XX22年 1月3日(月) 世の中のみんなはお正月ですが、さゆは受験勉強です。 大晦日にお母さんのライブに行って、思いっきり楽しんだので、 ここからは受験にむけて集中しようと思います。 1月7日(金) 勉強をたくさん頑張って、頭がパンクしそうになったので みゃーちゃんに会いに公園に行きました。 しかも! 今日は、みゃーちゃんにご飯を買って行ったんです。 みゃーちゃんはさゆの買ったキャットフードを美味しそうに食べてくれました。 ああ、癒されるなあ。 みゃーちゃん、さゆね、今勉強頑張ってるんだよ。 って話しかけると、みゃーちゃんは、みゃあ、って答えました。 今日もかわいかったなあ。 1月10日(月) 明日から学校です。 不安だなあ、嫌だなあ。 1月11日(火) 三学期が始まりました。 さゆの中学校生活、最後の数ヶ月のスタートです。 りほちゃんと内藤君と久しぶりに会いました。 1月12日(水) 新学期が始まって早々に、悲しい一日でした。 「うわ~、原田さん猫と喋ってんの?  ちょっと怖くない? 野良猫と喋るって。  しかもあの公園にいる猫、全然可愛くないじゃん」 休み時間に、坪田さんがクラス中に聞こえるように喋っていました。 もしかして、さゆとみゃーちゃんが話しているのを見られた? 坪田さんに? いや、あの感じだと坪田さんと仲のいい誰かが 彼女に言ったんだ。 クラスの人たちがさゆのことを悪く言うのは分かります。 だってそれは、さゆがみんなを怒らせたから。 でもだからと言って、りほちゃんや内藤くんを無視したり、 みゃーちゃんのことを悪く言うのは違うと思います。 さゆは勇気を振り絞って、席から立ち上がり 坪田さんにそのことを伝えました。 泣きながら伝えました。 坪田さんは、不愉快そうな顔をして 「原田さんっていつもそうだよね。何かあったら泣いて解決しようとする。  合唱コンの時もそうだったし。泣いたら何とかなると思ってんの?」 と言っていました。 さゆは、そんなこと思っていません。 ただ、涙が出てしまうだけなんです。 1月21日(金) 第一志望の受験まで一か月を切りました。 あと一か月、頑張ろう。 さゆは高校生になって、やり直すんだ。 1月23日(日) 朝から夜までずーっと勉強していました。 夜は頭が回らなくなってきていましたが、頑張りました。 1月26日(水) りほちゃんから、 土曜日か日曜日に、内藤君と一緒に三人で遊びに行かない? と誘われました。 さすがに受験前だし、勉強したいって理由で断りました。 りほちゃん、受験前なのにそういうこと出来るの、すごいなあ。 さゆは勉強でいっぱいいっぱいですよ。 2月9日(水) 明日は第二志望の受験です。 第二志望とはいえ緊張します。 頑張ろう。 2月10日(木) 今日は第二志望の高校の受験でした。 いつもと違う学校の教室に入るのって、何だかドキドキしちゃいました。 受験自体はそんなに難しくもなくて、結構良くできたんじゃないかと思います。 いつもとは違う学校に行って、いつもとは違う道で帰宅。 そこにさゆを攻撃する人は一人もいなくて、 こういうのが当たり前になるといいなあって思いました。 2月14日(月) りほちゃんが内藤くんにチョコレートをあげていました。 クラスのみんなにばれないように、こっそり。 内藤くんが、お、ありがとって言って、 りほちゃんが、えへへって笑顔になっているのを見て、 二人とも青春してるねっ! みたいな気分になりました。 さゆは誰にもチョコをあげませんでした。 あげたいと思う人がいませんし、第一志望の受験が一週間後に迫っているからです。 2月16日(水) 今日は内藤くんとりほちゃんが受験で学校にいないので、 ものすごく心細かったです。 坪田さんたちは変わらず、さゆを攻撃してきます。 でもいいんだ。 後一か月ぐらいでこの学校は卒業するから。 2月18日(金) 先週受けた第二志望の結果が発表されました。 さゆ、合格しました! わーい! やったやったあ~! この調子で、月曜日の第一志望も頑張ろうと思います! 2月19日(土) 今日も勉強をたくさん頑張りました。 明日はゆっくりしようと思います。 大事なライブの前の日は、あまり予定を入れないようにして、 疲れを取るようにしている。 って、お母さんが前に言っていたので、 さゆもそうしようと思ったんです。 まあ、さゆの場合はライブじゃないんですけどね。 2月20日(日) いよいよ明日は第一志望校の受験です。 お母さんが夜ご飯にとんかつを作ってくれました。 「典型的なゲン担ぎだけど、こうすると結構上手くいったりするんだよね」 「お父さんもお母さんも、さゆが勉強頑張って来たの  見て来たからね。さゆだったら大丈夫だよ」 「うん、ありがとう」 ご飯を食べながら、家族3人でそんなことを話をしました。 お父さんもお母さんも、さゆの頑張りを分かってくれてたんだって思うと、 すごく嬉しくなりました。 今日まで、やれることは全部やりました。 あとは明日、それを出し切るだけ。 2月21日(月) はぁぁ~~~~。 第一志望の受験、終了です。 何故か、第二志望の時の何倍も緊張しました。 でも、試験はちゃんと出来ました。 受験が終わって帰宅して、気が付いたら寝ていました。 リハから帰って来たお母さんに起こされるまで、2時間ぐらい。 「今まで頑張った疲れがどっと出たのかもね。お疲れ様」 と言って、お母さんはさゆを抱きしめてくれました。 やっと終わったんだなあって、その時に実感しました。 ちなみに今、この日記を書いているのは2月21日の深夜1時です。 夕方に寝過ぎたせいで全然眠くありません。 2月22日(火) 今日は坪田さんが高校受験でいなかったので、 教室の居心地がとても良かったです。 坪田さんの友だちも静かで、 りほちゃんと内藤くんともたくさんお話できました。 すごく久しぶりに、学校楽しいなって思えました。 2月24日(木) 学校の帰りに、 久しぶりにみゃーちゃんに会いに行ったんですけど、会えませんでした。 みゃーちゃん、どうしたのかな。 最近会いに来てなかったから、さゆのこと嫌いになっちゃったのかな。 2月27日(土) 受験前から密かにやりたかったゲームを始めてみました。 さゆはそのゲームのCMを見る度に、遊んでみたいと思っていたのですが その、合唱コンクールのことだったり、受験だったりで遊ぶ余裕がなかったんです。 でもでもでも! 今日は学校は休みだし、受験も終わったし、 もう遊ぶなら今しかない! と思ってはじめてみました。 ゲームは予想通り、とっても面白かったです。 RPGなんですけど、景色がすごく綺麗で、フィールドを歩いているだけでも楽しいです。 それに、マスコットみたいなキャラがすごくかわいくて癒されました。 「オイラ、~~だぞ」 って喋る度に、かわいいなあ~ってなります。 2月28日(日) 朝からゲームをして、お昼にみゃーちゃんに会いに行きました。 今日はみゃーちゃんが喜ぶように、キャットフードも買って行きました。 でも、会えませんでした。 みゃーちゃん、どこですか~? みゃーちゃんのご飯買って来ましたよ~? って言って、公園を探しましたけど、会えませんでした。 みゃーちゃん、冬休み終わってからずっと会えてないの、寂しいですよぉ。 3月1日(月) 明日は第一志望の結果が発表されます。 今からすごくドキドキしています。 3月2日(火) やったやったやった~~~~~! 合格しました! 第一志望、合格です! これでさゆは、4月からやり直すことができます。 受験勉強、頑張って良かったなあ。 お父さんもお母さんも喜んでくれて、夜ご飯には さゆの大好きな甘めのカレーを作ってくれたし、 デザートにプリンも出て来ました。 ああ、嬉しい。嬉しいなあ。 3月3日(水) あと10日で卒業です。 あと10日って考えると、坪田さんやそのお友だちに何を言われても我慢できます。 