01_「依頼ね! 任せて下さい!!」 「失礼するわ」 「ふふふっ、先生? こんばんわ。こんな時間に私を呼び出して……やっと私の力が必要になったのね」 「闇夜に紛れてどんなアウトローなことをしちゃうのかしら? 先生のお望みとあらば……アウトローらしく、人気の屋台だって襲ってみせるわ!」 「ふっ……ふふふっ……わかる……わかるわ! こんな時間だもの、屋台の1つや2つ襲ってラーメンを食べたくなっちゃったのよね。分かる……分かるわー……」 「どのラーメン屋さんを襲っちゃう? 夜だしあっさり醤油? それともさっぱり塩? ま、まさか……夜食に濃厚な味噌!? き、禁断のとんこつですってー!?」 「せ、先生、やっぱり……私が見込んだだけのことがあるわね。こんなにアウトローなことをしちゃうなんて……って、違う?」 「そ、それじゃあ……ど、どんなアウトローなことをしちゃうのかしら!? ま、まさか……深夜で警備も手薄になった銀行を襲っちゃう!? 流石先生!! 血も涙もない……って、こ、これも違うですって!?」 「さ、さては……深夜のコンビニのレジで大量の揚げ物を注文して店員さんを困らせるとか……アウトローにも程があることを……でもない!?」 「……」 「……となると……ど、どんなアウトローなことをするために私を呼んだのかしら?」 「先生のためならどんなアウトローなことでも……って、あ、アウトローなことじゃない?」 「えっ、でももしかしたらアウトローなことかもしれないですって!? ど、どっちなのかしら!?」 「な、なになに? ちょっと近くに寄れ、ですって? や、やっぱり……他の生徒には聴かれたらマズいことなのね!! 分かってるわ、先生!!」 「……ご、ごくり……い、一体どんなアウトローなことなのかしら……」 「ふむ……ふむふむ……なるほ……なる……な、なんですってー!?」 「……つ、ついつい大きな声が出ちゃったじゃないの……せ、先生……」 「な、成程……先生は私と寝たいの、ね? 驚いたけれど……先生となら……その……そこまで言うのなら、一緒に寝てあげるわ!」 「……一緒に寝たいわけじゃない? あ、あら……それじゃあ先生の言う「寝かしつけ」っていうのは……」 「……ほ、本当に先生を寝かしつけるってこと……? そ、そうなのかしら?」 「……」 「ふ、ふふふっ! も、もちろん、私にはちゃーんと分かっていたわ! そうよ! 先生は寝かしつけをされたい、間違いないわ!」 「先生、お疲れですもんね。ゆっくり寝られるように寝かしつけの1つもしてほしくなっちゃうの、少しは分かるかも」 「えっ、わ、私に寝かしつけられたらとてもよく寝られそうだから、ですって?」 「ふ、ふふふっ! せ、先生、やっぱり見る目があるじゃない! 私に任せれば先生もあっという間に夢の中よ!」 「それじゃあ……先生? この私が寝かしつけをしてあげる!」 「……って、先生? 寝かし付けをするってことは……も、もももももちろん、べ、べべべべベッドルームへ行くってことよね!? そうよね!?」 「……べ、ベッドルーム……せ、先生のベッドルームで……ふたりきりで……」 「さ、さあ! そ、それじゃあベッドルームへ行きましょうか、先生! ま、任せなさい! 寝かし付けなんて私に掛かればあっという間に――」 //当セリフ途中から正面→右へ移動 「……へっ? こ、こっちは玄関のほう、ですって!? し、知ってるわよ、それくらい! ついうっかり、わざとよ!」 「こっち! こっちよね、ベッドルームは! さあ、先生、たっぷり寝かし付けを―−」 「……こ、こっちはお手洗い!? し、知ってるわ! 