女子高生が行きたいアクティビティナンバーワンを」 /辟易としながら、 【チナツ】 「セツナが見つけたアクティビティという時点で、察するものがありますけど……なんですか」 /意気揚々と、 【セツナ】 「皿割り」 /唖然として 【チナツ】 「はい?」 【セツナ】 「だから皿割りだよ、チナツ」 【チナツ】 「皿って……普段私たちが食事で使っているあのお皿ですよね」 【セツナ】 「そうそう。それをストレス解消も兼ねてガシャコーンと投げるの」 /引き気味に、 【チナツ】 「そ、そんな文化があるんですね」 【セツナ】 「引くんじゃないよ〜。で、そこに行きたいんだけどさ。さすがに舞果と七海ちゃんを誘うのもなんだかなーじゃない」 【チナツ】 「そりゃそうですよ、舞果ちゃん、まだ小学生ですよね」 【セツナ】 「そうそう。だから、チナツぅ〜、一緒に行かない〜?」 【チナツ】 「お皿割りですか、やってみたさはありますね……」 【セツナ】 「うっし! じゃあ、来週ね」 【チナツ】 「早すぎません!?」 【セツナ】 「そりゃそうだよ、善は急げって言うじゃない」 【チナツ】 「備えあれば憂いなしとも言いますけど」 【セツナ】 「まぁ、こういうのは思い立ったが吉日だよ。じゃあ予約しておくね」 /残念そうに、 【チナツ】 「なんか言いくるめられた気がする……」 【セツナ】 「ってことで、来週は一緒にお出掛けするわけだけど、チナツはどこか行きたい場所ある?」 【チナツ】 「そうですね……ちょっと待ってください、考えますから」 【セツナ】 「おっけ、ちょっと食べて待ってるよ」 /SE:セツナ側(7)で食べる物音(5秒ほど) 【チナツ】 「決まりました」 【セツナ】 「なになに、聞かせてよ」 【チナツ】 「来週、ちょうど大好きな作家さんの本が出るんですよ。買いに行きましょう」 【セツナ】 「えー、それってお出掛けまでしてするものなの?」 【チナツ】 「はい。実は書店ごとに特典のしおりが違うんです」 【セツナ】 「それをコンプリートしたいんだ」 【チナツ】 「はい。なので、それに付き合ってください」 【セツナ】 「わかったわかった、ところでその本は面白いの?」 【チナツ】 「いや、まだ発売前ですから、実際に読んでみないことには面白いかどうか分かりませんが……でも、福永先生の作品であれば絶対に面白いって信じています」 【セツナ】 「ふーん、じゃあドラマになったら教えてよ」 【チナツ】 「ほんとセツナは活字が苦手ですよね。てんで読まないじゃないですか」 【セツナ】 「文字だけで場面とか思い浮かべるの大変過ぎない? 現代文の試験だけでいいよ、小説を読むのは……」 【チナツ】 「それに、前もそうやって「あたし活字苦手だから、ドラマ化したら教えて」って言ってた本が放送されましたけど、観てくれなかったじゃないですか」 【セツナ】 「そうだっけ?」 【チナツ】 「です! だから、今度はマンガになったら読んでください」 【セツナ】 「ドラマじゃなくてマンガなのね、それならたぶん……」 【チナツ】 「言質録りました、やりましたね! じゃあ次のお出掛けでは、セツナに読んでもらう本も探しに行きましょう」 【セツナ】 「もしかして、それが目的だった?」 【チナツ】 「いやいや、あくまで主目的はお皿割りですよね? こっちはおまけです」 【セツナ】 「なんか腑に落ちないんですけど……」 【チナツ】 「じゃあ、来週の日曜日、セツナの家に向かいますね」 【セツナ】 「なんかやる気になってるし。わかった、朝8時でいい?」 【チナツ】 「いいですけど、起きれます?」 【セツナ】 「なにを、もうあたしだって女子高生だぞ! 起きれるに決まってる! ……って、自信もって言えれば良いのにね……」 【チナツ】 「やっぱり。じゃあ朝6時くらいに電話して起こします」 【セツナ】 「うん、ありがと。助かるわ」 【チナツ】 「いいんです、寝起きでふにゃふにゃ声のセツナを聞くの、楽しいですし」 /赤面して、 【セツナ】 「やっぱダメ、今のなし! 寝起きボイスで通話しない!」 【チナツ】 「セツナの寝起きボイスを聞けるのは、私だけなんですから」 【セツナ】 「だ、め!」