3月8日(火) 今日もみゃーちゃんに会えませんでした。 みゃーちゃん、もしかしてお引越ししちゃった? 3月13日(日) りほちゃんと内藤くんと三人で遊びました。 お昼に駅に集合して、最初に行ったのはファミレスです。 「一日早いけどこれ、先月のお返し」 ファミレスでご飯を食べている時、 内藤君がそう言ってりほちゃんにお菓子を渡しました。 「え~、そんな気を使わないでいいのに」 と、りほちゃんはすごく嬉しそうに言いました。 その直後、内藤君は何故かさゆにもお菓子をくれて、 そこからりほちゃんの機嫌が悪くなりました。 ファミレスでの食事を終えた後、三人でゲームセンターに行きました。 クレーンゲームの景品で、さゆが最近やっているゲームのキャラクターのぬいぐるみがあって、 あれかわいいね。ってさゆが言うと、 内藤くんが、じゃあ俺がとってやる、と言ってクレーンゲームを始めました。 ゲームセンターに入ってからずっと、りほちゃんは無言でした。 ぬいぐるみは結局取れませんでした。 りほちゃんがずっと不機嫌だったので、謝ることにしました。 そうしないといけない気がしたんです。 「ごめんね。さゆ、りほちゃんのこと怒らせちゃったかな?」 「別に怒ってない」 はぁ……。 怒ってないって言ってるけど、絶対怒ってますよね。 中学生最後の日曜日なのに、何だかしょんぼりな日でした。 3月15日(火) 「戦犯さようなら。高校でもみんなの足を引っ張ってね」 登校して来たさゆの机に、大きくそう書かれていました。 その近くには、いじわるな言葉や、ひどい言葉がたくさん。 最後の最後まで、こんなことするんだなあ。 ホームルームが始まるまでの間に、さゆは一人でその落書きを消していました。 りほちゃんは日曜日からずっと不機嫌なままで口をきいてくれないし、 内藤くんはホームルームギリギリで来るからこのことは気づかないし、 朝からきつかったなあ。 坪田さんが 「え? 何、原田さんの机、やばくない?」 って言ってたけど、 あなたがやったんでしょう。 って思いました。 3月16日(水) 明日は卒業式。 早く卒業したいなあ。 厳密には、早くこのクラスから離れたいなあ。 3月17日(木) 卒業式でした。 やっと解放されました。 やっと、やっと。 さゆは10月にやってはいけないミスをして、 そこから本当に辛い毎日でした。 でも、それも今日で終わりです。 卒業式が終わって、さゆはすぐに家に帰って、 お昼ご飯を食べてゲームをして、少し寝ました。 今、日記を書いていて、いろんなことを思い出しています。 さゆ、よく耐えたと思います。 自業自得とは言え、数か月の間、本当に辛かったです。 おつかれさまでした、さゆ。 3月20日(日) 卒業&合格記念ということで、お父さんとお母さんがお寿司屋さんに連れて行ってくれました。 サーモンのお寿司がとっても美味しくて、口の中に入れたらとろけるようでした。 食レポなんかで「口の中に入れた瞬間、とろけるような」っていう表現を見たことがあるんですが、 あれって本当のことなんだなあって思いました。 「第一志望に合格なんて、わが娘ながら偉い。偉すぎる」 と、お酒を飲んだお母さんはご機嫌に話していて、 それを聞いているさゆもすごくいい気分でした。 帰りにショッピングモールを歩いていると、さゆがやっているゲームの ガシャポンがありました。 お父さんが二回回すお金をくれて、さゆはウキウキしながらガシャポンを回しました。 そうすると、なんと! さゆが大好きな、一人称がオイラのマスコット的キャラが当たりました! 嬉しいなあ~。ラバーストラップだから、何かにつけてみようかな。 帰宅して、今度はゲームのガチャを回してみると、 「軍師」と呼ばれる女の子が当たりました! ぴゃぁ~~! このキャラも欲しかったのでとっても嬉しい気持ちになりました。 何だか今日は素敵な日だなあ。 これから始まる高校生活が、素敵なものになるような、そんな予感がする日でした。 3月29日(火) 高校の制服が届いたので、着てみました。 来月からさゆが通う高校の制服は、首元にリボンがあって、すごく可愛いんです。 新しい制服を着たさゆは、何だか今までのさゆとは違うみたい。 高校生、かあ。 高校生になって、制服も変わることだし、髪型も変えてみようかなあ。 今まで髪を伸ばしていたんだけど、思い切って短くしてみようかなあ。 3月31日(木) 美容室で髪を切ってもらいました。 今までのロングヘアのさゆとは今日でお別れ。 今日からはミディアムへアのさゆです。 この髪型にして、もう一度高校の制服を着てみました。 鏡の前にいるさゆが、ますます、今までのさゆとは別人のように思えました。 新しいさゆ、新しい生活。 何だかワクワクしてきました。 高校生活、楽しいといいなあ。 4月6日(水) 明日は高校の入学式です。 ぴゃぁ~~、ドキドキします。 クラスの人たちと仲良くなれるかな。 怖い人とかいないかなあ。 では、明日に備えて今日は早めに寝ます。 おやすみなさい。 4月7日(木) 入学式でした。 電車に乗って学校に行くの、新鮮だったなあ。 これから毎日そうなんだなあ。 新しいクラスで、これからの学校生活についての説明なんかがありました。 中学校とは違って、みんな大人っぽいと言うか、落ち着いた感じでした。 一人だけ陽キャっぽいオーラを出している女子がいたけど、 その子以外はみんな大人しそうな感じです。 うん、さゆはきっとこのクラス、好きだと思います。 4月8日(金) オリエンテーションと言って、体育館で座ってお話を聞いて その後にまた教室で先生の話を聞きました。 高校ってすごいです。中学校とはいろんなところが違います。 さゆが驚いたのは、学校の中に自動販売機があることです。 すごいすごい! 中学校にはなかったですよ! 学校の中でジュースが飲めたりするんでしょうか。 校則も中学校より緩めで、勉強さえしっかりやっていれば、 髪型も自由だし、カバンに何をつけてもいいって言われました。 カバン、この前ガシャポンでひいたラバーストラップをつけてみようかな。 4月10日(日) 明日から授業が始まります。 さゆは、通学カバンに、ガシャポンで引いたラバーストラップをつけてみました。 ああ、いいなあ。こういうの。 中学校の時だとカバンに何かつけるのは禁止されてたので、新鮮な気持ちです。 4月12日(火) 「あ、そのキャラ知ってる。非常食でしょ」 休み時間に、さゆのカバンを見たクラスメイトが話しかけて来ました。 なんと、入学初日に一人だけ陽キャっぽいオーラを出していた女の子です。 中学時代にさゆにいろいろ言ってきていた坪田さんが陽キャだったので、さゆは陽キャが少し苦手です。 どうしようどうしようこの人もさゆにいろいろ言ってきたりしたらどうしようと思っていたら彼女は、 「私ね、あのゲームだと『将軍』が好きなんだ。  エピソードが泣けるんだよね。原田さんは誰が好きなの?」 と、ゲーマー的な話をしてくれました。 それに、入学して間もないのに、「原田さん」って名前で呼んでくれました。 ああ、この人って陽キャっぽいけど大丈夫かも。 って思いました。 共通の話題でさゆと彼女はすぐに仲良くなって、 休み時間にいっぱいお話して、とっても楽しかったですし、嬉しかったです。 さゆの高校生活での最初のお友だち、 陽キャっぽいけど、実はかなりのゲーマー、 彼女の名前は、如月久遠(きさらぎ くおん)さんです。 4月13日(水) 今日はさゆの誕生日です。 16歳になりました。 さゆの大好きな苺のケーキをお母さんが用意してくれていて、 家族みんなでそれを食べました。 お父さんもお母さんもニコニコ、さゆもニコニコで、 とってもいい誕生日になりました。 4月15日(金) 「ってか、原田さんって私とタメなのに何で敬語?  ちょっとウケるね」 って、如月さんに言われちゃいました。 