ーーーーーーーーーーーーーーー 1件のメッセージがあります。 ーーーーーーーーーーーーーーー 枕元に置いているスマートフォンが、そう通知した。 やたらけたたましい通知音。 たまの休日、昼寝をこいていた僕を苛立てるには十分だった。 僕がこの音を設定したわけじゃない。デフォルトでこの音。 このスマホの設計者はユーザビリティというものを知らないようだ… 「邪魔するな。夢から引き戻されたじゃないか。」 抱き枕お姉さんに頭を撫でられる、幸せな夢― 疲れた僕のために顕れた、クールな顔した救いの女神とのいちゃらぶランデヴー。 あぁ女神様… 全身使って癒してくれて、料理も健康管理もエッチなこともしてくれる、マジ最高の女。 今日も隣で僕の背中を優しく摩ってくれていたはずだけれど… そういえば、と隣を見るも、お姉さんはいない。 いつもなら僕が通知に気づく前にスマホを取り上げ、勝手に返信してくれる。 ずぼらな僕だから助かっていたのだが。 買い出しにでも行っているのだろうか? 時計を見ると、もう夕飯時だった。 2度目の昼寝にはもう遅すぎる。 夜寝付けなければ、お姉さんに叱られてしまう。 それで、「今夜のヌキヌキはおあずけ」、となってしまうのだけは避けたい。 仕方ないので、目を開いて、我が眠りを妨げる不届き者のメッセージを覗いてみることにした。 スマホからのブルーライトで、寝ぼけた頭をたたき起こすのだ。 このメッセージアプリを開くのも久しぶりだが… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ”千穂-サブ垢”さんからのメッセージです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ―元カノからだった。 おのれ、ふざけやがって。 お前なんかにお昼寝を邪魔されたとはな。 今更なんのつもりだろうか? ろくな説明もなしにあんな風に僕のことをフっておいて そもそももう話したくないって言ったのはそっちであって~…(恨みつらみ) …でも実のところ少し嬉しい。 最後にもう一度よく話し合っておきたかったのだ。 あんな終わり方、僕だってまだ納得できていない。 なんで別れなければいけなかったのか… てか”サブ垢”ってなんだよ。 本アカから送ってくれればいいんだけど― あ、お姉さんに言われてブロックしたんだっけ。 ーーーー【”千穂-サブ垢”さんとのトークルーム】ーーーー 「ごめん、こっちなら届くかな」 「あの時は本当にごめんなさい。私どうかしてた。」 「お願い。やり直したい。」 「もう一度会いたい。」 <-「今更なんだよ」 「よかった」 「本当に久しぶり」 「今更だよね」 「ごめん」 「本当にあの時はおかしくなってたの」 「あなたのことをなぜか急に凄く怖く感じて」 「話したり近づいたりできなかった」 「本当にごめんね」 <ー「おかしくなってたって?」 <ー「気の迷いだったって?」 <ー「気分で俺は振り回されたのか?」 <ー「いい加減にしてくれ。」 <ー「俺にはもう新しい人がいるから」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ―しまった。 冷静に話し合いたいのに、感情的に怒りをぶつけてしまった。 言う必要のない意地悪まで言って…こんなじゃダメなのに。 自分の辛さを知ってほしい一心で。 なんて子供じみた言動… 自分でも気づかなかったけれど、僕相当傷ついてたんだな。 いかん、キモいツンデレやってないで、冷静さを取り戻さなければ…ん? ーーーー【”千穂-サブ垢”さんとのトークルーム】ーーーー 「知ってるよ。私が話したいのはその人のこと」 「今1人?」 「直接会いたい」 <ー「???」 <-「なんであの人のこと知ってるんだ?」 <ー「調べたのか」 「君と付き合いだしてからずっと知ってたよ」 「ずっと黙ってたけど」 「調べてるのはあっちだから」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー え??? は????? 言ってる意味が分からない。 「付き合いだしてから知ってた?」 「調べてるのはあっち?」 なんだよそれ、だってお姉さんは俺の抱き枕で… ーーーー【”千穂-サブ垢”さんとのトークルーム】ーーーー 「証拠」 【写真1】 【写真2】 【写真3】 【写真4】 「これ、盗聴器だと思う」 「君の部屋で見つかったの」 「あの人、たぶんずっと」 「ごめん、怖くて気づかないふりしてた」 「外で会えない?」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 寒気がする。 血の気が引いたのだ。 写真の背景は確かにこの部屋だ。 何年も住んでる。 間違えようはない。 気付かなかったのか? 巧妙に隠されていたのか? 本棚近くのコンセントタップ 脱衣所の小窓 玄関の靴箱 ―そして、「お姉さんになったはずの」僕の抱き枕の中 予感なのか、長年住んだ勘なのか あぁ…まさかな ベッドの下に、何かが「隠されている」 恐る恐る、手を伸ばす 「ベッドの下の斧男」 そんな都市伝説がふとよぎる 本能が告げる ヤメテオケ 知らないふりをしろ そこには何もあるはずがない あの人が嘘をついているなんて 嗚呼しかし… 『縁なき衆生は度し難し』 --------------------- TOSSCAM-RECORDER ●REC 140hour 26min 20sec BAT:17% --------------------- →①【64GBのマイクロSDを取り出す】 →②【やめておく】