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック4「二人だけしかいない朝の時間」 ―――――――――――――――――――――――――――――― /SE:歩いてくる音 /SE:ドアが開く音 /ボイス位置:14 【セツナ】 「あ、おはよ」 /SE:ドアを閉じて、 /ボイス位置:3 【チナツ】 「おはよう。セツナ」 /SE:歩いてくる音 /ボイス位置:7 【セツナ】 「今日はなんでこんな朝早いの、チナツは朝練ないじゃん」 【チナツ】 「朝練がなくたって、早く来ることぐらいありますよ」 【セツナ】 「ふ〜ん」 【チナツ】 「と言いつつ、本当は朝早く目が覚めちゃったから、なんとなく来ただけですよ」 【セツナ】 「じゃ、あたしと一緒だ」 【チナツ】 「寝起きが弱いセツナにも、そんな日があるんですね」 【セツナ】 「寝起きが弱いこと言うなし」 【チナツ】 「いいんですよ、寝起きの弱いセツナの録音を流しても」 /焦って、 【セツナ】 「え、そんなの録ってたの!? やめてよ、いつ!?」 【チナツ】 「嘘です、録っていたとしたら、バレないようにしています」 【セツナ】 「録っていないとは言っていないのが気になるなぁ」 【チナツ】 「ふふっ、どうでしょうね」 /SE:ロッカーにかばんをしまう音 【セツナ】 「そういえばさ、今日の一時限目って体育じゃん」 【チナツ】 「あぁ、今日から水泳ですよね。プール、やりたくない……」 【セツナ】 「チナツはカナヅチだから、気になってたんだよね。泳げるようになりましたか〜」 【チナツ】 「その赤ちゃんにあやす言い方、やめてください! いや、泳げるようにはなっていないですけど」 【セツナ】 「そんなアウトドア派でもないもんね。じゃあ今年も一緒に泳げないのかー」 【チナツ】 「セツナは上級者コースですもんね。私はビート版を使った初心者コース」 【セツナ】 「そもそも泳ぎに行かないからいいだろ! って思わなくもないけど、暑いときにプール入れるのは気持ちいいからねぇ」 【チナツ】 「気持ちいいとは思いますけど、それはそれです」 【セツナ】 「だよねー。で、水着持ってきた?」 /少し小声で、 【チナツ】 「持ってきましたよ。なんなら買い換えました」 【セツナ】 「よかった、水泳初回って誰か忘れる人出るじゃん。プールサイドの見学ってなんか寂しいから……って、買い換えたの?」 【チナツ】 「はい、新しい水着ですよ」 【セツナ】 「なんで。去年も買い換えたって言ってなかったっけ」 【チナツ】 「そうですね、去年も買いました」 【セツナ】 「どうしてあんま水泳しないのに、水着が増えていくの?」 /恥ずかしがって、 【チナツ】 「いやぁ、それはほら……胸がきつくなって入らなくなったからですけど……」 【セツナ】 「あぁ! 見るからに大きくなっていくな〜とは思ってたけど、やっぱりか!」 【チナツ】 「せ、セクハラです! いくらセツナとはいえ、私の胸を観察するのは犯罪です!」 【セツナ】 「ごめんって。でもそっか、今年も買い換えたんだ……あたしは中学からずっと同じスクール水着なのに」 【チナツ】 「そもそも高校生になってまでスクール水着っていうのも考えものですよね。身体の成長に見合っていないじゃないですか」 【セツナ】 「ん? それはあたしのおっぱいがそんなに大きくないって言いたいの?」 【チナツ】 「違います違います! そういうことじゃなくて、単純に控えめなデザインならビキニとかでもいいんじゃないかってことです」 【セツナ】 「それは思うよ〜? でも、この学校ってさ、未だに眉毛は剃るな! とか、地毛じゃないといけません、これもダメあれもムリです、なんて校則あるじゃん」 【チナツ】 「極めつけには、休みの日でも制服で出歩けってやつですね」 【セツナ】 「そうそう。そこまで縛るなんて前時代的すぎだろ! って感じで、正直誰も守っていないけどさ。そんなところがビキニを許すと思う?」 【チナツ】 「思いませんねぇ」 【セツナ】 「でしょ? だから、そんな校則を変えるためにさ、チナツ、生徒会長になってよ!」 【チナツ】 「へぇ!? なんでそうなるんですか!?」 