た、確かに……。 と言うか、さゆ、この前16歳になったし、 さゆの方が年上という可能性も……。 さゆのちょっとした悩みとして、新しく知り合った人に対して、 どうしても敬語を使ってしまうというものがあります。 何かこう、タメ口というのは生意気と言うか、そんな感じがして。 中学校時代のお友だちにも結構長いこと敬語を使っていたし……。 それにしても、如月さんってかなりのゲーマーなのに、 コミュ力の高さと、溢れ出る陽キャ感がすさまじいです。 さゆ以外にももう何人かお友だちが出来たみたいだし、 すごいなあ。 4月17日(日) 久しぶりに、りほちゃんから連絡がありました。 「高校、どう?」ってだけ文章が送られて来たので 「いい人多そうだし、新しいお友だちもできたよ」 って返しました。 そこから返事は返って来ませんでした。 4月18日(月) お昼休みに如月さんと話していると、 やっぱり同級生に敬語を使われるのはむずがゆい、 と言われました。 確かにそうかもしれないんですけど、 さゆが如月さんみたいなコミュ力高くて陽キャっぽい方にタメ口きくとか ちょっと生意気な感じが……。 みたいなことを言うと、如月さんは、少し笑ってからこう言いました。 「そんなこと考えなくていいって。  あ! だったら、名前呼びやってみようよ。  私のこと、今度から『くおん』って呼んで。  ね、さゆ!」 一気に、さゆと如月さんの距離が縮まる感じがしました。 如月さんは見た目も言動もキラキラしていて、まるでアニメの主人公みたいです。 さゆが男子だったら、きっと恋に落ちていたと思います。 恋をしたことがないのでハッキリとは分かりませんけど……。 ちなみに、「くおん」って呼び捨てにするのはどうしても難しかったので、 「くおんちゃん」と呼ぶことにしました。 この日記でも、今後はくおんちゃんと記していきます。 4月19日(火) 今日は、くおんちゃんとバスケット部の体験入部に行って来ました。 さゆは球技が苦手なんですが、 くおんちゃんに、一緒に行かない? と誘われたので行くことにしたんです。 くおんちゃんとさゆ以外にも、体験入部の子は何人かいて、 さゆはずーっと見学していましたが、くおんちゃんを含む何人かは 先輩と試合? みたいなことをしていました。 バスケをするくおんちゃんはキラキラしているし、先輩に キミは上手いね~、みたいなことを言われていて、すごいと思いました。 さゆは、興味があったら今度は一緒にやってみよう? と言われました。 ただ体育館の隅っこで体育座りをしていただけのさゆに、 そんな言葉をかけてくれるなんて、先輩っていうのは優しいんだなあ。 4月21日(木) くおんちゃんはバスケ部に入ることを決めたみたいです。 さゆは帰宅部にしました。 4月26日(火) 体育の授業で、陸上競技をしました。 長距離走だったんですが、体力のないさゆには地獄です。 ヘトヘトになりながら走っていると、 くおんちゃんが 「うりぃぃぃぃぃぃぃ!!」 と叫びながらさゆを抜いていきました。 なんと、彼女はさゆを含む他の女子よりも一周早く走っていたんです。 くおんちゃんはさゆの前を走っている人たちもどんどん抜いていき、 その速さに驚いたみんなが、如月さん、ヤバいねって言っていました。 授業が終わった後、休み時間に学校内の自販機でスポーツドリンクを 買って飲みました。 よく冷えていて、とっても美味しかったです。 4月27日(水) 夜ご飯を食べ終わってから、今までずっとゲームをしていました。 2月に始めたゲームはボリューム満点で、 結構遊んでいるのに、まだまだ続きがありそうです。 今日は新しいステージに来ました。 日本みたいな国です。 ここからどんな展開になるんだろう。 もっと遊びたいんですけど、もう夜中の12時なので寝ます。 5月3日(火) 今日は久しぶりにりほちゃんと二人で遊びました。 前に遊んだとき、途中からずっと不機嫌だったり、 この前のメッセージに返信くれなかったりして、 ちょっとだけ不穏な印象のあるりほちゃんでしたけど、今日は普通に遊んでくれました。 「ねえ、さゆってさ、何か困ってることない?  困ってたら、いつでも私を頼っていいんだよ」 りほちゃんはさゆのことを心配して、そう言ってくれました。 りほちゃん、ありがとう。 でも大丈夫。 さゆは高校生活、楽しんでるよ。 5月5日(木) お母さんのライブに行きました。 何回か行ったことのあるライブハウスで、さゆはここの雰囲気が好きです。 お母さん、今日もかっこよかったなあ。 5月10日(火) 「さゆ、高校生になって明るくなったね。学校、楽しい?」 お母さんにそんなことを聞かれました。 うん、楽しいよ! って答えたかったんですけど、何故か 「さあ~? それはどうでしょうねえ~」 って返しました。 5月23日(月) 今日から25日まで中間テストです。 頑張ります。 5月25日(水) 中間テスト終わり。疲れました。 くおんちゃんが、今日は部活お休みだって言ってたので 学校帰りに2人でテストのお疲れ様会をしました。 ショッピングモールに行って、フードコートでアイスパーティーです。 パーティーと言っても、フードコートの椅子に座ってアイスを食べるだけですけど……。 さゆはバナナアンドストロベリーを食べて、 くおんちゃんはチョコミントの上にバニラを乗せたものを食べていました。 今日は少し暑い日だったので、甘くて冷たいアイスがとても美味しかったです。 アイスを食べている時も、食べ終わっても、くおんちゃんといっぱいおしゃべりしていました。 楽しかったなあ。 6月1日(水) 駅の近くで坪田さんを見かけました。 坪田さんはさゆに気付いていないようだったので、気付かれる前にその場から離れました。 久しぶりに見る彼女は、すごく痩せていて、中学時代とは雰囲気が変わっていました。 とても暗い雰囲気でした。 6月12日(日) さゆが今やっているゲーム、やっと、日本みたいな国をクリアしました。 すごいお話だったなあ。 永遠を司る神様のお話。 さゆが前にガチャで引いた軍師も大活躍していました。 最後の方でとても綺麗なムービーが流れて、映画みたいだなあって思いました。 6月17日(金) 高校に入ってからも、たまにみゃーちゃんのいる公園に行きます。 さゆが帰宅部にした理由の一つはこれで、 中学時代にさゆを癒してくれていたみゃーちゃんとの時間を、 高校に入ってもとりたかったからです。 でも、今日も会えませんでした。 もう半年ぐらい会えていません。 寂しいなあ。もう会えないのかなあ。 みゃーちゃん、さゆね、高校生になったんだよ。 今はすごく元気なんだよって、お話聞いてほしいなあ。 6月19日(日) ぴゃぁ~~~~! 今日、目が覚めたらお昼の12時でした! 昨日の夕方、何となくアニメを見始めたら止まらなくなって、 朝方までずーっと見ちゃったせいだ。 夕方から朝方まで見ちゃうぐらい、その作品は面白かったんです。 タイムリープって言って、記憶を保持したまま過去に戻っていろいろ行動する話で、 最初の方はのんびりした感じだったんですが、 途中からシビアな展開になって、それが本当に面白くて、目が離せませんでした。 今日がお休みで本当に良かったなあ。 もし学校だったら、きっと大変なことになっていましたよ。 6月21日(火) 今日は体育の授業でバスケットボールをしました。 2人ペアになって、ドリブルとパスとシュートの練習をするという内容です。 さゆはくおんちゃんとペアになりましたが、 くおんちゃんの動きが異次元過ぎて、さゆはペアと言うか 引き立て役みたいになってしまいました。 でもいいんです。引き立て役は、誰にも迷惑をかけないから。 それにしても、バスケをするくおんちゃん、かっこよかったなあ~。 6月25日(土) どうしよう。 昨日の夜、りほちゃんから連続でメッセージが来ていました。 