XX12年 5月2日 今日はカウンセリングを受けた。 先生にたくさん話を聞いてもらった。 新しい家族は優しいけど、やっぱり怖いし不安だという話をした。 先生は私の暗い話をたくさん聞いてくれて 「そうだよね」「きついよね」と何度も言ってくれた。 カウンセリングの先生は優しい感じの人だった。 この日記を書いているのは、先生が日記を書くのは良いと言っていたから。 5月7日 ゴールデンウィークが終わり、私は新しい中学校に行く予定だったのだが、 いろいろ怖いので休みにしてもらった。 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 新しいお母さんは「麻衣のペースで大丈夫だからね」と言ってくれた。 お母さん、こんな弱い娘でごめんなさい。 お父さんは多分優しい人だと思うんだけど、ちょっと怖い。 お父さんだけじゃなくて、年上の男の人みんな怖い。 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。 そういうことしないって分かってるけど怖い。 どうして怖いんだろう。 5月8日 来週から学校に行こうと思う。 がんばろう。 5月13日 今日はとても嬉しい一日だった。 私は、お母さんと一緒にロールキャベツを作った。 私は簡単なことしかできなかったけど、 お母さんは「とても助かる」と言ってくれた。 夕食として出されたロールキャベツを、 家族みんなが美味しいと言ってくれて、 弟はまた食べたいと言ってくれた。 すごく嬉しい。 5月14日 新しい学校生活が始まった。 担任の先生は女の先生。 よかった。 大人の男の人は本当に無理なので助かった。 何人か話しかけてくれた。 友だちになれるといいな。 5月16日 カウンセリング。 今日は、家族と少しずつ仲良くなってきていることや、 新しい学校でのことを聞いてもらった。 日記をつけていることも伝えた。 カウンセリングって不思議。 ただ話を聞いてもらっているだけなのに、 いろんなことが分かってくるし、安心する。 5月20日 もうすぐ中間テスト。 弟にまたご飯を作って欲しいと言われる。 うれしい。 かわいいなあ。 作ってあげたいなあ。 5月23日 中間テスト。 頑張った。 そこそこできたと思う。 テストの日は学校がお昼まで。 去年はテストの時、お昼までしか学校ないのが本当に嫌だったんだけど、 今はそうでもない。 多分、新しい家族が私をいじめたりしないからだろう。 書いてて思った。 私は前の家族にいじめられていたんだ。 いじめって学校の中であるイメージだけど、家庭の中にもあるんだな。 家に帰る途中、 帰ったらひどいこと言われたり、暴力振るわれたりすることがないのが嬉しくて、 いい日だなって思った。 天気もよかった。 5月30日 カウンセリング。 今日もたくさん聞いてもらった。 新しい家族が出来て一か月ぐらい経って 私が不安に思っていることと、実際に起きた出来事を 聞かせて欲しいと言われた。 私が不安に思っていることは、全く起こっていなかった。 こういうことが続いていけば、 麻衣さんの心の不安も減っていくかもしれないね、と言ってくれた。 不安、なくなるといいなあ。 6月3日 弟がゲームを一緒にして欲しいと言うからやってみた。 私にはすごく難しかったけど、弟は上手だった。 「すごいね」と言うと、弟は嬉しそうにしていた。 ああ、かわいいなあ。 弟がいる人って生まれてからずっとこんな感じなんだろうか。 よしよしってしてあげたかったけど、 馴れ馴れしいって思われるのが嫌だからやめた。 6月4日 教室の窓から雨上がりの空を見ることができた。 すごく綺麗だった。 6月9日 学校おやすみ。 天気は雨。 私の中で疑問に思っていることがある。 新しいお父さんは優しいし、きっと信頼できる人だと思うんだけど、 どうしても怖い。と言うか、男の人全体が怖い。 優しそうな人も、ニコニコしている人も、 みんな内側はひどい人、私の前の父みたいな感じじゃないかと思う。 絶対そんなことないと思うけど、どうしても嫌な記憶がこびりついてしまっている。 でも、弟だけは怖くない。 どうして? 6月10日 ああ、嫌だ。 昔のことを思い出して辛くなってる。 みんな敵に見える。 弟に手を握ってほしい。 ぎゅってしてほしい。 多分、弟だけは味方だと思う。 たすけて。 6月11日 昨夜はいろんなことが怖くて不安だったけど、 寝たら少しは良くなった。 大丈夫、私は大丈夫。 新しい家族はみんないい人たちだから、大丈夫。 弟に手を握ってとか言いそうになったけど、我慢してよかった。 言ってたら私は恥ずかしくて彼の顔を見れなくなっていたと思う。 それにしても何だろ、この感情。これが家族なのかな。 7月2日 期末テスト。 テストとは関係ないんだけど、昔のことを思い出してきつい。 きついし、怖いよ。 7月3日 期末テスト終わり。 テスト期間中、精神的にきつかったなあ。 昔のことをやけに思い出したりした。 将来は社長になりたいって同じクラスの男子が言ってて、 この人は大人になって会社を作ったら、娘に暴力を振るうのかなとか ありもしない方向に想像力が働き、それで気持ち悪くなったりした。 ささいなことで気持ち悪くなったりして、 私、これから生きていけるのかな。 7月11日 カウンセリング。 たまに昔のことを思い出して、すごく怖くなることを話した。 話してる途中で泣いてしまった。 先生は優しく聞いてくれて、その後事実を伝えてくれた。 私が怖がっていることが、もう数ヶ月も起こっていないということだ。 数ヶ月の間、私はひどいことを言われてもいないし、手を出されてもいないし、 前みたいにひどいことをされそうになったこともない。 心の中は不安だろうし、それを押し殺す必要はないけど、 この事実の部分も余裕があったら受け止めてあげて欲しいと言われた。 先生ありがとう。 7月24日 今日から夏休み。 去年の夏休みは本当にきつかったから、 今年はおだやかに過ごせるといいな。 8月5日 毎日平穏なのに、また昔のことを思い出して辛くなってる。 もうこういうのやめたい。 8月8日 カウンセリング。 この時間がないと生きていけないかもって思うぐらい 助けられている。 先生ありがとう。 9月20日 今日で14歳になった。 家で家族がハッピーバースデーの歌を歌ってくれた。 ケーキも用意してくれた。 すごく嬉しかった。 まだちょっと不安な部分もあるけど、 私はこの家に来てよかったと思う。 この1年間は私の人生で最も変化があった年かもしれない。 家族が変わるなんて経験、普通の人はしないだろうから。 