【セツナ】 「生徒会長になって、校則を変えてくれれば、あたしもチナツのビキニが拝めるから」 【チナツ】 「そんな不純な動機で立候補なんてしませんよ!」 【セツナ】 「えー。ざんねん……じゃあ代わりに書記とかになってよ。会長ほどじゃなくても、少しくらいは校則変えられるんじゃない?」 【チナツ】 「たとえば?」 【セツナ】 「クラスのみんなで猫を飼える権利! とか」 【チナツ】 「なるほど……大変そうですけど、いいかもしれません。猫は可愛いですからね、仕方ないです」 【セツナ】 「チナツもにゃんちゃん飼ってたよね、何ちゃんだっけ」 【チナツ】 「アヤネとマユですね。最近子どもが生まれたんですよ。写真見ます?」 /ボイス位置:4 【セツナ】 「見せて見せて……かーわーいーいー!」 【チナツ】 「名前はポン太です」 /ボイス位置:7 【セツナ】 「アヤネ・マユと来てからのポン太、謎ネーミングセンス」 【チナツ】 「かわいくないですか」 【セツナ】 「かわいいとは思うけどさぁ、もっとあるじゃん名前」 【チナツ】 「命名は私です」 【セツナ】 「知ってた」 /誇らしげに、 【チナツ】 「どうです、かわいいでしょう。ふふん」 【セツナ】 「いや、チナツが勝ったわけじゃないから。アヤネちゃんとマユくんとポン太くんがかわいいだけだから」 【チナツ】 「あぁ、ポン太はメスです」 【セツナ】 「ポン太ちゃんだったかー」 【チナツ】 「猫ってほんとにかわいいですよね」 【セツナ】 「わかるー、にゃんこになりたいよねー」 /引き気味に、 【チナツ】 「えっ、猫になりたいって……「ご主人様、オムライスだにゃん」とか言いたいってことですか」 【セツナ】 「そういう話じゃなかったでしょ、チナツちゃん! 話の脈絡考えて!」 【チナツ】 「いや、セツナだったらノリノリでやりそうじゃないですか。猫耳メイド」 【セツナ】 「そんな属性もりもりのものをやりそうに見えてるの、あたし……ちょっと今後の人生考えるわ」 【チナツ】 「似合うと思いますけどね」 /まんざらでもなさそうに、 【セツナ】 「そう? やれって言われたらやるけど、自分からはやらないね!」 【チナツ】 「じゃあやってみてください、クラスメートが来る前に」 /恥ずかしがって、 【セツナ】 「え、マジでやるの……? ちょっと待って息整えるから。(深呼吸) よし」 【チナツ】 「はい、セツナちゃんの猫耳メイドまで、3、2、1、キュー」 /照れながら、 【セツナ】 「お帰りなさい、ご主人様! ご主人様のお帰りを、今か今かと待っていたんだにゃん! 今日はセツナとずーっといちゃいちゃしてほしいにゃん?」 /ニヤニヤして、 【チナツ】 「……録音しました」 /激高、 【セツナ】 「や、やめろー!」 【チナツ】 「こんなかわいいセツナはレアですからね、照れまで含めて何度も聞きたいってものです」 【セツナ】 「だ、だめ、何度でもやってあげるから、録音は消して……」 【チナツ】 「いま、何度でもやってあげるって言いましたね。約束、ですよ」 【セツナ】 「うん、約束! ……あれ、これ罠にかかってないかー!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック5「朝の電話」 ―――――――――――――――――――――――――――――― /SE:着信音 /寝ぼけ眼で、 /ボイス位置:3 【セツナ】 「もしもし、神崎(かんざき)ですけどぉ」 /しっかり起きていて、電話越しに /ボイス位置:7 【チナツ】 「おはようございます、南須原(なすばら)です」 【セツナ】 「あれ、チナツぅ?」 【チナツ】 「そうですよ、あなたの大親友の南須原チナツです」 【セツナ】 「もう朝なのぉ?」 【チナツ】 「ベッドから起きて、壁に掛かっている時計を見てください。もう朝6時ですよ、6時。起きてください」 【セツナ】 「もうちょっと寝ちゃ、ダメ?」 【チナツ】 「可愛く言ったってダメなものはダメです。8時には迎えに行くんですから、早くご飯を食べて、早く着替えて、早くメイクしてください」 【セツナ】 「今日、日曜日だよ? そんな早く起きなくたっていいじゃん」 【チナツ】 「誰が言いましたっけ、お皿割りに行きたいって。