「さゆは高校に入ってから私に頼らなくなったね」 「さゆって私がいないとダメって思ってたんだけど」 「中学校の時たくさん助けてあげたし、高校でも何かあったら助けるよ」 あんまりこういうこと書くのは良くないんですけど、ちょっと怖いって思っちゃいました。 何て返せばいいんだろう。 既読スルーはよくないしなあ……。 6月26日(日) りほちゃんと会って来ました。 「ごめんね、この前は。メンタルやられちゃってて、連投しちゃった」 開口一番、彼女は謝罪の言葉を口にしました。 さゆは、メンタルをやられたという言葉を聞いて、 りほちゃんのことが心配になり 何かあったの? とか、さゆは力になれないかな、とか、 そんなことを言いました。 りほちゃんは、大丈夫だよ、と答えて、 さゆの高校での話を聞かせて欲しいと言いました。 さゆは、高校生活が楽しいことと、くおんちゃんっていう素敵な お友だちが出来たことを話しました。 りほちゃんは、無表情に近い顔をしてそれを聞いています。 「ふーん、そのバスケやってる子?  くおんって子、ちょっと変わってるね。  バスケやって陽キャで友だちも多くてさらにさゆのことも受け止めるとか、  普通に考えたらありえない」 りほちゃんにそう言われて、はじめてさゆは、彼女のことを苦手だなって思いました。 会ったこともない他人のことを、どうして変わってるとか、ありえないとか言えるんだろう。 「ねえさゆ、中学校の頃を思い出してみて。  頼れるのは私か内藤くんだけだったでしょ?  みんなひどかったでしょ?  何かあったら助けるのは私だから。それは分かって」 りほちゃんの口から出てくる言葉たちが、 さゆの高校生活や、くおんちゃんとの友情を否定しているような気がしてきて、 とても嫌な気持ちになりました。 りほちゃん、さゆはこんな気持ちになりたくなかったよ。 中学生の時、さゆを助けてくれたりほちゃん。 優しいりほちゃん。 苦手だなって思いたくなかったよ。 6月27日(月) 「昨日ひどいこと言ったかも。ごめん」 りほちゃんから、昨日の発言を謝るメッセージが来ました。 「気にしないで大丈夫だよ」と返信しました。 6月28日(火) 体育の授業の後、くおんちゃんと二人で自販機でスポーツドリンクを買って、 それを飲みながらおしゃべりするのが、さゆの憩いのひとときです。 くおんちゃんはいつも、 「スポドリ! 飲まずにはいられないっ!」 って言って、美味しそうに飲んでいます。 確かに、たくさん運動したら飲まずにはいられないですよね。 よく冷えたスポーツドリンクに、お友だちとの楽しいおしゃべり。 いい時間だなあって思います。 この前りほちゃんと会って ちょっと嫌な気持ちになったことを聞いてもらおうかなって思ったんですけど、 やめておきました。 くおんちゃんのキラキラした世界に、 暗いムードを持ち込みたくなかったからです。 7月7日(木) 今日から来週の火曜日まで期末テストです。 週末を挟むなんて! 週末に試験勉強できるのはいいけど、 純粋にお休みを楽しめない気がして何だか複雑です。 7月10日(日) りほちゃんから遊ぼうってメッセージが来たんですけど、 テスト期間中なので断っちゃいました。 7月12日(火) 期末テスト終わりました! 今日もくおんちゃんの部活がお休みだったので、 二人でフードコートに行って、アイスを食べて たくさんおしゃべりしました。 楽しかったなあ。 7月19日(火) 今日は日差しが強くて、とても暑い日でした。 学校の帰りにまた坪田さんを見かけました。 坪田さんはこの前見かけたときよりもさらに痩せていて、 うつむいて、ものすごく暗い表情をしていました。 とても暑い日なのに、坪田さんの表情を見ると、ひやっとしました。 7月22日(金) 終業式でした。明日から夏休みです。 高校生活最初の夏休み、何をしようかなあ。 天気のいい日はのんびりお散歩をしようかなあ。 あとは、お部屋でたくさんアニメを見たり、 ゲームをしたりしようかと思っています。 他にも、お母さんのライブが夏フェスであるので、 それも行きたいです。 くおんちゃんが部活ない日は、くおんちゃんに遊んで欲しいなあ。 ああ、やりたいことがいっぱいで楽しみです! 8月1日(月) 明日、くおんちゃんとプールに行くことになりました! なので、今日はいつも行っているショッピングモールに くおんちゃんと2人で水着を買いに行って来ました。 さゆは薄いピンク色の、フリルのついた可愛い水着を買いました。 くおんちゃんは真っ赤な、ちょっと露出が高めの水着を買っていました。 ああいう大胆なの着れるのすごいなあ。さゆは着る勇気がないですよ……。 それにしても、今日はお買い物して、明日はプールなんて、 夏休みらしい感じがして嬉しいなあ。 8月2日(火) くおんちゃんとプールに行って来ました! いろんなプールがある施設で、2人で流れるプールに入ったり、ウォータースライダーに乗ったりして、 すっごく楽しかったです。 楽しすぎて、こんなにはしゃいだのっていつぶりだろうって思うぐらい はしゃいじゃいました。 夕方まで遊んで、その後プールの近くにあったうどん屋さんでうどんを食べて帰って来ました。 帰りのバスの中で、いつの間にかさゆは寝ちゃっていて、 降りるところでくおんちゃんが起こしてくれました。 ああ、楽しかったなあ。 また行きたいなあ。 8月6日(土) お母さんのライブに行って来ました。 今日のライブはフェスで、会場は屋外です。 会場についてから、お母さんの演奏が始まるまで時間があったので、 さゆは売店でパイナップルのスムージーを買って いろんなバンドの演奏を遠くから見て過ごしていました。 何だかすごく贅沢な時間のように感じました。 少し陽が沈み始めた時に、 お母さんがドラムを叩いているバンドのライブが始まりました。 始まった瞬間に歓声があがって、 そのうちの何パーセントかはきっとお母さんに向けられていて、 さゆのお母さんって、本当に自慢のお母さんだなあって思いました。 お母さん、今日もかっこよかったよ。 8月17日(水) 外が暑かったので、家にひきこもってずーっとゲームをしていました。 たまにはこんな一日があってもいいですよね。 8月18日(木) みゃーちゃんのいる公園へ散歩に行きました。 今日も会えませんでした。 正直、みゃーちゃんにはもう会えないのかなと思っています。 悲しいけど……。 8月23日(火) 「今度の土曜日空いてる? 坪田さんたちがさゆに謝りたいって」 お昼に、そんなメッセージが届きました。 差出人はりほちゃんです。 坪田さん、急にどうしたんだろう。 でも、彼女とそのお友だちがさゆにしたことを謝るのであれば、 さゆも、合唱コンクールでやった失敗のことをちゃんと謝りたいです。 それで過去を清算したいです。 さゆは、中学校時代のあの失敗から、ずっとさゆのことが嫌いです。 でもここで、お互いに、さゆも、坪田さんたちも、お互いに許しあうことが出来れば、 さゆは、自分のことを少しだけ好きになれるかもしれません。 「分かった。空いてるよ」 とりほちゃんに返信しました。 8月27日(土) ショックな日でした 何を書こう 事実を並べていこうと思います お昼にさゆと、りほちゃん、内藤くん、 坪田さん、そして坪田さんのお友だちの岩屋さん、 その5人で集まって、ファミレスに行きました。 ひどく痩せた坪田さんと、中学校時代からあまり変わらない岩屋さんが並んで座り、 その向かい側にさゆたちが座りました。 岩屋さんがりほちゃんに向かって 「ねえ、薬師寺何でそっち座ってんの。逆じゃね?」 と言いました。 少し気になる発言でしたが、それよりも、 さゆは目の前にいる坪田さんの弱々しい姿が気になっていました。 坪田さんは、しばらく無言でしたが、急に立ち上がって 「原田さん、ごめんなさい。  