9月21日 昨日、ハッピーバースデーを歌ってもらえたの、嬉しかったなあ。 弟もちょっと恥ずかしそうに歌ってて、すごくかわいかった。 授業中思い出してニヤニヤしそうになちゃった。 あぶないあぶない。注意しないとね。 9月26日 カウンセリング。 誕生日をお祝いしてもらえたことを話したら、 先生もお誕生日おめでとうって言ってくれた。 嬉しい。 最近嬉しいことが多いなあ。 11月12日 文化祭。みんなは盛り上がっていたけど、 何だか私は盛り上がれなかった。 どうしてだろう。 クラスのみんな、こんなテンション低い私でごめんなさい。 男子がはしゃいでいるのを見るとちょっと怖くなってしまう。 やっぱり私男の人だめだ。 11月13日 弟と一緒にゲームをして遊んだ。 うん、やっぱり弟は大丈夫だ。 弟にゲームで全然勝てなくて ちょっとぐらい手加減してよ~って、 だだをこねたり、 上手で偉いねって頭をなでたりしたかったけど、 引かれるのが怖いからやめておいた。 11月18日 大丈夫 弟 多分大丈夫 お父さん 怖い 男子 学校の男の先生 無理 知らない大人の男の人 こんな感じかな。 12月2日 久しぶりにきつい。 もう昔のことなんて忘れたい。 記憶がなくなればいいのにって思う。 12月12日 カウンセリング。 先生から、少しずつ、昔のことを思い出す時間が減っているねと言われた。 確かに。 焦ることはないし、無理して思い出さないようにしなくてもいいよ。 今、とても順調に回復しているよ。 とも言われた。嬉しい。 先生ありがとう。 12月24日 クリスマスだから、お母さんとフライドチキンを買いに行って 家族みんなで食べた。 クリスマスはチキンを予約していないと買えないんだって。 知らなかった。 XX13年 2月14日 バレンタインデー。 お母さんと一緒に、お父さんと弟にチョコレートをあげた。 すごく喜んでくれた。 クラスの女子は、本命は誰にあげるとか、 どのタイミングで渡すとか、そういう話で盛り上がっていた。 3月16日 お母さんと一緒に餃子を作った。 野菜を切ってお肉と混ぜて、餃子の皮で包んで焼いた。 ちゃんと餃子を作ったのははじめてだったんだけど、 お母さんは「麻衣は料理が上手だね。助かるよ」 と言ってくれたし、お父さんも弟も 美味しいと言ってくれた。 嬉しいな。 私の作った料理(お母さんと共作だけど)を 美味しいって言ってもらえると、幸せな気持ちになる。 4月8日 今日から中学三年生。最高学年だ。 クラス替えで、ちょっと苦手だった男子と別のクラスになって嬉しい。 担任の先生も変わって、おっとりした感じの先生になった。 何だかやわらかい雰囲気の女の人で、結構好きかも。 4月10日 入学式、弟が入学してきました! 制服姿がかわいすぎてやばい。 何であんなにかわいいんだろう。 4月22日 三者面談。 志望校のことや、将来についての話をした。 今年受験なのかあ。 今まで将来のこととか考える余裕がなかったんだけど、 考えないとなあ。 4月24日 カウンセリング。 先生から、だいぶ調子がいいみたいだね、と言われた。 最近は調子がいいと自分でも思う。 先生は本当に私の話を優しく聞いてくれる。 カウンセリングを受け始めてもうすぐ一年が経つ。 私はこのカウンセリングと新しい家族のおかげで、心が健康になってきた気がする。 私も先生みたいになりたいな、と漠然と考えた。 将来のことを考えないと、 と思い始めたあたりでこうなるのが、我ながら面白かった。 私は、私のように心が傷ついてしまった人の力になりたい。 まだ自分の傷が完治していない(ように感じる)私が言うのもおかしいかもしれないけど。 4月26日 だめ、だめ、だめ。 弟の制服姿がかわいすぎる。 もう、こんなにかわいいのは反則だよ。 5月5日 やばすぎることがあった! お茶を飲みにリビングに行ったら、 弟が昼寝をしていた。 風邪をひいたらよくないので、 近くにあったブランケットをかけてあげたら めちゃくちゃかわいい声で 「ありがとう」と言った。 聞いたことのない声で本当にやばかった! 将来、弟に彼女が出来たら、 こんな声出して甘えるのかなあ。 む、む、む。 書いていて何だか不思議な気分になってきた。 もしかして、もう彼女いたりするのかな。 モテてる? うーーーーーーー、 弟が幸せならいいけどちょっとやだーーーーーーーーー 5月6日 朝ごはんの時、それとなく弟に彼女がいるのか聞いてみた。 いないと言われて一安心。 よかったーーーーーーーーーーーーーーーーーー あああもう何なのこの感情。 娘が結婚する時の父親ってこんな感情なのかな。 私が結婚するときや、私に彼氏が出来たとき、お父さんはこんな感情になるのかな。 6月16日 久しぶりに昔のこと思い出して一日沈んでた。 お父さん、お母さん、ごめんなさい。 家族みんな、私を本当の家族のように扱ってくれるけど、 何だかしっくりこない感覚になる時がある。 今日はまさにそんな日だった。 私、この家族になって一年ちょっとしか経ってないし。 学校のみんなは14年以上同じ家族だし。 辛いなあ。 ごめんなさい。 6月26日 カウンセリング。 雨がすごかった。 今日は上手くお話できなかった。 先週から何か心がしんどい時間が続くなあ。 7月20日 今日は本当に悲しいことがあった。 私の新しいお父さんは、前の父と違って全然お酒を飲まない。 元来お酒を飲まない人だと思っていたけど、違った。 私がリビングのソファでうたた寝をしていた時のことだ。 気が付くと、お父さんとお母さんが二人で話をしていた。 とても仲よさそうに話していて、それを邪魔したくないし、 2人の会話を聞いていたいという気持ちもあって、 眠ったフリをしていた。 すると、お母さんが、 禁酒が長く続いているとか、我慢しすぎなくてもいいとか そういう話を始めた。 お父さんは、禁酒は苦しくないし、我慢だとも思っていないと言った。 その後、お酒が飲めないことよりも、お酒に酔った自分を見て麻衣が怯えることの方が 何倍も、何十倍も苦しいはず。と言った。 この瞬間、いろいろ分かった。 お父さんは(もしかしたらお母さんも)お酒を飲まない人ではない。 お母さんの口ぶりからすると、お父さんはお酒が好きだったのかもしれない。 だが、私がお酒を飲む男から暴力を振るわれていたから、飲まないでいた。 私のために。血の繋がりのない娘である私のために、嗜好品を我慢していた。 申し訳なさと感謝で涙がこぼれた。 寝ているフリをするつもりだったのに、たくさん泣いてしまった。 お母さんにもお父さんにも気づかされて心配されたけど、 大丈夫。とだけ言って部屋に戻った。 部屋のベッドでまた泣いた。 