先生が安眠できるように私がうっかりわざと間違えて空気を和ませてリラックスできるように――」 02_「数えちゃうわ!!」(ラーメン数え) 「……ふぅ。それじゃあ先生? 寝かし付け、始めるわ」 「ふふっ、油断しているとあっという間に朝まで夢の中で過ごすことになるから覚悟して頂戴♪」 「さて……寝かし付けといえば……まずはこれからかしら」 「ふふっ、気付いた時には朝でしたみたいに、これが最初で最後の寝かし付けになっちゃうかもしれないけれど♪」 「先生? それじゃあ……灯りをけして……目と閉じて」 「えっ、目を閉じたら灯りを消して目を閉じたら私の顔が見えない、ですって!? な、なななにを言うのよ、全く!」 「ほ、ほら、冗談はさておき、目を閉じないと眠れないわよ、先生。もしかしたら先生なら……目を開けたまま眠れるのかもしれないけど……」 「……けど、想像したら怖いわね。目を開けたまま寝るのって……」 「ほら、目、閉じなさい、先生。次に目を開けたときには朝になってるかもしれないけど♪」 「さあ、先生? 寝かし付けを始めるわ」 「……とその前に、私もたまに眠れないときに流しておくんだけど……このBGMを……」 「そうそう、大音量でデスメタルを流しながら安眠……って違うわよ! そんなの流したら眠れないじゃないの! 一部眠れそうな子もいるけど!」 「えーっと……これこれ。音は小さめにしておくから、うるさくはないと思うけど……」 「何となく落ち着くのよね、この音。聴いてると私まで眠く……」 「……なったらいけないわね!! 少なくとも先生を寝かし付けるまでは!」 「さて、今度こそ先生を寝かし付けるわよ? 準備は良いわね?」 「それじゃあまずは……ふふっ、やっぱり寝かし付けといえば羊を数えるやつよね!」 「ふふんっ♪ 先生は知らないでしょうけど、どこかの国の言葉で「羊」と「睡眠」の単語が似てるから、っていうのが由来らしいわ」 「……し、知ってた、ですって……? そ、そうよね。先生だもの、これくらい知ってなきゃおかしいわよね」 「……さて、それじゃあ気を取り直して、羊を数えてて先生を夢の中へー……」 「……」 「……先生? 折角私の寝かし付けなのに羊を数えるっていうのも味気ないと思うの」 「……」 「……羊……ひつじ……棺!! アウトローらしく棺を数えれば……」 「そ、それじゃあ永眠してしまいそう、ですって? た、たしかにそうね……」 「となると……何か……何かこう、先生と私が好きそうなものとか……」 「……お宝、とかどうかしら? お宝、私も先生も好きそうだけど……」 「……さ、さすがにまばゆさで目が覚めちゃうわね、きっと。私も少しテンションが上がっちゃいそうだし……」 「そうすると……他には……うーん……他に好きなもの……好きなもの……」 「羊……ひつじ……羊の鳴き声はめー……めー……めー……めーん!! ラーメン!!」 「決まったわ、先生! ラーメンを数えてあげる♪ 私も好きだし先生も好きだし、食べたら何だか眠くなるしぴったりだと思うわ」 「さっきちょっとだけ屋台を襲撃する話もしたし、これも何かの縁よね、うんうん」 「ふふっ、寝る前にラーメンのことを考えるだけでもアウトローなのに……数えながら寝ちゃうなんて……アウトローも真っ青なくらいにアウトローね、先生ってば」 「ほら、それじゃあ……目を閉じて頂戴、先生? 先生のことだから目を開けながらでも眠れるとか言いそうだけど……」 「……って、自分で言っておいてなんだけど……先生が目を開けながら寝ているのを想像したら面白いけど……だ、大分怖いわ……」 「ほ、ほら、だからというわけじゃないけど……先生? ちゃんと目を閉じて?」 