私、原田さんのこといじめて、内藤くんにも嫌な思いをさせて、  本当にひどいことをしたって思ってます。  ごめんなさい」 と頭を下げました。 岩屋さんも立ち上がって、同じように頭を下げました。 その瞬間、ファミレスの中がしーんと静まり返りました。 気まずさを感じたのか、内藤くんが2人に座ることを促して、 2人ともそれに従い、静寂はなくなっていきました。 「私、高校に入っていじめられるようになって、今本当に辛いの。  これって因果応報だと思ってて、私が中3の時に原田さんをいじめたから、  きっと今こうなってるの。  だから私、原田さんに謝らないといけないと思った。  本当に本当にごめんなさい。  許されるようなことではないけど、ごめんなさい」 坪田さんの謝罪と近況を一通り聞き終わった後、岩屋さんが怒り気味でこう言いました。 「ってかさ、薬師寺さ、さっきから黙っちゃって何?  アンタも謝る側じゃん?」 りほちゃんは面倒くさそうに、ああそっか、そうだよね。と言って、 さゆに向かって、あのさ、私もいろいろごめんね。と謝りました。 さゆは、意味が分かりませんでした。 内藤くんも、状況が飲み込めていないようでした。 「薬師寺、アンタ、まさか言ってないとかないよね?  アンタが裏でやってたこと。  原田も内藤も知らないっぽいじゃん」 「ごめん。私急用思いだしたから帰る。  内藤くんごめんね。さゆも、いろいろごめんね」 岩屋さんの問い掛けに答えることなく、りほちゃんは帰ってしまいました。 どういうこと? と、内藤くんが聞きました。 岩屋さんは、ショックを受けるかもしれないけど、と前置きしたうえで りほちゃんがやってきたことを話してくれました。 合唱コンクールが終わってしばらくして、 さゆへのいじめが少し収まって来た頃、 りほちゃんが坪田さんたちにいじめを再度行うよう依頼したこと。 さゆとりほちゃんと内藤くんを孤立させるように仕向けたこと。 卒業式の直前に、さゆにひどい嫌がらせをして欲しいと頼んできたこと。 「……つまり、途中からは薬師寺の指示でやってたんだよ。  ウチらは実行犯で、薬師寺は首謀者みたいな感じ」 りほちゃんがいじめの首謀者? 嘘だ。どうして? これ、夢なのかな。何だかめちゃくちゃな展開だし、きっとそうだよね。 日記を書いている今も、夢であって欲しいと思っています。 ことあるごとに謝り続ける坪田さんと、 さゆたちへの謝罪と、りほちゃんへの怒りを口にし続ける岩屋さん、 黙り込んでしまった内藤くん。 どれぐらいの時間があの場所で過ぎたのでしょうか。 さゆは、岩屋さんに言いました。 「ごめんなさい。さゆ、岩屋さんの言っていることが信じられないよ」 りほちゃんがいじめの首謀者だったなんて、信じられません。 でも、坪田さんや岩屋さんが嘘を言っているようにも見えませんでした。 夜になって、りほちゃんに、明日会えないかな。お話したいな。ってメッセージを送りました。 すぐに、いいよ、って返事がきました。 8月28日(日) いやいやいやいやいやいやいやいやいや嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌 もういやいやいやいや いやいやいやいやいやいやいやいやいやもうみんないやきらいきらいきらいきらいみんないや きらいきらいきらいきらいきらいもういやいや嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌きらいきらいきらいきらい もういやいやいやいやきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいみんなこわいきらい こわいこわいこわいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい 8月29日(月) なにもできない 8月30日(火) みんなこわい 9月1日(木) くおんちゃんにかおいろがわるいといわれました 9月2日(金) さゆはさゆのことがきらいです 9月3日(土) ずっと寝ていました。 9月4日(日) 昨日も今日も、一日中寝ていました。 先週の日曜日から、ずっと体調が悪いんです。 この週末で、少しは良くなったかなあ。 家族やくおんちゃんに心配をかけて、申し訳ないです。 9月5日(月) 「さゆ、これ見て」 くおんちゃんがそう言って、一枚のプリントを見せてくれました。 スクールカウンセラーの紹介プリントでした。 「二学期が始まってから、さゆ、何だかしんどそうだからさ。  私でよければ話を聞きたいけど、それもしんどかったらこういうのも  いいんじゃないかなって」 くおんちゃんの優しい言葉に、さゆは泣きそうになりました。 8月28日の一件以来、さゆは誰も信用できなくなっています。 だから、くおんちゃんを信じるのも怖いんです。 それを見越しての提案だったんだと思います。 くおんちゃん、ごめんね。ありがとう。 9月6日(火) 明日、カウンセリングを受けることになりました。 9月7日(水) 今日の日記は大長編になりそうです。 今日さゆは、カウンセリングを受けてきました。 「スクールカウンセラーの結城麻衣(ゆうき まい)です。本日はよろしくお願いします」 カウンセラーの先生は、すごく優しい笑顔で挨拶をしてくれました。 さゆは、笑顔で返す余裕がありませんでした。 「原田さん、カウンセリング受けるの初めてかな」 「ここでは、何を話してもいいからね」 「もちろん、ここで話したことは絶対に他言しないから、安心してね」 優しい優しい雰囲気で先生はそう言ってくれましたが、 さゆは緊張と、この人を信じていいのかという気持ちで 上手く会話が出来ず、ずっと無表情で、はい、と答えていました。 そのうち、静寂が訪れました。 さゆは全然喋らなくなって、先生は穏やかに微笑んだまま、数分間が経ちました。 「原田さん」 先生は優しい声でさゆの名前を呼んで 「原田さんはきっとすごく辛い思いをしたんじゃないかな。  私、原田さんの目を見て勝手にそう思っちゃった。  きっとすごく辛い思いをして、それはお友だちや家族にも話しづらいことで  だから勇気を出して、ここに来てくれたんじゃないかなって」 そう言いました。見抜かれている感じがしました。 「今日はね、何も話さなくても大丈夫だよ。  辛い思いをしたことって、話しづらいもんね」 「まずは、辛い思いを抱えたまま頑張って、  勇気を出してここまで来たことがすごいと思う。  だから、原田さんはその頑張りを自分で認めて、褒めてあげてね。  原田さん、頑張ったよ」 先生の話を聞いているうちに涙が出てきて、言葉も出て来ました。 「先生、長くなってもいいですか? あと、絶対にこのこと、秘密にしてもらえますか?」 「もちろん」 こうして、さゆは自分のことを話し始めました。 8月28日、さゆの心に大きな傷をつけた日は、とても暑い日だったことを覚えています。 その日、さゆはりほちゃんと会う約束をしていました。 彼女は約束の時間に少し遅れてやってきました。いつものことです。 二人で公園に行きました。 移動中、りほちゃんはずっと無言でした。 到着し、ベンチに腰掛けて、さゆは彼女に尋ねます。 「りほちゃん、岩屋さんがね、中3の時、りほちゃんの指示でさゆをいじめてたって言ってたんだ。  りほちゃんがいじめの首謀者だって……。  そんなのってないよね? きっと岩屋さん、何か勘違いしてるんだよね?」 「勘違いなわけないじゃん」 すぐに答えが返って来ました。残酷な答えでした。 彼女は続けます。 「さゆ、私はね、さゆを助けることで自分が満たされていったの。  いじめられているさゆを助けて、さゆが私を頼って、それが私の心を満たしてくれたの。  でもそれよりも、何よりも、内藤くんがね、さゆを助ける私を褒めてくれたの。  