ごめんなさい。 私がお父さんとお母さんからお酒を奪いました。 書いていてまた涙が出てきた。 人生って難しい。 7月21日 昨日あんなことがあったのに、今日はお父さんもお母さんもいつも通り。 これが家族なのかなあ。 私は、心の中で何度もごめんなさいと言った。 今度の週末に花火を見に行こうと言われた。 7月27日 家族みんなで花火大会に行った。 私とお母さんは浴衣を着て、お父さんと弟はいつもの格好だった。 花火はとても綺麗で、目を奪われた。 一番最後に、とても大きくて、ひときわ綺麗な花火が打ちあがった後、 お母さんから、お父さんと結婚を決めたのは花火大会の日だったと伝えられた。 お母さんからプロポーズしたらしい。 もともとは他人だった二人が、今は家族として一緒に暮らしている。 他人同士が、お互いを好きになって、家族になった。 麻衣も家族だよ。お父さんもお母さんも麻衣が大好きだよ。 と言われ、私は泣いた。 嬉しかった。 最近泣いてばっかりだ。 お父さん、お母さん、本当にありがとう。 家に帰った後、弟から、僕もお姉ちゃんのこと大好きだから。と言われた。 恥ずかしかったのか、ちょっと目を逸らしながら伝えてくれた。 めちゃくちゃきゅんってした。 7月28日 今度、勇気を出してみようと思う。 私は、私の為にお父さんとお母さんがお酒を我慢しているという状況が悲しい。 だから、お酒を我慢しないでって言おうと思う。 お酒に酔った男の人は怖いけど、お父さんはきっと大丈夫。 8月3日 お昼に、お父さんとお母さんと話をした。 お酒を飲んでも大丈夫だから、我慢しないで欲しいということ。 私は我慢されるのが悲しいということ。 お父さんもお母さんも困った顔をしていたけど、 「麻衣がそう言ってくれるんだったら、甘えちゃおうかな」 とお母さんが言って、夜にお酒を飲むことになった。 私は怖さもあったけど、二人がお酒を飲んで、 我慢から解放される瞬間を見たかったので、 同じテーブルでジュースを飲むことにした。 弟もやって来た。 怖くなったら遠慮せずに言うことがルールとして定められた後、 みんなで乾杯をした。 お父さんもお母さんも、すごく美味しそうにお酒を飲んでいた。 全然怖くなかったし、二人が嬉しそうな様子を見て、私も嬉しくなった。 お父さんもお母さんもいつもより機嫌がよくなって、よく喋る。 二人の昔の話をして笑ったりしていた。 私も大人になったらお酒を飲むのかなあ。 こんな風に酔っぱらうのかなあ。 とか考えたりした。 弟と一緒にお酒を飲んだら、いろんなことが話せたり、 いつもは出来ないことができたりして……。 機嫌よくなって、かわいいねえよしよし、とか………ぎゅう、とか……。 ああ、何考えてるんだろう。 とにかく今日はすてきな一日だったおやすみなさい! 8月4日 ずっと弟のこと考えてた。 8月10日 多分、好きなんだろうな。 8月11日 間違いない気がする。 家族愛じゃなくて、恋愛だ。 ずっと抱いて来た感情は、恋愛感情だ。 でも、相手は弟だ。 家族に恋愛感情を抱くって……。 8月21日 カウンセリング。 今日は思い切って、弟のことを先生に伝えてみた。 先生は、それはきっと恋愛感情だねと言った。 そして、誰が誰を好きになっちゃいけないとか、 そういう決まりはないと言ってくれた。 麻衣さんが人を好きになれて嬉しいとも言ってくれた。 そうか、私、人にひどいことをされたけど、人を好きになれたんだ。 今日はカウンセリングを受けてよかったし、この先生で本当によかったと思った。 いつも思っているんだけど、今日は特に。 8月22日 昨日のカウンセリングで、 私の弟への思いは恋愛感情だと言われてから 何だかそわそわしている。 人を好きになれたって嬉しさと、 その相手が弟だということの難しさ。 嬉しいけど、難しい。 どうすればいいんだろう。 8月23日 弟におはようって言うときに、 心の中で「すきだよ」って言ってみた。 耳が赤くなるのが自分で分かった。 8月24日 ドキドキする。 すき。 9月20日 今日で15歳になった。 朝からお母さんがニコニコしてて、 お誕生日おめでとうって言ってくれた。 弟もお父さんもおめでとうって言ってくれて、 夜は家族全員でハンバーグを食べに行った。 とても美味しかった。 弟がポテトを頼んだら、 すごい量のものが運ばれてきて、みんなで笑った。 11月11日 文化祭。一日体育館で座っているだけだった。 弟と席が隣同士だったら、きっと楽しかっただろうなあ。 二人で、さっきの面白かったねとか話したりして……。 ああもう!席順が自分で決められたらよかったのに。 XX14年 1月16日 受験まで二ヵ月を切った。 受験が終わるまで、毎日夜10時までは勉強しようと決めていて、 ちゃんと実行できている。 勉強が終わった後、テレビをつけたらアニメをやっていた。 海の中に入るシーンがあって、背景がすごく綺麗だった。 1月23日 先週と同じアニメを見る、 どうやらこのアニメは妹が義理の兄を好きになるストーリーのようだ。 ああああ応援したい!妹ちゃんに頑張って欲しい。 血が繋がっていない家族を好きになるって辛いよね……。 このアニメは私の受験生活のささやかな楽しみになりそう。 2月14日 今日はバレンタインだけど受験生なのでチョコレート渡せません。 ごめんね、と弟に伝えたら、別にいいよ。と言われた。 別にいいよ。ってどういう意味だろう? 気にしないでいいよ、なのか、私のチョコなんていらないって意味なのか……。 受験前だからなのか、ちょっと心が不安定かも。 来年のバレンタインこそは、弟にチョコレートを渡そうと思う。 2月18日 第二志望高の受験だった。 なかなかよかったと思う。 面接がすごく緊張した。 週末には第一志望。 気を抜かずにいようと思う。 2月21日 第一志望の受験終わり! これで受験勉強の日々から解放される。 頑張った~! 疲れていたのか、家に帰ってきて 気が付いたらベッドで寝ていた。 麻衣が頑張ったから、と お母さんがお寿司をとってくれた。 すごく美味しかったし、みんなでお寿司を食べるというのが幸せだった。 弟はたくさん食べていて、食欲旺盛なところもかわいいなあと思った。 すき。 3月1日 第一志望合格した。 よかった~~。 春から高校生になります。 楽しい高校生活になるといいな。 高校の制服着るの楽しみ。 弟が私の制服姿見てドキドキしたりして。 なんて、ああ、だめだめ。 変な妄想しちゃだめ。 3月15日 高校の制服とどいた! かわいい。 早速着てみた。 お母さんもお父さんも「似合う」って言ってくれて嬉しかった。 弟はお友だちの家に泊まりに行っていなかった。 