「この私に寝かし付けをして貰えるんだから、目を閉じるのなんて当然よ♪」 「ほら、先生♪ 目、閉じて♪」 「ふふっ、そんなにすぐに目を閉じて。先生はそんなに私に寝かし付け、されたかったのね?」 「えっ、あ、当たり前ですって? そ、そそそ、そう思うのは当然だけど……そんな風に素直に言われると……ちょっとこう……て、照れるかも……」 「さ、さあ先生! 早速先生を安眠地獄に誘ってあげるわ!! 覚悟なさい♪」 「……ほーら、せ・ん・せ?」 「ラーメンが1杯」 「ラーメンが2杯」 「ラーメンが3杯」 「ラーメンが4杯」 「ラーメンが5杯」 「ラーメンが6杯」 「ふふっ、テーブルがみるみるうちにラーメンで埋まっていくわよ、先生♪」 「ラーメンが7杯」 「ラーメンが8杯」 「ラーメンが9杯」 「ラーメンが10杯」 「ラーメンが11杯」 「こんなにラーメンがあったら……テンションが上がっちゃうわね、先生♪」 「ラーメンが12杯」 「ラーメンが13杯」 「ラーメンが14杯」 「ラーメンが15杯」 「ラーメンが16杯」 「ラーメンが17杯」 「ラーメンが18杯」 「ラーメンが19杯」 「ラーメンが20杯」 「ほら、20杯もラーメンがきちゃった♪ 心はもうラーメン屋さんね♪」 「ラーメンが21杯」 「ラーメンが22杯」 「ラーメンが23杯」 「ラーメンが24杯」 「ラーメンが25杯」 「ラーメンが26杯」 「ラーメンが27杯」 「先生? 目の前に並んでるラーメンは何味かしら? しょうゆ? 味噌? 塩?」 「そ・れ・と・も……と・ん・こ・つ?」 「ラーメンが28杯」 「ラーメンが29杯」 「ラーメンが30杯」 「ラーメンが31杯」 「ラーメンが32杯」 「ラーメンが33杯」 「ラーメンが34杯」 「ラーメンが35杯」 「オーソドックスな味も好きだけど……こってり濃厚な鶏白湯、出汁の美味しさが波のように押し寄せる貝出汁、野菜も美味しいちゃんぽん麺も捨てがたいわ♪」 「それとも……蕎麦屋さんのちゅ・う・か・そ・ば?」 「ラーメンが36杯」 「ラーメンが37杯」 「ラーメンが38杯」 「ラーメンが39杯」 「ラーメンが40杯」 「ラーメンが41杯」 「ラーメンが42杯」 「ラーメンが43杯」 「ラーメンが44杯」 「ラーメンが45杯」 「ふふっ、先生? 思う存分好きなラーメン、思い浮かべちゃって良いのよ? トッピングはどうするかしら?」 「やっぱり定番のチャーシュー? 煮卵? メンマ? 白髪ねぎも良いわよね? それとも……にんにく、入れちゃう?」 「ラーメンが46杯」 「ラーメンが47杯」 「ラーメンが48杯」 「ラーメンが49杯」 「ラーメンが50杯」 「ラーメンが51杯」 「ラーメンが52杯」 「ラーメンが53杯」 「ふふっ、先生ったら……♪ こんなにラーメンに囲まれて……そこはかとなくハードボイルドなんだから♪」 「こんなにたくさんラーメンを目の前に並べられる大人なんて、そうそういないわよ♪」 「さすが先生♪ アウトローね♪」 「ラーメンが54杯」 「ラーメンが55杯」 「ラーメンが56杯」 「ラーメンが57杯」 「ラーメンが58杯」 「ラーメンが59杯」 「ラーメンが60杯」 「ラーメンが61杯」 「ラーメンが62杯」 「ふふっ、先生? まずはレンゲでスープを味わっちゃう? ラーメンはスープが命っていうわよね」 「目を閉じて……レンゲに入ったスープの匂いを嗅いでから……スープを口の中にずずーっと……」 「ああ……口の中に広がるスープの味わい……たまらないわ」 「ラーメンが63杯」 「ラーメンが64杯」 「ラーメンが65杯」 「ラーメンが66杯」 「ラーメンが67杯」 「ラーメンが68杯」 「ラーメンが69杯」 「ラーメンが70杯」 「ラーメンが71杯」 「そ・れ・と・も……ハードボイルドな先生のことだから……スープには目もくれずに麺をすすっちゃう?」 