それまで私のことを見向きをしなかった内藤くんが、私を見て、褒めてくれたんだよ。  私ね、それが本当に嬉しかったの」 理解が追い付きません。 日差しが強くて、暑さが不快に感じました。 「……合唱コンクールが終わってしばらくして、  さゆへのいじめがなくなりそうな時があって、私怖かったの。  いじめがなくなったら、さゆは私を頼らなくなるかもしれないでしょ?  そうすると内藤くんが褒めてくれなくなるでしょ?  私、それがすごく怖かった。  だからね、坪田さんや岩屋さん、他の男子に、さゆをいじめるようにお願いしたの。  で、直接的な被害はさゆにだけ与えて、内藤くんと私も孤立させるようにもさせた。  そうすれば私、たくさん内藤くんの近くにいられるし、彼はきっと私を褒めてくれる」 少しずつ分かって来ました。 彼女の考えが。 「りほちゃんは、内藤くんに褒められるために、さゆがいじめられてる状況を作ったの?」 「そうだよ」 その返事が返ってくるのは予想できていましたが、聞きたくはありませんでした。 「それっておかしいこと?  好きな人に褒められる、認められるために何でもするの。  坪田さんにも岩屋さんにも言われたよ。『薬師寺怖い。狂ってる』って。  でもね、私は全然狂ってるとか思わない。  だって、だって内藤くんは私の全てなんだもん。  彼に認められるために全部使わなきゃ。全部利用しなきゃ」 さゆはりほちゃんの発言が恐ろしく感じ、何も言えなくなってしまいました。 それも意に介さず、彼女は話し続けます。 「だからさ、内藤くんがバレンタインのお返しをさゆにもあげたときは  本当にムカついた。  さゆのくせに、さゆのくせに内藤くんによくしてもらってるんじゃねえよって思った。  あの日の夜ムカつきすぎてさ、坪田と岩屋とグループ通話して、  卒業前にさゆに今までで一番ひどい嫌がらせをしてくれって頼んだの。  そしたらあいつら断りやがってさ。  これまで散々楽しんでたくせに一番ひどいのは断るとか、使えねえと思ったよ」 話していくうち、彼女の口調がどんどん荒くなっていって、 表情も怒りをはらんだものになっていきます。 「でも私の怒りは収まらないから。  さゆごときが、さゆの分際で、内藤くんにものをもらうとかありえないから。  だから、当初の予定よりもずっと軽いけど、私がさゆに罰を与えてあげたの。  卒業式の前々日、さゆの机にメッセージを書いたの、私なんだよ。  本当はもっとひどいことをしたかった。  それでさゆは私を頼って、内藤くんがそれを褒めてくれて……そうなれば最高だったのに」 薬師寺が一番悪いよ。正直引くわ。と、昔坪田さんが言っていたのを思い出しました。 怖い、狂ってる、という彼女の言葉にも同意できます。 「ああもう、つまんねえ。  高校に入って、さゆは私を頼らなくなったし、坪田とか岩屋みたいな駒もいねえ。  内藤くんに褒められる方法、ないじゃん」 いつからか、独り言のようになっていました。 「さゆがくおんとかいうやつとつるみだしたのが原因だ。  くおん、何だそいつ、許せねえ。私からさゆを取り上げやがって。  内藤くんに褒められるための手段を奪いやがって。  間接的に内藤くんを取ったようなもんじゃねえか。許せねえ」 めちゃくちゃです。 りほちゃんが言っていることはめちゃくちゃです。 合唱コンクールが終わってから、 さゆがとてもつらい時期だったときに優しくしてくれたりほちゃん。 りほちゃん、あのりほちゃんと、今さゆの隣でめちゃくちゃなことを言っているりほちゃんは 同じ人なの? どうしてくおんちゃんのことを悪く言うの? さゆの心の中に、りほちゃんとの友情という綺麗な場所がありました。 そこを思い切りえぐられて、えぐりとられて、大きな穴をあけられたような気持ちになりました。 彼女がその後何を話していたか、よく覚えていません。 友人だと思っていた人間が、ひどいことを話しているのを記憶したくなかったのかもしれません。 夕方になるまで彼女といたような気がします。 でもあまり覚えていません。 帰宅して、夜ご飯を食べなかった、食べられなかったことは覚えています。 その後のことも覚えています。 そう、その日はそこで終わりではありませんでした。 夜ご飯も食べられず、何をする気にもなれず、ベッドに寝転んでいると、 いつの間にか遅い時間になっていて、 さゆは、前日に連絡先を交換していた岩屋さんにメッセージを送りました。 疑っていたことを謝りたかったからです。 「昨日岩屋さんが言ってたこと、嘘じゃなかったよ。疑ってごめんなさい」 「原田は薬師寺と仲良かったし、私が言ったの疑いたくなるのも分かる」 と返って来ました。 「私は薬師寺が許せない。昨日あいつだけちゃんと謝罪してない。私が言わなかったら  自分の罪を隠し続けていたかもしれない」 「原田、一緒に薬師寺を潰そう?」 「薬師寺はうちらが潰さないとダメだよ」 「原田?」 「スルーしないで。既読ついてるよ」 「原田も復讐したいでしょ?私とやろう?」 「原田返事して」 岩屋さんから立て続けに送られて来るメッセージを見て、 さゆは人間の底知れない闇を見た気がしました。 この人は、今度はターゲットをりほちゃんに変えていじめをしようと提案しているんです。 どうして? いじめをしても何もいいことがないのは分かってるでしょう? 坪田さんを見たでしょう? 変わり果てた坪田さんを。 いじめって人を壊してしまうんだよ。 不幸を生むだけなのに、どうしてそれをしようとするの? りほちゃんのことでぽっかり空いた心の穴に、どすぐろい闇が生まれて、 それがどんどん広がっていって、 さゆは、目の前が真っ暗になっていく感じがしました。 生まれて初めての感覚でした。 怖い。 人が怖い。 人間という生物は、とても深い闇を持って生きていて、さゆはそれが怖いです。 もう、人を信じることは出来ないと思いました。 次の日も、その次の日も、ベッドから起き上がることが出来ませんでした。 二学期が始まって、学校には頑張って来ました。 でも、みんなが怖いです。 友だちだと思っていたくおんちゃんも怖いです。 くおんちゃんがりほちゃんみたいな人だったらどうしよう、騙されてたらどうしようって考えると怖いし、 そんなことを考えているさゆ自身が嫌になります。 …………さゆは、夏休みの終わりからため込んでいたものを、全部吐き出しました。 わんわん泣きながら、目の前にいる先生に話しました。 そんなことがあったんだ、本当に辛かったね。と先生は共感してくれます。 事実を受け止めて、辛かったねと言ってもらえるだけで、さゆはすごく救われる思いでした。 「ねえ原田さん、お友だちの、くおんちゃんだっけ?  その子のことはやっぱり信じられない?」 「信じたいですけど、でもやっぱり怖いです」 「じゃあさ、そのことをそのまま、彼女に伝えてみたら?」 「そのまま?」 「私はあなたを信じたい、でもいろんなことがあって今それが少し怖い。  でも、それでも一番根っこにあるのはあなたのことを信じたいって気持ちですって」 「そういうの、失礼にならないですか?」 「彼女が原田さんのことを思ってるなら、逆に嬉しいんじゃないかな。  心を開いて、本心で話してくれるのを嫌いって人はあまりいないと思うよ」 そんなことを話しているうちに、カウンセリングの時間は終わりました。 「原田さん、また来て。  私今日、原田さんが本心でお話をしてくれたこと、すごく嬉しかったよ。  頑張って話してくれて、ありがとう」 先生にそう言われて、さゆは、今日来て良かった、話して良かったと思いました。 カウンセリングルームを出ると、何故かくおんちゃんがいました。 「おっす」 さゆを見て挨拶した後、少しだけ気まずそうに目を逸らすくおんちゃん。 「あれ、くおんちゃん、部活あるんじゃないの?」 「休んだ」 「え、何かあった?」 「心配じゃん、さゆのこと。