……ええ。  そういった訳なの。  だから、彼女はお預かりするわね。  それでは、ごきげんよう。  ……まぁ。  目を覚まされたのね。  おはよう。    あっ……。  違ったわね。  『こんばんは』。  『こんばんは』の方が、適切な時間だったわ。  こんばんは。  気分はいかが?  あぁ……。  『なぜ、ここで寝ているのかわからない』といった顔ね。  少々記憶が曖昧になっているのかしら。  貴方はね。  私との面接の後、契約のお話をしている時に倒れたの。  だから、しばらくここで休んで頂いていたのよ。  あの……それで。  『できれば』で、よいのだけど。  今の容態を、ご自分で話す事はできるかしら。  ……。  あぁ……やっぱり。  進行が思ったより早いわ。  それだけ重いのね。  ……それでも、意識が戻ったのは良い事だわ。  仕方がないけれど、早速診始めた方がいいかもしれない。  同意書のサインは頂いている事だし。  ん?  ええ。  わかっているわ。貴方の身体の事は。  思うように話す事ができないのでしょう。  だから……今も声を発せない。  正確には、とても小さな声で話すのが、やっとよね。  そうでしょう?  ……うん。  突然こんな事になってしまって、驚いているわよね。  ……でも、心当たりはきっとあるはず。  たとえば、疲労。  過度のストレス。  そして、睡眠不足。  そうね……。  『苦しくて眠れない程悩む日が、しばらく続いていた』  『長期に渡って、精神的によいとは言えない状況にあった』  そういった事があったのではないかと、私は推測しています。  ……辛かったでしょう。  よし、よし。    ……けれど、もう大丈夫よ。  私がついているわ。  決して病魔の思うようにはさせない。  貴方の回復を保障します。  勿論、最終的には貴方の判断に委ねるけれど……。  どうか、私に任せて。  あ……。  ……ごめんなさい。  私ったら、また説明が足りなかったみたいね。  昔言われたの……『お前の話は、順序を飛ばし過ぎていて、よくわからない』って。  ……だから、やり直し。  今度は結論から言うわ。  ……あのね。  大事な事だから、よく聞いて頂戴。  貴方の身体は今、未知の奇病に冒されています。  私の目的は、この病の治療法を確立する事。  その為に助手を募集し、貴方をここへお呼びしました。  そして、先程の面接を経て。  『一月の間、ここに住み込みで働いて下さい』とお願いしたの。  本当なら……貴方の仕事は、明日から。  貴方には、私が今だけ保有する力を使いながら、少しずつ実験の協力をして頂くつもりだった。  けれど、事情が変わった。  だから……もし。  貴方さえ許してくれるなら。  私はまず、貴方の治療から始めたいと思っています。  ……今の私なら、それができるから。      でも……。  先程の面接でもお話した通り。  また……職業斡旋所のお嬢さんからも聞いているかもしれないけれど。  私の技術は少し変わっている。  これから貴方に施す予定の術は、まだ、他の誰にも試した事がないし……。  少し特殊すぎて……それを嫌がる人もいる事をわかっている。  決して、無理強いはできないわ。    時間はかかるけれど……他の治療法もある。  ……だから、どうするか。  貴方に決めてほしいの。  とても重要な事だから。  え?  えぇ。勿論聞くわ。  貴方の気持ちを聞かせて。    ……うん。    ……!    ……ふふ。  ……ありがとう。  うん。  そうね。  貴方はきっと、そう言うんじゃないかなって思っていた。  容態を見た時に感じたの。  貴方はきっと、強い女性なのでしょうって。  本当は耐えがたい位の事を、食いしばって。  『もう一歩』『後少し』って我慢していたから、ここまで症状を進行させてしまったのだろうって。  そんな貴方を、私は尊敬する。  『すごい』って、思ってる。  だから、助けさせてほしいの。  ……私がこの身体になったのは、この為だったとわかったから。  目を閉じて。    ちゅ。  大丈夫。  どうか心配しないで。   きっと気持ちいいから。  ……ちゅ。  今は、私に任せて頂戴。  ……それでは、治療を始めます。  西の魔女の名にかけて、必ず貴方を治しましょう。