「もっともっとアウトローに……最初にチャーシューにかぶりついちゃう? 煮卵をパクっと口いっぱいに頬張っちゃう?」 「先生のことだから……スープや麺に脇目もふらずにナルトを最初に食べちゃったり、とかかしら?」 「ラーメンが72杯」 「ラーメンが73杯」 「ラーメンが74杯」 「ラーメンが75杯」 「ラーメンが76杯」 「ラーメンが77杯」 「ラーメンが78杯」 「ラーメンが79杯」 「ラーメンが80杯」 「ふふっ、コショウをたっぷりかけたり、チャーシューから食べちゃったり……好きな順番で食べるのがアウトローってモノよね、先生」 「あっ、もちろん……ニンニクたっぷりの餃子に半チャーハン、つけるわよね♪」 「ラーメンが81杯」 「ラーメンが82杯」 「ラーメンが83杯」 「ラーメンが84杯」 「ラーメンが85杯」 「ラーメンが86杯」 「ラーメンが87杯」 「ラーメンの途中で餃子を挟んだり……チャーハンを口に運んだり……はたまた餃子とチャーハンを一緒に食べたり……」 「……先生? アウトローな先生は……レンゲにチャーハンを乗せて……ラーメンのお汁に浸してから……食べちゃう?」 「……ラーメンとチャーハンって……何であんなに相性が良いのかしら……」 「ラーメンが88杯」 「ラーメンが89杯」 「ラーメンが90杯」 「ラーメンが91杯」 「ラーメンが92杯」 「ラーメンが93杯」 「ラーメンが94杯」 「ラーメンが95杯」 「……チャーハンも良いけど、ライスをつけるのも良いわね、先生? 餃子ともラーメンのスープとも相性がバッチリだし……」 「それに……ラーメンのチャーシューを乗せちゃえば……ちょっとしたチャーシュー丼に……なっちゃうわね……アウトローだわ……これは……アウトローにも程があるわ……」 「ラーメンが96杯」 「ラーメンが97杯」 「ラーメンが98杯」 「ラーメンが99杯」 「ラーメンが100杯」 「ラーメンが101杯」 「ラーメンが102杯」 「ラーメンが103杯」 「……思い出したわ、先生。普通のラーメンの話ばかりだったけれど……私、思い出したのよ」 「……油そばやまぜそばに汁なし担々麺という選択肢もあったということ」 「こんな大事なラーメンを忘れているなんて……不覚よ……」 「ラーメンが104杯」 「ラーメンが105杯」 「ラーメンが106杯」 「ラーメンが107杯」 「ラーメンが108杯」 「ラーメンが109杯」 「ラーメンが110杯」 「ラーメンが111杯」 「トッピング多め、味濃いめにして麺を食べ終えた後の残ったお汁に白いご飯を入れて食べる……ああ、なんてハードボイルドでアウトローなのかしら……」 「って、普通のラーメンのお汁に白いご飯を入れておじやみたいにしても美味しいのよね……まさに罪の味ってやつね……」 「ラーメンが112杯」 「ラーメンが113杯」 「ラーメンが114杯」 「ラーメンが115杯」 「ラーメンが116杯」 「ラーメンが117杯」 「ラーメンが118杯」 「残ったお汁やご飯を思う存分に味わいながら、途中でお水をクイっと口に運ぶと……ああ、幸せだわ♪」 「先生も感じていると思うけど、ラーメン中のお水……すごくおいしいのよね。またスープを飲みたくなっちゃうし、そのあとまたお水を飲みたくなっちゃうし……」 「はっ!? も、もしかして……ラーメン屋さんのお水には何か中毒になっちゃうようなイケナイ薬か何かが!?」 