それに付き合わされるこっちの身にもなってください」 【セツナ】 「そんなこと言うんだったらチナツは行かなくていいよ、舞果と一緒に行くもん」 /慌てて、 【チナツ】 「す、すいませんでした! 今日はとっても楽しみですからね! だからセツナには早く起きてほしいな、起きてほしいな〜って思っていますよ!」 /だんだん目が覚めてきて、 【セツナ】 「じゃあ、だいすきって言って」 【チナツ】 「へ?」 【セツナ】 「チナツがあたしのこと大好きって言ってくれたら、起きる」 /あたふたしながら、 【チナツ】 「え、なんでそういうことになるんですか。おかしくないですか?」 【セツナ】 「あぁ、好きじゃないんだ。好きじゃないのにほっぺたにキスするような女の子だったんだね、チナツちゃんは、あたしは悲しいよ」 【チナツ】 「そ、そんなわけないじゃないですか!?」 /意を決して、 【チナツ】 「い、いきますよ」 【チナツ】 「セツナ、大好きです。本当に大好きです」 /照れて、 【セツナ】 「ありがと! じゃあ、8時ね!」 /SE:通話が切れた音 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■トラック6「街角にある喫茶店に行こう」 ―――――――――――――――――――――――――――――― /SE:ドアのベルが鳴る /ボイス位置:16 【チナツ】 「いや、楽しかったですね!」 【セツナ】 「まさか、あたし以上にお皿割りに熱中するなんて……」 【チナツ】 「あれだけやりたいやりたいって言ってたセツナの方が消極的になってどうするんですか」 【セツナ】 「そう言われるとぐうの音も出ない。でもなんか怖かったんだよ……新しい衝動に目覚めそうな感じがして」 【チナツ】 「たしかに。あのまま続けていたら、お皿割りジャンキーになっていたかもしれません」 /SE:足音が近づいてきて /SE:二人の着席音 /ボイス位置:3 【セツナ】 「ともあれ、これでようやく一息付けるね」 /ボイス位置:7 【チナツ】 「そうですね。歩いてくたびれましたし、喫茶店で一休み。いい休日です」 【セツナ】 「お皿も割ったし、いっぱい本も買ったしね」 【チナツ】 「そうですよ、福永先生の警部補シリーズ、とっても面白いのでコミカライズ版読んでくださいね」 【セツナ】 「はいはい。で、まだ14時だけど、あとでどこか行く?」 【チナツ】 「そうですね……服でも見に行きます?」 【セツナ】 「見たいかも。ちょうど出てきたし、次の季節のアイテムもそろそろ出てきてそうだもんね」 【チナツ】 「ですです。セツナはなにかあります?」 【セツナ】 「そうだなぁ……最近、レコード収集にはまっててさ」 【チナツ】 「レコード、ですか」 【セツナ】 「そう。レコードってサブスクで聞く音楽と違って、何かこう、味があるじゃない?」 【チナツ】 「言わんとしていることは分かりますけど、そんなセリフがセツナから出るなんて思いもしませんでした」 【セツナ】 「あたしだってオシャレでロマンのあることもしゃべります〜」 【チナツ】 「ふふっ、子どもみたい」 【セツナ】 「今子どもっぽいって言ったな! 大人のレディなの、レディ!」 【チナツ】 「はいはい、すいませんでした。で、レコードってどうやって再生するんですか。セツナの家、再生機置く場所とかあるんです?」 【セツナ】 「今は折り畳みで、Bluetooth式のがあるんだよ。だからいつでも聞けるの。CDよりパッケージも薄いし、探す楽しみもあるから面白いよ?」 【チナツ】 「へぇ〜、どんなのを聞くんですか」 【セツナ】 「往年のジャズの名盤なんだけど」 【チナツ】 「セツナがまともなことを言い始めた……通ぶり始めた……」 【セツナ】 「いいじゃん! サブスクで聞いたときにいいなと思って買っちゃったんだよね。だからそういうのばっかり聞いてる」 【チナツ】 「私は歌謡曲を聞くのが好きなので、そのあたりもオススメですよ」 【セツナ】 「いきなり推してくるじゃん」 【チナツ】 「本もそうですし、私の好きなことをもっと好きになってほしいですから」 【セツナ】 「ふーん。