だから部活休んで待ってた」 くおんちゃんの言葉を受けて、さゆの目から涙が溢れて来ます。 さゆは、廊下でくおんちゃんに抱き着いて、またわんわん泣きました。 くおんちゃんはさゆを抱きしめて、頭を撫でてくれました。 その後、二人で屋上に移動して、たくさんたくさんお話しました。 くおんちゃんを信じたいけど、いろいろあって怖い。 先生に言われた、気持ちをそのまま伝えるのって、すごく難しいことのように思えたんですが、 さゆは伝えることが出来ました。 話しながら、またさゆは泣いてしまいました。 一日で何回泣くんだろう。 くおんちゃんも泣いていました。 「さゆがそんなに辛かったのに、気付けなくてごめん。話してくれてありがとう」 ああ、さゆの隣で泣いてくれている彼女はなんて暖かいんだろう。 こんなにも暖かく優しい人を、何故信じられなかったんだろう。 「決めた。私、何があっても絶対さゆには隠し事しない。  さゆがまた人を信じられるように、私頑張る」 そう言って、くおんちゃんはまたぎゅって抱きしめてくれました。 何だか、心の中が温かいもので満たされていくのを感じます。 今日はカウンセリングの先生にも、くおんちゃんにも助けてもらった日でした。 先生、くおんちゃん、ありがとう。 9月8日(木) 「さゆ、何かスッキリした顔してるね」 って、お母さんに言われました。 うん、いろいろあったけど、少し整理できたんだ。 9月14日(水) 今日もカウンセリングを受けました。 結城先生は、さゆがまた来てくれて嬉しいって言ってくれたし、 「原田さん」じゃなくて、「さゆちゃん」って呼んでくれるようになったし、 何だか嬉しかったです。 9月15日(木) 「これ見てみ、最悪だから」 岩屋さんから画像付きのメッセージが届きました。 画像は、岩屋さんとりほちゃんのメッセージのやり取りを記録したものでした。 スクショというやつです。 「私のタイミング、私の言葉で謝るって言ったよね。どうして無理矢理謝らせたの?」 「薬師寺が謝る気ないって思ったから」 「謝るつもりだったよ。何回も説明させないで」 「そんな風には全然見えなかった」 「岩屋さんって性格悪いよね」 「は?今そんな話してないし」 こんなやり取りがしばらく続いていましたが、さゆは途中で見るのを辞めました。 少し考えた後、さゆは、生まれて初めてメッセージのブロック機能を使いました。 9月16日(金) これでいいんだ。前を向こう。 9月21日(水) くおんちゃんから、今度の日曜日カフェに行こうよって誘われました。 彼女からのお誘いが、何だかすごく嬉しく感じました。 9月25日(日) 部活が終わった後のくおんちゃんと、2人でカフェに行って来ました。 くおんちゃんは、クリームの乗ったフローズンドリンクを飲みながら、 今日は私の悩みを聞いて欲しい。と言いました。 いつもさゆを助けてくれているくおんちゃんの悩み、 聞かないわけにはいきません。 もちろん聞くよ、と答えたら、 彼女は、実はお姉ちゃんと仲が悪いんだわ、 と家族についての話を始めました。 くおんちゃんのお姉さんは今高校三年生で、今は一緒に住んでいるけど、 来年の春には専門学校に行くため、家を出るそうです。 いろいろあって仲が悪いけど、お姉ちゃんが家を出る前に仲直りしたい。 どうすればいいかなあ、って話すくおんちゃんは、 今までさゆが見たことのない表情をしていました。 どうにか力になりたいけど、 でもさゆ、お姉ちゃんいないし、どうすればいいのか分からずにいたら、 一人、解決の方法を提案してくれそうな人が思い浮かびました。 結城先生です。 9月28日(水) 「はあ~、スッキリした。  私、自分の中に答えがあったわ。  さゆ、薦めてくれてありがとう」 カウンセリングを終えたくおんちゃんは、さゆにそう話しました。 薦めてくれてありがとうは、さゆのセリフだよ。って返したら、 くおんちゃんは笑っていました。 この感じだときっと結城先生は、くおんちゃんの悩みに対して、 何かしら納得できる答えを出したんだと思います。 カウンセラーってすごいんだなあ。 10月1日(土) 学校がお休みだったので、さゆの密かな楽しみ、アニメの一気見をしました。 今日見たのは9月まで放送されていたアニメで、 表向きは喫茶店の店員さんの女の子が、実は凄腕のエージェントで いろんな事件を解決するというもの。 物語序盤で、主人公の女の子が、悲しい境遇にある相方に 「今は次に進むとき。失うことで得られるものもあるって」 って言ってる場面があって、 何だかさゆは、そのセリフを自分に言われているような気がして、すごく勇気づけられました。 さゆは、中学時代のいろんなものを失いましたが、 でもそれで得られるものもあると、そう言われているような気がしました。 その後、そのキャラクターは相方を抱きかかえて 私はキミと会えて嬉しいって言っていて、さゆ、見ていてきゅんってしました。 いいアニメだったなあ。 何か迷うようなことがあったとき、また見ようと思います。 10月10日(月) 今日は祝日なので学校お休みです。 明日から中間テストなので、一日勉強を頑張りました。 10月11日(火) 中間テスト初日でした。 10月13日(木) 中間テスト終わりました! 今回も頑張りました。 テストの後は恒例の、くおんちゃんとのアイスinフードコートです。 くおんちゃんは、お姉ちゃんと仲直りできそうと、 嬉しそうに話していました。 よかったあ。 10月17日(月) 今日は、11月の11日と12日に開催される文化祭の出し物について、 クラスみんなで話し合いました。 さゆ、文化祭って初めてなのですごくワクワクしています。 さゆたちのクラスは、たこ焼き屋さんをやることに決まりました。 当日はたこ焼きを作る人たちと、売り場で販売をする人たちと、それ以外のお仕事をする人たちの 三つの班に分かれて行動するみたいです。 さゆは、売り場で販売する班になりました。 お金をもらって、たこ焼きを渡して、お釣りがある場合はそれを渡すというお仕事です。 正直に書くと、たこ焼きを作ってみたかったけど、 中3の合唱コンクールみたいに大きなミスをしちゃうと大変だし、 それでお金を出して買ってくれた人に迷惑をかけちゃうと 絶対に立ち直れないと思ったので、やめておきました。 11月2日(水) 来週末に迫った文化祭の、たこ焼きの試食会をクラスみんなでしました。 自分のクラスだからひいき目に感じてしまうかもしれないんですけど、 すっごくすっごく美味しかったです。 ちなみに、くおんちゃんはたこ焼きを作る係で、 彼女の作ったたこ焼きは特に美味しく感じました。 11月11日(金) 文化祭の初日でした。 さゆのクラスのたこ焼き屋さんは大盛況で、さゆもいっぱい頑張りました。 ミスもしなかったし一安心です。 カップルで買いに来てる人たちもいて、恋人同士で文化祭を回るなんて、素敵だなあと思いました。 でもその直後に何故かりほちゃんと内藤くんのことを思いだしてしまい、 何とも言えない気持ちになりました。 明日は、さゆもくおんちゃんもクラスのお仕事がない日なので、二人で文化祭を回る予定です。 楽しみだなあ。 11月12日(土) 文化祭二日目です。 さゆのクラスは、初日にお仕事をした人は二日目がお休みで、 初日お休みの人は二日目にお仕事をするということになっています。 どちらを休みにするか、希望を出すことが出来たので、 さゆは今日をお休みにしました。 今日は一般開放日と言って、学校関係者以外でも入れる日なので、 もしもりほちゃんや岩屋さんがたこ焼きを買いに来たら、 さゆはテンパってしまいそうだからです。 さゆと同じく、今日をお休みにしていたくおんちゃんと、お化け屋敷に入ったり体育館で演劇を見たりしました。 