こんな日に限って! 3月16日 お友だちの家から帰って来た弟に制服姿を見てもらった。 「似合うね」って言ってもらえてすごく嬉しかったけど、 お泊りの後で疲れてる時にこんなことして、ちょっと申し訳なくなった。 ごめんね。 お母さんに「麻衣は本当にその制服が好きなんだね」って言われちゃった。 3月20日 卒業式。 転校してからいろんなことがあったけど、 無事に卒業できてよかった。 卒業式の後にみんなで遊びに行く子たちもいたけど、 私はすぐに家に帰った。 夜ご飯はお鍋だったよ。 ご飯食べて、お風呂入って、毎週見てるアニメを見てた。 泣きながら告白するシーンがあって、もらい泣きしちゃった。 「あなたはずっと私の心の中にいた」 だって。ステキだあ。 4月3日 ありえない! 受験シーズンから見てたアニメの最終回だったんだけど、 最後、義理の妹ちゃんが失恋しちゃった。 すごい頑張ってたのに、そんなのないよ! かなしい。 やっぱり、姉とか妹って義理でもダメなのかな。 結ばれないのかな。 はあ。 4月9日 入学式。 担任の先生は優しそうだし、クラスの人もみんないい人そうでよかった。 今日から高校生。良い三年間になりますように。 4月10日 新しい友だちができた!名前はみおちゃん。 穏やかそうな女の子です。 クラスのみんな知らない人だったから、 友だちが一人でもいると安心するなあ。 4月16日 生物部に入部した。 ウサギとか、カメとか、そういった生物たちを飼育する部で、 部の雰囲気がすごく優しい感じだったのと、 生物を見ていると癒されるからこの部活に決めた。 ハリネズミがすごくかわいかった。 エサを上げたいなあ。 4月17日 部活で、私もエサをあげたりできますか? って先輩に聞いたら、大丈夫だよ。って言われたので ハリネズミにエサをあげてみた。 ぱくぱくって食べてる姿がかわいくて、すごく癒された。 かわいいなあ。 ご飯たくさん食べるところ、ちょっと弟に似てるかも。 4月23日 久しぶりにカウンセリング。 高校生活のことを話した。 今日は昔のことや、辛いことを話さなかった。 無理して話さなかったわけではなく、何だろう。 それを聞いて欲しい状態ではなかった感じかな。 先生は、それはとても良いことだねと言ってくれた。 心の傷がだいぶ癒えているのかもって。 弟がいかに可愛くて、かっこいいかもたくさん話してしまった。 私の恋は、私と先生しか知らない。 5月7日 生物部で飼育している生物の中で、 特に個性的なのがリクガメだ。 全然こちらに心を開かないし、懐く様子もない。 今日はそんなリクガメにご飯をあげてみた。 ご飯を置いたら、「何だ何だ?」みたいな感じで近づいて来て 普段見せないような元気な姿でご飯を食べていた。 その様子が可愛くて ニコニコして見ていたら、リクガメに、こっち見んなみたいな顔をされた。 先輩が、この子基本無愛想だけど ご飯食べるときだけめっちゃ元気になるから面白いよ。 と言っていたが、その通りだった。 6月14日 弟とゲームをした。 協力して進めるやつで、楽しかった。 ゲームに夢中になってる弟の顔がかっこよくて、 可愛いのにかっこいいのはずるい、好きってなった。 7月2日 期末テスト。科目多くて正直きつい。 がんばる。 8月19日 高校生活最初の夏休みは、映画ばかり見ている(DVDで)。 怖いのは苦手で避けているけど、そうじゃないものはいろいろ見た。 今日見たのは炭鉱の町が舞台で、 女の子たちがいろんな思いを持って フラダンスをするというもの。 本当にいろんな環境の中で、いろんな思いがあって、 すごく良い作品だった。 8月20日 今日も映画を見た。 今日は古代ローマの人が、 何故か現代の日本(の銭湯)に来てしまう話だった。 古代ローマの人の日本に対する反応がいちいち面白くて たくさん笑った。 面白かったなあ。 9月20日 誕生日。 16歳になった。 同じクラスの人たちにおめでとうって言ってもらえたり、 家族みんなでケーキを食べたりして、 すごく嬉しい日だった。 話したことのない男子にもおめでとうって言ってもらえて、 ありがとうって返せたよ。 いつからだろう。 多少抵抗はあるけど、同じクラスの男子だったら、 日常会話は出来るようになっている。 嬉しいなあ。大人の男の人はまだ無理だけど、 この調子だったらいつかは……。 弟もおめでとうって言ってくれた。すき。 9月24日 カウンセリング。 同じクラスの男子と普通に話せるようになったことを伝えた。 先生は「すごいね。本当にすごい。一つ乗り越えたんだね」 と言ってくれた。 麻衣さんは自分で一つの壁を乗り越えたんだから、 今日は自分を褒めてあげてね。 甘いものを食べて、自分にご褒美とかいいかもって。 何だかたくさん褒めてくれて、とっても嬉しかった。 先生ありがとう。 お母さんにそのことを話したら、お母さんも褒めてくれて 二人でカップのアイス(ちょっと高いやつ)を食べた。 10月6日 もうすぐ文化祭。 それに向けての会議で、 生物部では、簡単な動物園のようなものを作ろうということになった。 そんなに大きな出し物じゃないけど、 来た人が癒されるような空間になるといいなあ。 11月1日 文化祭。二日に分けて行われるうちの初日。 今日は校内の生徒だけで、明日は一般?の人も入れるようになる。 同じクラスの平田くん(軽音楽部)がライブをするというので、 みおちゃんと一緒に見に行った。 軽音楽部にはかっこいい人や、かわいい子がたくさんいた。 平田くんはギターを弾いて歌っていて、 何と言うか、教室で話している時とは別人のようだった。 知ってる曲もやってて楽しかった。 何となくみおちゃんと一日一緒にいて、クレープを食べたりした。 11月2日 文化祭二日目。 生物部の出し物の受付をしている時に、 お母さんと弟が来てくれた! お父さんはお仕事だったみたい。 受付の仕事が終わった後に、家族で文化祭を回ったりした。 今日は合唱部の発表を見たりした。 とっても綺麗な歌声だった。 11月20日 文化祭が終わってから、平田くんからよく連絡が来るようになった。 内容はなんてことない話ばかりだけど、何で私なんだろ。 気がある?そんなことはないか。 調子にのっちゃだめ、わたし! 11月27日 私が映画を見るのが好きと言ったら、 週末に一緒に映画に行こうと平田くんに誘われた。 見る映画は私が決めていいって。 うーん、誘ってくれるのは嬉しいけど、 何だかなあ。見たい映画とかないのかなあ。 男の人と二人きりはさすがに怖いので、みおちゃんにも来てもらうことにした。 みおちゃんは即OKしてくれて、マジ天使だと思った。 みおちゃんマジ天使。 