あぁ……。  ……お疲れ様。  斡旋所のお嬢さんとお話しできたのね。  何を言っているの。  お礼なんてとんでもない。  ……この家にあるものは、いくらでも貴方の好きに使って頂戴。  話し方だってそうよ。  こんな私に敬語を使う必要なんてないわ。  ……ええ、その話し方でいいわ。  だって、私は。  貴方にあんな事をしてしまったんだもの……。  ……。      ……当然よ。  落ち込むというか、いけない事をしたと思っている。  ……だって私は、昨夜。  医師として、貴方を治療するつもりでいたのに。  いつの間にか、己の使命を忘れて……。  貴方との行為に夢中になってしまったのだもの。      ……だから、私の結論は先程述べた通りよ。  貴方は私の傍になんて居てはいけない。  予定通りのお給金と、ささやかではあるけどお詫びの品を贈るから。  お仕事の話はなかった事にするのがいいと思うの。  ……お金を払って済む問題ではないけど、せめてこの位はさせて頂戴。  貴方には、お金が沢山必要だと聞いているし……。  え?  あ。これは、斡旋所のお嬢さんから聞いたの。  昨日、面接の直前にもう一度ご連絡を頂いて。  貴方について、色々教えて下さったから。  ……あら。  彼女はクロエさんというのね。  クロエさんはよい方ね。  貴方の事を『とても真面目で優秀。熱意のある方だから、ぜひ前向きに検討してほしい』って、大変熱心に紹介して下さったわ。  今回は受験しない事にしたけれど、本来なら七月の試験にだって合格できる実力の方だという事も聞いた。  だから、もし採用になれば確実に戦力になるし、人柄も申し分ないって。  ええ、そうよ。  ……そういえば、貴方達って、どういった間柄なの?  彼女、随分貴方についてお詳しいみたいだけれど。  ……まぁ。そうだったの。  素敵。  十年ものお付き合いのお友達なのね。  私にはそういう方はいないから、羨ましいわ。  ……ん?  ……ぁ。  ……そうね。  話を戻しましょう。  では、次は貴方の気持ちを聞かせて。  どうして貴方は、私の提案を受け入れて下さらないの?  貴方にとっては、まだ不足という事かしら……。  ……お金の問題ではないとおっしゃるのね。  確かにそれは、貴方の言う通りだわ。  だけど、せめて……。  ……えっ?  何をおっしゃるの。  私は自分のしてしまった事を、正しく理解しているわ。  私は昨日、治療中貴方に溺れてしまっただけでなく。  ……その後も、何度も。  まだ万全ではなく、拒めない状態の貴方を。……何度も抱いた。  それは事実でしょう?  貴方だって、この事について、怒っているのだとばかり……。  ……本当……?  とても、信じられないわ。  ……え?  ……まさか。  それは違う。  それこそ誤解だわ。  今朝まで……ああしてる、時。  貴方の気持ちは、私に伝わっていたわ。  すごく……伝わって、きた。    ……でも。貴方は真面目で。  ずっと禁欲していたし。  何より、私があの治療法を強引に勧めてしまったから……。  後から嫌になっても、本当の気持ちを言い出せなかったり。  『治療を受ける』という。  自分で言い出した事の責任を取ったりしているだけなのではないかと、思ってしまって……。  え……?  ……そう、なの。  じゃあ貴方は、私を許すというの?  私は、私を許せないのに……。  どうして……。  ぁ。  ……ちゅ。  ……あ……。ぁ。ぁ。  あ……。  はー、っ……。  ……っ……。  ……うん。  今ので、わかったわ……。  貴方が、不思議な人だって事は。  とてもよくわかった……。  ……不思議よ。優しすぎるって、よく言われない?  そうよ……貴方みたいな人、私は知らないわ。  ちゅ。ちゅ。ちゅ。  初めて……出会ったの。  ……ええ。わかったわ。  貴方の気持ちは、とてもわかった。  ご意向に従うわ。  契約は切らない。貴方には、今日からも、ここに居て。  予定通りお仕事して頂く。  無論。貴方がこんな私でもいいとおっしゃってくれるのであれば、の話だけれど……。  ……!  ……こちらこそ、ありがとう。  改めてよろしくね。  ……私の、助手さん。  じゃあ……早速で申し訳ないのだけれど。  先程から、ずっとお伝えしたかった事を言ってもいい?    私のあげたお洋服……こちらの色にしたのね。  よく似合ってる。  お姫様みたいよ。  ええ。お姫様。  私には、今、その位貴方が素敵に見えているの。  ……でも、お化粧品やアクセサリーはどうしたの?  私、一緒に机に置いておいたのに。  そうよ。脇の机に置いたあれ。  あそこにある物は、全部貴方が好きに使ってよかったの。  でも、今朝。貴方はそうされていなかったから……。  だから私……てっきり貴方が怒っているのだと……。  え。  ……あぁ、そうだったのね……。   『単に、自分宛てのものだとは思わなかった』。  それだけの事だったのね。  ……なんだ。勘違いしていたの、私。  ふふ……おかしいわね。  いいのよ。  じゃあ、誤解が全部解けた所で、もう一つご提案させて。  本当はね。  私……もっと貴方が欲しいの。  もっと貴方が嬉しくて……私も嬉しい事が、したいの。  それにね、それだけじゃないの。  私、昨夜、貴方の夢を見たの。  貴方が、したい事をしている夢。  私なら。きっと……それを現実にできると思うわ。  だから、させて頂戴?