お化け屋敷は、最初さゆが怖くて入るのを躊躇していたんですが、 くおんちゃんが大丈夫大丈夫怖くないから入ってみようよ絶対大丈夫だからというので 入ることにしました。 そんなくおんちゃんが、お化け屋敷の中ではさゆよりも怖がっていて、悲鳴をあげていたのが ちょっとだけ面白かったです。 その後、生物部の展示を見に行くと、結城先生がいてびっくりしました。 「今日はプライベートで来ちゃった」 アクリルで出来たカメの飼育ケースの前でそう話す結城先生は、 今日も穏やかで優しい雰囲気でした。 展示を見終えて教室を出た後、くおんちゃんは 「ああ~、結城先生にバブみを感じてオギャりてぇ~」 と言っていました。 バブみを感じてオギャる……? 何となく意味が分かるような、分からないような……。 最近、くおんちゃんは素でさゆと接してくれている気がします。 そういうの、嬉しいなあ。 高校生活最初の文化祭は今日でおしまい。 初めての経験でしたけど、楽しかったです。 11月17日(木) ぴゃぁ~~~~~! 文化祭の時、実はさゆもたこ焼き作ってみたかったんだけど、いろいろ怖くてやめておいた。 という話をくおんちゃんにしたら、来月にたこパをすることになりました! たこ焼きパーティー、略してたこパです! くおんちゃんは基本的に毎日部活があるので、 部活がお休みになる期末テストの最終日に、くおんちゃんのおうちで開催することになりました。 くおんちゃんが作り方も教えてくれるそうです。くおんちゃんありがとう! 楽しみ楽しみ楽しみ~! 11月23日(水) 勤労感謝の日でお休みでした。 お父さんもお母さんもお休みだったので、 家族みんなで、最近動画サイトにアップされたお母さんのライブ映像(夏フェスのやつです)を見ました。 後半にすごく綺麗な曲が流れていて、 さゆがこの曲好きって言うと、お母さんが少し沈黙して、その後こう言いました。 「さゆ、お父さんとお母さんね、去年の合唱コンクールの後、いろいろ考えたんだよ。  ああいう辛い経験をして、これから音楽がさゆの痛みになるんだったら、  お父さんもお母さんも音楽辞めようかって話もしてたの」 びっくりしました、そんなことを考えていたなんて。 「でも、さゆはその後もお母さんのライブ見に来てくれたよね。  音楽聞くの怖くないって言ってくれたよね。  今もこうして、この曲好きって言ってくれてさ、お母さん嬉しいよ」 そう話すお母さんは涙ぐんでいるように見えました。 お父さんもお母さんも、音楽がお仕事なのに、それを辞めようかって思うほど さゆのことを心配してくれてたんだなあ。 さゆ、本当に素敵な家族に恵まれたなあって思いました。 お父さん、お母さん、ありがとう。 12月1日(木) 来週の木曜日はたこパだぁ~。 楽しみ過ぎますけど、まずはテスト勉強を頑張らないといけません。 12月4日(日) 明日からテストです。 たこパまであと4日です。 12月5日(月) 期末テスト初日。いい感じ。 たこパまであと3日。 12月6日(火) 期末テスト2日目。やや苦戦。 たこパまであと2日。 12月7日(水) 期末テスト3日目。絶好調。 明日頑張ったらたこパ。 12月8日(木) はぁ~満腹満腹。 お腹いっぱいです。 今日はくおんちゃんとたこパでした。 テストが終わった後、スーパーで買い物をして、くおんちゃんのおうちのリビングで開幕。 くおんちゃんのおうちにはたこ焼き用の鉄板があって、それを使ってたこ焼きを焼いていきました。 最初は難しかったんですけど、だんだんやり方が分かって来て、 それっぽい仕上がりになっていきました。 くおんちゃんが、さゆ上手じゃん。って褒めてくれて嬉しかったです。 出来上がったたこ焼きをいくつか食べた後、くおんちゃんが奥の部屋に向かって声をかけました。 「お姉ちゃん、たこ焼き食べる?」 「食べる」 そう言って、くおんちゃんのお姉さんが出て来ました。姉妹だけあって似ています。 「お姉ちゃん、この子がさゆだよ。私の親友」 「くおんの姉のかれんです。いつもくおんがお世話になってます」 「原田さゆです。いつもくおんちゃんにお世話になってます」 そんな挨拶を済ませた後は、3人でたこパを楽しみました。 さゆは、くおんちゃんとたこパを出来たのも嬉しかったですし、 彼女がお姉さんに「私の親友」と紹介してくれたのはもっと嬉しかったです。 親友、かあ。 9月頃に、お姉ちゃんと仲が悪いと話していたくおんちゃんでしたが、 今は仲良しのようで、3人で楽しくおしゃべりしながらたこ焼きを食べました。 さゆが作ったたこ焼きを くおんちゃんもくおんちゃんのお姉さんも美味しいって言ってくれて、 すっごく幸せな時間でした。 ああ、思いだすだけでニヤニヤしちゃうなあ。 ちなみにこの日記は、たこパから帰宅して夜ご飯の前に書いています。 夜ご飯を食べられるかどうかが、目の前に迫ったさゆの心配事です。 12月13日(火) 期末テスト、全ての教科が返って来ました。 今回はたこパのことばかり考えていたテスト期間でしたが、 なんと! 高校に入ってから一番いい成績をとることができました! 嬉しいなあ~。これもたこパのパワーでしょうか。 12月23日(金) 終業式でした。 二学期、いろいろあったなあ。 始まった頃はすごく暗い気持ちだったのに、 くおんちゃんや結城先生のおかげで、いい気持ちで終えることが出来ます。 二人とも、本当に本当にありがとう(結城先生には、ありがとうございます。ですね)。 そう言えば二学期になってから、中学時代のお友だちとは一回も遊ばなかったなあ。 うん、それでいいのかも。 12月24日(土) クリスマスイブです。 文化祭の日にたこ焼きを買いに来たカップルさんは、 今日デートしているのかなあとか、そういうことを思いました。 さゆ、恋愛ってしたことないからよく分からないんですけど、 どんな感じなんだろうなあ。 12月25日(日) クリスマスなのに部活だけで終わるのは嫌だ。 というメッセージがくおんちゃんから届いたので、 部活終わりの彼女と二人で公園に行きました。 みゃーちゃんがいた公園です。 いつもみゃーちゃんと座っていたベンチに腰を掛けて、 くおんちゃんが、みゃーちゃんの定位置だった場所に座りました。 もしかしたら、くおんちゃんっていう素敵なお友だちが出来たから、 みゃーちゃんはいなくなったのかな。 さゆはもう大丈夫だろうって思ったのかな。 でも、また会いたいなあ。 と、少しだけ寂しくなっていたら、みゃあ、という鳴き声がして、 ベンチの前に懐かしい姿が現れました。 みゃーちゃんです。 書いていてもまた嬉しさがこみあげてきます。みゃーちゃんが帰って来たんです! しかも、みゃーちゃんの後ろには、少し怯えた感じの三匹の子猫ちゃんが。 どうやらこの子たちは、みゃーちゃんの子どものようです。 みゃーちゃん、家族が出来たんだ。 さゆはみゃーちゃんとの再会に大はしゃぎでしたが、 くおんちゃんも大はしゃぎで、かわいいかわいすぎると言ってムービーを撮っていました。 「今日はさゆのおかげでいいクリスマスになったよ。ありがと」 帰り際、くおんちゃんがさゆにそう言ってくれました。 さゆも一緒。すごくいい一日になったよ、ありがとう。と返しました。 ああ、本当に素敵な一日だったなあ。 メリークリスマス。 12月26日(月) みゃーちゃんたちと遊びました。 みゃーちゃんも子猫ちゃんたちも本当に可愛いです。 12月31日(土) 今年も大晦日はお母さんのライブでした。 ここ数年のさゆの大晦日は、 フェスでお母さんのライブを見る日になっています。 お母さんは今日もかっこよくて、お客さんの盛り上がりもすごくて、 さゆは何もしていないのにまたしても誇らしい気持ちになりました。 ライブが終わってちょっとして、くおんちゃんから、 良いお年を! ってメッセージが送られて来ました。 すごくかわいいスタンプと一緒に送られてきたので、 さゆも、とびきりかわいいスタンプで返信しました。