11月29日 みおちゃんと平田くんと映画を見に行った。 見に行ったのは、全編CGで作られたアニメ映画。 受験シーズンに見たアニメがすごくよかった(最後は悲しかったけど)ことから、 私はアニメが好きになっていた。 閉鎖的管理社会の中にいた主人公が、管理の外の世界に行き、仲間と出会い、 最終的には管理社会を脱出するというストーリーがとてもよかったし、戦闘シーンは迫力満点だった。 映画を見終わった後、三人でハンバーガーを食べた。 平田くんは、登場人物の「音楽は骨で感じるもの」という台詞が良かったと話していて、 みおちゃんは、管理社会を管理する側に回れば楽しそうと言っていた。 友だちと映画を見て、感想を話し合って、すごく楽しい一日だった。 11月30日 お昼に弟の昼寝に遭遇し、そのかわいさで死にそうになった。 寝顔をスマホに撮って待ち受けにしたいとか、 いけないことを考えてしまう。 もちろんそんなことはしていない。 夜に平田くんから連絡。 明日放課後話すことがあるとのこと。 12月1日 平田くんに告白された。 私なんかを好きになってくれて、それを言葉で伝えてくれた。 嬉しかったけど、 何故か、最低の事をしようとした男(形式としては父だった男)のことを 思い出してしまい、頭が混乱し、過呼吸みたいになってしまった。 返事を出来る状態ではない私を見て平田くんは、 保健室の先生を呼んでくる、と言った。 私は、こんな姿を他の人に見せたくないし、 きっと数分後には落ち着くという希望的観測から、 それを止めた。 平田くんは、何も悪いことをしていないのに、 申し訳なさそうに、ごめん。と言った。 平田くんごめんなさい。 これは平田くんのせいじゃないの。 私のせいなの。 私が急に、思い出さなくてもいいようなことを思い出したからなの。 勇気を出して告白してくれたのに、 こんな状態になってしまって、本当に申し訳なかった。 しばらくして、私の過呼吸のような症状は落ち着いた。 彼に、付き合うことは出来ない。と伝えた。 理由は、他に好きな人がいるから。 弟のこととは言わなかった。 平田くんの大切な場面で変な感じになっちゃうし、 付き合って欲しいという要望には応えられないし、 すごく申し訳ない。 私、ダメだなあ。 12月3日 カウンセリング。 平田くんに告白されたこと、その際に何故か過去の辛いことを思い出し、 過呼吸のようになったことを伝えた。 人と付き合うことは、ゆくゆくは性交渉を行うということだから、 それをイメージして、以前の辛いことが関連づいて出てきたのかもね。 と先生は言った。 いくつか質問をされた後、先生はすごく優しい顔で、 今回のことは、ある部分仕方のないことだから、気を楽にしてね。 麻衣さんは悪くないよ。 と言ってくれた。 よかった。すごく安心した。 これも、きっと時間が解決してくれる。 だから自分を責めないでね、とも。 付き合うことをちゃんとお断りしたのも偉いと褒めてくれた。 先生ありがとう。 12月4日 昨日先生に言われたこと。 人と付き合うことは、ゆくゆくは性交渉を行うということ。 という部分が気にかかった。 弟と付き合うことになったら、いずれは…… 何か変な気分になっちゃった。 どうしよう。 ドキドキする。 だめだめだめ。落ち着いて。 でも触って欲しいし、抱きしめて欲しいし、抱きしめてあげたい。 うー、どうしよう。 ここまで書いてて気づいたけど、 弟のことを考えている時は、この前みたいな症状は出ない。 よかった。 これは本当によかった。 12月5日 昨日から私、ちょっと変かも。 弟のことを見ては、いやらしいことばかり考えてしまう。 もうすぐテストなのに。 しっかりしないと。 12月8日 期末テスト。相変わらず教科が多い。 教科が多いし私は変なこと考えてばっかりだし、 今回はやばいかも……。 12月15日 テストの順位が下がっちゃった。 ああもう、私のばか! 集中して勉強しないからこうなるんだ。 弟のこと考えてもいいけど、勉強中は集中するようにしよう。 XX15年 2月14日 バレンタイン。 弟とお父さんにチョコをあげた。 チョコレートと一緒に私もあげたかった。 もちろんそんなことは出来ない。 2月15日 私、えっちなのかも。 弟とそういうことするのを妄想しちゃった。 正直に書くと今日が初めてじゃない。今までも……。 ダメって分かっていても、止められない。 はあ。 3月2日 期末テスト。いい出来。 今回の私は一味違うところを見せようと思う。 勉強中は本当に集中してたからね。 その分、勉強していない時の妄想は加速したけど……。 3月5日 期末テストが終わり、生物部で先輩のお別れ会をやった。 みんなでお菓子を食べて、ジュースを飲んで、おしゃべりした。 先輩たちとお別れは寂しいなあ。 3月10日 よかった~~~~。 期末テスト、順位が上がっていた! 嬉しい。 みおちゃんは学年一位だった。すごすぎる! 4月8日 今日から二年生。 みおちゃんとは別のクラスになった。 平田くんも別。 4月20日 生物部に後輩がやってきた! 女の子2人と、男の子1人。 みんないい子そうでよかった。 4月23日 生物部の後輩ちゃんたちに ご飯の出し方を教えた。 リクガメは今日も無愛想だったけど、 後輩ちゃんがご飯を出した瞬間だけは すごく元気になってた。 キミはブレないね。 5月10日 映画を見に行った。 ジャズドラムの師匠と弟子の話で、評判がよかったので期待してたんだけど、 私にはいまいち分からない映画だった。 師匠が弟子に意地悪してるだけの映画に見えちゃったなあ。 何だか微妙な気分で帰宅したけど、 夜ご飯のアジフライが美味しかったのでいい一日だった。 お母さんの料理は偉大だ。 5月13日 カウンセリング。 弟のことばかり話した。 先生と話すのは楽しい。 5月16日 後ろからぎゅーって抱き着いて、 そのままくっついていたい。 中学校に頑張って行ってるから、 いいこいいこしてあげたい。 そんな妄想をしてた。 7月2日 期末テスト。 まあまあの出来だと思う。 テスト終わりに生物部の部室に行って 後輩ちゃんと談笑する。 「結城先輩」って言われるのは、何だかてれくさい。 8月22日 今日は後輩ちゃんのおうちに遊びに行った。 二人で麦茶を飲んで、お菓子を食べて たくさんおしゃべりした。 「結城先輩は彼氏とかいるんですか?」って聞かれた。 いないと答えた後、後輩ちゃんの恋愛トークが始まった。 同じクラスの男の子が好きらしい。 私は義理の弟が好きなんだ、なんてことは言わなかった。 8月23日 私はいつから弟のことを好きなんだろう。 と考えてみた。 