じゃああとで一緒に探しに行こ」 【チナツ】 「はい」 /SE:グラスが置かれる 【セツナ】 「注文届いたけど、何頼んだの?」 【チナツ】 「私はウインナーコーヒーです。セツナは?」 【セツナ】 「あたしはミルクコーヒー。あと、ポテトね」 【チナツ】 「ポテトもらってもいいですか」 【セツナ】 「コーヒー口付けてからね」 【チナツ】 「はーい」 /SE:両側でコーヒーをすすり、 【セツナ】 「はい、じゃあ、あーん」 【チナツ】 「え、そういう!? じゃあ、あーん……」 /SE:3側で咀嚼音 【チナツ】 「……美味しいです」 【セツナ】 「やった」 【チナツ】 「勝ち誇るべきはセツナじゃなくて、ここのお店の人でしょう」 【セツナ】 「そんなお店を探し当てたあたしの勝利でもあると思わない?」 【チナツ】 「思いません。何度来てると思っているんですか、ここ」 【セツナ】 「十回くらい?」 【チナツ】 「もっとですよ。ここは雰囲気がいい場所ですからね、もっと来てます」 【セツナ】 「ふふん。あたしの方がもーっと来てると思うな〜? ってことで今日も私の勝ち!」 /呆れたように 【チナツ】 「はぁ……」 /SE:ボタンを押す音、衣擦れ音 /ボイス位置:3 【セツナ】(録音音声) 「お帰りなさい、ご主人様! ご主人様のお帰りを、今か今かと待っていたんだにゃん! 今日はセツナとずーっといちゃいちゃしてほしいにゃん?」 /被せて、 /ボイス位置:7 【セツナ】 「うおぉい! 録音を流すのはやめろって!」 【チナツ】 「すみません。ついムカついてしまって」 【セツナ】 「っていうかそれ、消せって言ったのに……!」 【チナツ】 「これ以上の爆弾音源もいっぱいハードディスクには溜まっていますけどね」 【セツナ】 「あははは」 【チナツ】 「うふふふ」 【セツナ】 「……向かいの映画館さ〜?」 【チナツ】 「露骨に話題を変えましたね、なんですか」 【セツナ】 「いや、最近映画観てないなーって。でもたまにさ、映画館でポップコーンを食べたくなるときってない?」 【チナツ】 「気持ちはわかりますけど、私は映画を見るとき何も食べない派なので」 【セツナ】 「ポップコーン食べるときの音が気になっちゃう人?」 【チナツ】 「そうですね。それよりもジュースを飲んだときに残り少なくなったボコッって音の方が気になりますけど」 【セツナ】 「でも、ポップコーン食べたくならない?」 【チナツ】 「なります」 【セツナ】 「何味が食べたい?」 【チナツ】 「私はキャラメルポップコーンが好きですね。あのテカテカした触感、たまりませんよね」 【セツナ】 「塩もよくない? あの塩気がジュースと合わさって最高だなって思うんだけど」 【チナツ】 「じゃあハーフポップコーンを買えばいいんですよ、どっちの味も楽しめるやつ、あるじゃないですか」 【セツナ】 「あぁ……でもあれって一人で食べるには量が多くてさ、食指が伸びないよね」 【チナツ】 「いま、ここに二人いるでしょうに」 【セツナ】 「あ、そっか。ここの喫茶店って持ち込みOKだったよね?」 【チナツ】 「えぇ、ワンドリンクオーダーすれば、食料の持ち込みが可能です」 【セツナ】 「じゃあ、ちょっと待ってて。向かいでポップコーン買ってくるね」 /SE:遠ざかる足音 【チナツ】 「行ってらっしゃい」 /SE:ドアが閉まる音 【チナツ】 「まったく行動力が凄まじいんだから……」 /SE:コーヒーをすすって、 【チナツ】 「でも、こうやって休日に二人でお出掛けできるのは楽しいな」 【チナツ】 「いつまでも一緒にデートできたらいいのに」 【チナツ】 「そのためには、いつか想いを伝えなきゃ、だけど」 /SE:ドアが開く音 /SE:近づいてくる足音 /ボイス位置:7 【セツナ】 「ハーフ、売ってなかったからキャラメル買ってきた!」 【チナツ】 「いいんですか? 塩味じゃなくて」 【セツナ】 「いいっていいって、こういうときはあまり食べない方が食べたくなるし」 【チナツ】 「その理論だったら、私は塩味を食べたくなるんですけど……まぁ、いいです。