一番最初に会ったとき、 この子は怖くない、かわいい。 って思ったから、一目ぼれだったんだろうなあ。 弟のことを考えると胸が熱くなる。 でも、嫌な熱さじゃない。 9月20日 今日は17歳の誕生日。 弟が用意してくれた「今日の主役」って書かれたたすきをかけて、 ケーキを食べた。 何だかパリピみたい。 弟はこれを用意するとき、私のことを考えていたのかなって思うと きゅんとした。 学校でこんな格好すると、ネタにされるのは間違いないだろうけど、 家の中では大丈夫なはず。 楽しかったあ。 「今日の主役」のたすきは、宝物ボックスにいれておこう。 10月19日 何か、すごい嫌な予感がする。 何だろ。 何もないといいな。 10月20日 ずっとざわざわしてる。 10月21日 死 10月22日 今私は、学校を休んでこの日記を書いている。 昨日、学校から帰ろうとすると、 校門を出たところに母がいた。 今のお母さんではなく、前の母だ。 信じられなかった。 どうしてこの人がここにいるのか。 偶然なわけがない。 その人は私に、久しぶりだね。と話しかけてきた。 気持ち悪い笑顔だった。 言葉を返すべきではないと思ったし、 でも無視することも出来ず、私はそこに立ち尽くしてしまった。 恐怖、嫌悪、そして、決して感じたくはない懐かしさを感じた。 少し話をしたいと言われ、 私とその人は学校から少し歩いたところにある喫茶店に入った。 席に着いた後も私はずっと無言だったが、一緒にいる女は もう高校生なんだね、とか、制服似合ってるねとか、そんなことを言っていた。 何を飲むかと聞かれたが、私は答えなかった。 彼女はアイスティーを二つ頼んで、 そのうち一つをミルクとガムシロップを添えて私によこした。 「麻衣は甘いのが好きだったもんね」 と言っていた。 「麻衣、ごめんね」 「お母さん、もうあの人と別れたから。もうお母さんだけだから」 「もう大丈夫だよ」 「ひどいことをたくさんしたよね。本当にごめんね」 私の向かいに座っている女はそんなことを言ってきた。泣いていた。 恐怖や懐かしさなどは消え、私は嫌悪感と怒りでいっぱいになった。 この女は何を言っているんだろう。 ひどいことをした自覚があるのなら、 もう私の前に現れないで欲しいのに、何で出てきたんだろう。 怒りのせいでまともな精神状態ではなかったが、まだ理性はあったように思う。 「お母さん、麻衣のこと大切にするから。  だからもう一度、お母さんと一緒に暮らそう?」 と言われるまでは。 私は、ふざけるな。と声をあげた。 その後、自分でも信じられないようなひどい言葉を 彼女にひたすらぶつけていた。 お店にいたお客さんも、店員さんも引いていた。 でも、そんなものは関係なかった。 もう全部壊してしまいたかった。 目の前にいる女も、テーブルに置かれたアイスティーも、 大声をあげたことに驚いた人たちも、店員さんも、お店も。 店員さんが止めにきて、私だけお店を出た。 どうやって家に帰ったか覚えていない。 いつの間にか家に帰った私は、部屋で一人で泣いていた。 夜ご飯の時間になっても、部屋から出られなかった。 わけがわからなくなっていた。 夜中まで泣いて、たくさん泣いて、 泣き止んだ後弟の部屋に行った。 何の迷いもなかった。本能みたいだった。 弟に今日あったことも、自分の気持ちも、全部話した。 言葉が止まらなくなったし気持ちも止まらなかった。 私はキミのことが好きで好きで仕方がなくてでも家族だから好きになっちゃダメで どうすればいいのかわからなくて諦めた方がいいとは思うけど毎日会うたびに 好きになっていくしキミがいるから辛くても頑張れるし本当に好きで好きで 心が止まらないし涙も止まらないし好きになってごめんなさいでも 今は本当につらくて悲しくて耐えられないのでどうか今だけは抱きしめてください みたいなことを話してしまった。 感情のままに全てを伝えてしまった。 弟は、とても驚いていた。それはそうだろう。 義理の姉に好かれている状況にも驚いただろうし、 こんな情けない姿にも驚いた、というか、ガッカリしたかもしれない。 でも、抱きしめてくれた。 その後、私たちはセックスをした。 私の前に現れた女のことも、過去に私に乱暴しようとした男のことも、 彼の優しさで消してしまいたかった。 ひと時でも、彼の気まぐれであっても、 私はそれに溺れて全てを忘れたかった。 はじめてのセックスは、とても痛かったけれど幸せだった。 終わった後、ベッドの中でどれぐらい話していたんだろう。 髪を撫でたり、抱きしめたりしながら、いろんな話をした。 暖かくて、静かで、優しい時間。 その間、私は幸せだった。 ずっと話していたかったけど、お父さんとお母さんにばれるといけないから、 夜明け前に私は服を着て、部屋に戻った。 今日だけで日記帳、何ページ使うんだろう。 今まで、こんなに感情が大きく動いた日はなかったし、 今後もないと思う。 10月23日 学校。帰りにあの女がまた待っていると嫌なので、 みおちゃんに途中まで一緒に帰ってもらった。 みおちゃんと一緒に帰るのは久しぶりだったけど、 前と変わらない感じで接してくれた。 みおちゃんありがとう。 あの女が私の学校を特定しているというのは、恐怖だ。 ただただ、恐ろしい。 あの女は私の心を壊す。 弟とはあまり会話をしなかった。 気まずいのかな。 お姉ちゃんもちょっと気まずいよ。 でも、あの日以来お姉ちゃんは、キミのことをもっと好きになってしまったよ。 10月24日 私と弟が学校休みで、 お父さんとお母さんは出かけていなかったので、弟と話をした。 あの夜、私たちはセックスをしたけど、その後のことを全く話していなかったからだ。 私は、家族だけど男女として付き合って欲しいと伝えた。 めちゃくちゃ緊張した。 この前は感情がぐちゃぐちゃで、我を忘れていたような感じだったけど、 今日は多少冷静だったから、とても緊張した。 彼が返事を言うまでの時間が、ものすごく長く感じた。 実際、どれぐらい待ったんだろう。 彼は私の告白を受け入れてくれ、付き合うことになった。 嬉しい!嬉しい嬉しい嬉しい!うれしい! こんな嬉しいことないと思う。 またセックスをした。 今日はそんなに痛くなかった。 彼が私の身体をたくさん撫でて舐めてくれたから、 私も同じことをした。 男の人の身体って、女よりも筋肉質なんだなあ、とか思った。 終わった後、またベッドの中で話をした。 この時間、本当に幸せを感じる。 付き合っていることは、私たちだけの秘密にしようってことになった。 10月26日 文化祭の準備をする。 帰りは生物部の後輩ちゃんと一緒だった。 今日もあの女はいなかった。 少しは安心していいのかな。 10月28日 カウンセリング。 昔の親に待ち伏せされたことを話した。 先生は本当にきつかったね、と慰めてくれた後、 ふざけるな、と声を上げたことを褒めてくれた。 麻衣さんの意志をその人に伝えられたね。と。 恐らくもう来ることはないし、もし次に会うことがあったら 警察を呼んでもいいと思うと言われた。 何だか気持ちが楽になった。 先生ありがとう。 弟としたことは話さなかった。 11月1日 文化祭。弟が来てくれたので、二人でいろんなところを見て回った。 何だかデートみたいだった。 セックスするときは身体を触りまくってるのに、こういうところでは 手を繋ぐのすらすごく難しいのは何でろう。 でも幸せ。一緒にいるだけですごく幸せ。 吹奏楽部の演奏を見に行った。 11月3日 大好きだよ。って言えても、愛してるよ。って言えないの何でだろ。 11月5日 多分この感じだと、あの女はもう現れないと思う。 大丈夫、大丈夫。 12月2日 私と弟は彼女と彼氏、だけど、姉と妹。 家族だから、将来は結ばれない可能性が高い。 普通の男女だったら結ばれてるのかな。 そういうことを考えて泣いてた。 悲しい。 12月3日 先のことを怖がらずに、 今の幸せをかみしめよう。 XX16年 2月14日 バレンタイン。 お母さんと一緒にチョコを作ってみた。 お父さんと弟にあげたら、すごく喜んでくれた。 弟のは本命だから、チョコをいれた袋の中に 「大好き」って手紙をいれてみた。 2月15日 昨日は日曜日だったので、学校の女子的には 今日がバレンタインなのかも。 休み時間にみおちゃんのクラスまで行って みおちゃんにチョコを渡したら、みおちゃんもチョコをくれた! 放課後に食べたよ。 美味しかった。 3月3日 生物部の先輩を送る会。 今の三年生の先輩たちは本当に穏やかな人たちばかりで 癒されていたので寂しい。 そして、生物部の二年生は私だけなので、 四月から三年生は私だけの生物部が出来上がってしまう。 はあ~~、ちょっとため息。 後輩ちゃんに仲良くしてもらおう。 3月19日 弟はもうすぐ高校生。 同じ高校じゃないの、ちょっと残念だなあ。 って、だめだめ。求めすぎちゃだめ。 4月6日 今日から三年生。 高校生活最後の一年が始まった。 今年は勉強を本気で頑張ろうと思う。 大学には特待生制度というものが存在し、 特待生になれば、大学の学費が免除されるらしい。 私は大学へ進学したいけど、実の娘ではない私を愛して、 ここまで育ててくれたお父さんとお母さんに、 金銭的な負担をこれ以上かけたくない。 だから、勉強を頑張って特待生として進学したい。 お母さんもお父さんも、そんなに気を遣わなくていいんだよ。 と言ってくれた。 でも、私は頑張ってみたい。 みおちゃんと平田くんとまた同じクラスになった。 4月7日 みおちゃんが学級委員になった。 みおちゃん、テストで学年一位取りまくってるうえに 学級委員もやるとか、別次元の女の子のように感じる。 疲れたりしないのかな。 5月19日 中間テスト。今回は会心の出来かも。 5月23日 やった! 中間テストの成績が学年一位だった! 1位 結城麻衣 って張り出されているのをみて、嬉しくて飛び跳ねそうになっちゃった。 もちろん我慢した。 みおちゃんは10位だった。 テストの結果を見てみおちゃんは 「勉強以外のことにはまりすぎたかも」って言ってた。 みおちゃん、委員長のお仕事大変なのかなあ。 6月21日 今日はホイコーローを作った。 我ながら抜群の出来で、それを家族に食べてもらえるのが嬉しかった。 味付けが本当に上手くいったよ。 弟はご飯をおかわりした。 あれだけ食べるから、えっちのとき あんなに激しく出来るのかなとか思った。 ああだめだめ。 こういう妄想ばっかりしちゃうときあって、本当にだめだと思う。 7月6日 期末テスト終わり。今回もよく頑張った! 学校帰りにみおちゃんと平田くんと公園に行って、コンビニで買ったアイスを食べた。 みおちゃんとはずっと仲良しだし、平田くんとはいろいろあったけど 何だかんだいいお友だちな気がする。 平田くんが引きずるタイプだったりしたらこんな仲にはなっていないだろう。 みおちゃんは最近忙しいみたいで、 一緒に帰ったり、遊んだりすることは減ったけど、それでもいいお友だち。 7月9日 お母さんと一緒にグラタンを作った。 進路次第だけど、もし来年から一人暮らしになったら こうしてお母さんとご飯を作ることもなくなるのかなあ。 何だか寂しくなった。 7月11日 期末テスト、今回も一位だった。 やったーーーー! 中間テストも期末テストも学年一位だった! お父さんもお母さんも、弟も、みんな褒めてくれた。 嬉しい。 学校から進路希望表が配られた。 7月13日 進路希望表を提出した。 私の将来の夢は臨床心理士だ。 正直なところ、ぼやっとしている。 私はカウンセリングの先生にたくさん助けてもらったから 私もそうなりたい。 ただ、正直なところ、 何が何でもそうなりたいというわけではなく、 何となく、なれたらいいな。みたいな感じだ。 だからこそ、私は大学には特待生として入学したい。 夢がハッキリしていない状態の私の進学に お金を出してもらうのが申し訳なさすぎるからだ。 7月15日 進路希望表を出してから、 自分の将来とか、幸せについて考える時間が増えた。 私はカウンセリングの先生みたいに人を救えるような人間になりたいし、 弟と過ごす時間を大切にしたい。 あるいは、今のように友だちと過ごして、家に帰れば優しい家族がいて、 美味しいごはんが食べられるとか、そういう普通の幸せを満喫したいという思いもある。 生きるってどういうことなんだろう。 7月19日 生物部の後輩ちゃんたちと、進路希望表のことや、 将来の夢について話した。 めっちゃはっきりした夢をもっている子もいれば、 全然考えていないという子もいた。 リクガメにご飯をあげて、キミの幸せは何?って聞いてみたら、 知らん。みたいな顔をされた。 7月20日 今日もみおちゃんと平田くんと公園に行ってアイスを食べた。 ここでも進路の話をした。 平田くんは進学はせずに、 バイトしながらプロのミュージシャンを目指すらしい。 すごいなあ。ハッキリしてるんだなあ。 みおちゃんは実家から出ない範囲での進学を考えてるみたいだ。 7月22日 夏休み。 平日はお父さんもお母さんも仕事でいないので、 家には私と弟の二人だけになる。 たくさんえっちした。 7月26日 お父さんとお母さんが仕事に出かけた後、 弟と2人でお風呂の掃除をして、その後二人でお風呂に入った。 身体の洗いっことかして、すごくたのしかったし、えっちだった。 