ありがとうございます」 【セツナ】 「いただきまーす」 /SE:ポップコーン咀嚼音(両側から) 【チナツ】 「うん、美味しいです」 【セツナ】 「久しぶりに食べたけど美味しいね、これ!」 【チナツ】 「でしょう? 美味しいんですよキャラメルポップコーンは」 【セツナ】 「今度はそっちが得意げになっちゃって……これ作ったのは映画館の人なんだけどな」 /慌てて、 【チナツ】 「あ、キャラメルが歯に挟まってしまいました。ちょっと取ってきます」 /SE:足が遠ざかる音 【セツナ】 「行っちゃった。ここでどうにかしてもいいのに」 /SE:コーヒーをすする音 【セツナ】 「まぁ、見られたくないものなのかな、女心って分からないなぁ」 /SE:咀嚼音 【セツナ】 「うん、美味しい」 /SE:足音が近づいてきて、 /ボイス位置:3 【チナツ】 「戻りました」 【セツナ】 「おかえり」 【チナツ】 「待っていたときなにを考えていたんですか? 私の悪口とかです?」 【セツナ】 「ネガティブすぎない? 普通に、休日お出掛け出来て楽しいなとかそんなだけど」 /照れながら、 【チナツ】 「それはどうも。私もセツナと一緒にお出掛けできて嬉しいですよ」 /照れて、 【セツナ】 「こちらこそ」 【チナツ】 「で、何の話でしたっけ」 【セツナ】 「キャラメルポップコーンの前、何喋っていたか忘れちゃったな」 【チナツ】 「何か別の話をしましょう。コイバナとかですかね?」 【セツナ】 「あたしたちでどういうコイバナしようっていうのさ、なにも縁がないでしょ縁が」 【チナツ】 「もしかしたら私にも好きな人がいるかもしれないじゃないですか。少しくらい興味を抱いてくれたっていいんですよ」 【セツナ】 「え、いるの好きな男」 【チナツ】 「いや、好きな男はいませんけど」 【セツナ】 「やっぱりいないんじゃん」 【チナツ】 「男とは一言も言っていませんからね」 【セツナ】 「じゃあ女の子?」 /顔を赤らめて、 【チナツ】 「さぁ、どうですかね」 【セツナ】 「顔を赤らめるくらいならそんな話を振るんじゃないよ、らしくもない」 【チナツ】 「あーあー、聞こえないー」 【セツナ】 「今朝、こんなこと言ってたのに?」 /SE:ボタンを押す音 /ボイス位置:7 【チナツ】(録音音声) 「セツナ、大好きです。本当に大好きです」 /ボイス位置:3 【チナツ】 「ろ、録音なんてしていたんですか! まさか起きてたな!」 【セツナ】 「仕返しだよ、さっきの仕返し!」 【チナツ】 「け、消してください!」 【セツナ】 「じゃあさっきの猫耳メイド音声とトレードと行こうか」 【チナツ】 「くっ……じゃあ、不問とします」 【セツナ】 「そこまでして消したくないのかよ……」 【チナツ】 「ふふっ、ポップコーンとコーヒーって相性がいいですね〜」 【セツナ】 「合うか……? いや、合うわ。話題逸らしが雑だけどよ」 /SE:ポップコーンの咀嚼音 【セツナ】 「そういえば、なんだけどさ。ポップコーンを買いに行ったときにちょうど時刻表を見てきて」 【チナツ】 「映画のですか?」 【セツナ】 「ちょうど30分後くらいに始まるのがあったんだけど、観に行かない?」 【チナツ】 「そうですか。……まあ、いいかもしれませんね」 【セツナ】 「じゃあ決まりね。たのしみたのしみ♪」 【チナツ】 「20分後くらいまでには、ここを出ないとですね」 【セツナ】 「うん。あと少し、食べちゃうぞー!」 【チナツ】 「それこそポップコーンは残しておいて、映画館に持っていけばいいんですよ。無理しなくて大丈夫です」 【セツナ】 「天才か?」 【チナツ】 「それほどでも」 /SE:ポテトの咀嚼音 【セツナ】 「いやぁ、今日は晴れてて気持ちがいいね」 【チナツ】 「どうしたんですか、いきなり会話初心者みたいな話の始め方」 【セツナ】 「いいじゃんいいじゃん、それ以外取り留めて言うこともないくらい平和ってことだよ」 【チナツ】 「ふーん」 /SE:コーヒーを飲み干して、 【チナツ】 「それじゃあ行きましょうか」 【セツナ】 「うっし、映画楽しみだね!」 【チナツ】 「はい」 /SE:足音遠ざかって、 /ボイス位置:16 【セツナ】 「ごちそうさまでしたー!」 【チナツ】 「美味しかったです」 /SE:扉が閉まる音