少しのぼせたみたいで、 お風呂上りに麦茶を飲んで、裸のままベッドで横になって休憩してた。 扇風機の風と、夏の日差しと、弟と一緒という感覚が心地よくて すごく幸せだと思った。 愛してるよって言えた。 8月5日 カウンセリング。 先生はどうしてカウンセラーになろうと思ったのかとか、 私も先生みたいになりたいけどどうすればいいかとか、 質問責めみたいになってしまった。 先生は、それらの質問を嬉しいと言ってくれた。 そのうえで、今後どうしていけばいいかなどを、 優しく教えてくれた。 「麻衣さんが人の心のケアをする仕事に就くって考えただけで、  私は幸せな気持ちになる。  素敵な話を聞かせてくれてありがとう」 とも言われた。 先生ありがとう。 9月19日 弟と映画に行った。 2時間を超える大作だったけど、全然だれないで集中して見ることが出来た。 耳が聞こえない女の子と、その子をいじめていた男の子が主人公の作品で、 私はこの作品を、人間が壊れることと、そこからの再生を描いた物語だと感じた。 恋愛ものと言えるかもしれないけど、それだけでは片付けられない すごく難解で、面白い作品だと思った。 映像もめちゃくちゃきれいだったなあ。 これから受験に集中するため、しばらくこういう娯楽は封印するつもりだけど、 最後にこういう作品を見ることが出来てよかった。 9月20日 誕生日。18歳になった。 今日から受験までいろいろ封印。 11月6日 今日だけは特別、ということで 弟と文化祭を見てまわった。 軽音楽部のライブで平田くんの人気が爆発してた。 彼がライブの最後に 「プロ目指します!今までありがとう!」みたいなことを言ったら、 後輩や、同級生の女の子は悲鳴のような歓声をあげていた。 すごいなあ。 弟から、 「お姉ちゃんは平田くんのことかっこいいと思う?」みたいなことを聞かれた。 あれ?妬いてくれてるのかな???? やだやだやだかわいいいいいいいいい!!!!! 学校の中だけどぎゅう~~って抱きしめて ううんお姉ちゃんが好きなのはキミだけだよ大好き大好き大好きって 言いたかったけど我慢した。 はぁ、久しぶりに弟とデートするとキュン死ポイントが多すぎるよ。 明日からまた受験モードだけど、今日はいい一日を過ごせた。 XX17年 2月27日 大学受験が終了し、私は特待生としての入学が決まった。 よかったーーーーーーーー。 そして、春から一人暮らしになることも決まった。 嬉しいけど、家族と離れ離れになるのは寂しいなあ。 弟とも。 2月28日 お父さんとお母さんが寝た後、 弟といっぱいえっちした。 しばらくしていなかったから、すごく興奮した。 していなかった間、別の子を好きになったりとか、 私のこと嫌いにならなかったかとか聞いちゃった。 そんなことないと言ってくれて嬉しかった。 重い女だと思われたかなあ。ごめんね。 3月3日 生物部の卒業生を送る会。 ついに私が送られる番になってしまった。 生物部、のんびりしてて、いい部活だったなあ。 後輩ちゃんたちや、いろんな生物と写真を撮った。 リクガメにさようなら、って言ったら はいはいお疲れ、みたいな顔をされた。 ご飯食べるとき以外は基本クールなスタンス、 3年間変わらなかったなあ。 後輩ちゃんたち、生物部を頼んだよ! 3月4日 お母さんと一緒に、春から私が暮らす部屋を見に行った。 不動産屋さんに紹介された部屋をいくつか見て、 一番セキュリティが頑丈そうなところに決めた。 「ここだと少しだけ高くなってしまいますが」と不動産屋さんが言って 「娘が安心して生活出来るのであれば、全然高いとは思いませんよ」 とお母さんが答えたのは、すごく嬉しかった。 お母さん大好き。 特待生で学費免除になったぶん、家賃と生活費は仕送りすると言ってくれた。 何でここまでしてくれるんだろう。 お母さんもお父さんも、きつくないのかな。 帰りに駅の近くのちょっと高級そうなレストランでご飯を食べた。 そこでお母さんは、私を娘として迎えた理由や、今がすごく幸せだという話をしてくれた。 これはお父さんとお母さん、そして私にしか知らないことで、三人の秘密ということになった。 この日記は誰かに見られる可能性があるので、詳細は書かない。 ただ、私はその話を聞いて、たくさん泣いた。 お父さん、お母さん、ありがとう。 3月6日 卒業式。 中学校よりも濃くて楽しい三年間だったなあ。 いろいろあったけど、最終的に楽しいと言って終われるのはすごく良いことだと思う。 みおちゃんが泣いていてびっくりした! 平田くんは卒業式の後、男女問わずいろんな人に囲まれていた。 人気者だなあ。 「結城先輩、卒業しないで」とだだをこねる生物部の後輩ちゃんをハグしてみた。 そしたら後輩ちゃんが泣いていた。 私、後輩ちゃんに慕われていたんだ。って思うと、すごく嬉しくなった。 校門でみおちゃんと平田くんと待ち合わせして、 いつもの公園に行ってジュースを飲んでいろんな話をした。 こうして私の高校生活は終わった。 3月12日 月末にはこの家を出て、一人暮らしを始める。 正直、弟と離れるのがかなりきつい。 だから、今二人でいられる時間はなるべく二人でいるようにしている。 今日は二人で買い物に行った。 些細な事がすごく幸せに感じる。 3月13日 弟が家を出る時が来たら、二人で暮らしたいね。とか話した。 夢物語のようだけど、今の私の心の支えにはなっている。 3月25日 私は今、住み慣れた家とは別の私の部屋で日記を書いている。 今日から一人暮らし。 私だけの部屋はまだ生活感がなくて、何だか寂しい。 お父さんもお母さんも、何かあったら、何もなくても いつでも戻って来ていいからねと言ってくれた。 去年の夏休み。 弟とお風呂でえっちして、その後裸のままベッドで休憩したことを思い出す。 扇風機の音と、セミの鳴き声、夏の日差し。 何てことはない、交際をしている男女の日常の一部。 その時間が、私はたまらなく幸せだった。 弟が家を出る時が来たら、一緒に暮らしたいねと話した。 彼はうんと言った。 私はそれを信じて待とうと思う。 また、弟と同じ屋根の下で暮らせることを。 幸せに満ちた日々を送れることを。 待っている間、心理学の勉強を一生懸命してみようと思う。 臨床心理士になるという夢はぼんやりとしているけれど、 私の中には存在しているし、 心理学を学ぶことによって私は、 私の心をもっと知ることが出来るかもしれない。 まとまらない日記だなあ。 弟におやすみって連絡したら、おやすみって帰ってきた。 安心する。 この日記にも書いてみようかな。 おやすみなさい。 寂しいかもしれないけど、頑張ろうね、私。 いつかまた、弟と一緒に暮らせる日を信じて。