「た、たまにレモンを浮かべているお店もあるし……怪しい、怪しすぎるわね、先生!」 「これはもう現地で確認しちゃうしかないんじゃないかしら! 私と先生、ふたりで確認するしかないわ!」 「さて、先生! それじゃあ早速ラーメンを食べに行かなきゃいけないわね! 安心して頂戴。ちゃーんとこの時間でも営業しているラーメン屋さんはチェック済みだから♪」 「ちょっとだけ距離があるけれど、歩いている間にお腹もちょうどよく空いてくるだろうし、先生と一緒に散歩するのも……」 03_「読み聞かせちゃうわよ!!」(読み聞かせ) 「……やっぱりこの時期は味噌ラーメンも捨て難いわよね!」 「……」 「……はっ! って、せ、先生!? わ、私、寝かし付けしていたんじゃなかった!? な、何かラーメンを食べに行く流れになってるんだけどっ!?」 「う、ううっ……先生も途中から寝かし付けから脱線してたの、気付いてたなら言ってくれたら良かったのに……」 「えっ? 私が楽しそうにラーメンの話をし始めるから止められなかった、ですって?」 「そ、そんなに楽しそうにラーメンの話、してたかしらぁ!? け、結構頑張って先生を寝かし付けようとしてたはずなんだけど……」 「……」 「……と、途中まで……だけど……」 「……」 「さて! 気を取り直して次の寝かし付けに移るわよ、先生!!」 「まだちょっとラーメンの余韻が残ってると思うから……近いうちに一緒に食べに行ってあげてもいいから♪」 「ふふっ、これで先生も安心して眠れちゃうわね。私も先生とのラーメンデートが決まって良い気持ちで寝かし付け、しちゃうわ」 「……デートじゃない……?」 「ま、まあ、デートかどうかはともかくとして……次の寝かし付けは……これよ」 「寝かし付けの定番といえばやっぱり本の読み聞かせ。私が先生に、この本を読んであげるわ」 「ふふっ、ハードボイルドでアウトローな私にぴったりな本といえば……やっぱりこれだと思うの」 「ふふっ、先生はこの本、知ってるかしら?」 「大自然より産まれ、人ならざる仲間を引き連れて巨悪を撃ち、財宝を根こそぎ奪ってしまう正義のアウトローの物語よ!」 「ふふーん♪ 先生はー、このお話、知ってるかしらー?」 「……えっ!? 多分だけど、その話は桃太郎じゃないか、ですって!?」 「……こ、こんなに少ないヒントからタイトルまで推察するなんて……流石先生ね……大人って凄いわ……」 「えっ? ちょうど桃太郎を読みたいと思っていたから助かった、ですって!?」 「ふふっ、そ、そうよ! も、もちろん! 先生がそろそろ桃太郎を読みたくなってるだろうというのも加味してのチョイスよ!」 「そんなに楽しみにしている先生をお待たせするのは悪いわね。早速桃太郎、読んであげるわ」 「それじゃあ早速……」 「……ふむ、ふむふむ……ちょっと場所は書かれていないけど、昔どこかにおじいさんとおばあさんが居たみたいね」 「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行ったそうなの」 「……山で芝刈りということは、おじいさんは森林伐採で作られたゴルフ場の整備の仕事でもしてるのかしら。おばあさんはおばあさんで川を汚すのを気にせずに洗濯をするなんて、とんだアウトロー夫婦ね」 「……ふむ、なるほど。そしたら川の上流から巨大な桃が流れて来たらしくて、おじいさんと食べようと持ち帰ったらしいの。おばあさん、アウトローなだけあって力が強いわね」 「そして家でおじいさんと一緒にさあ食べようと思ったら桃が割れて、中から可愛らしい女の子が出てきたらしいわ」 「……赤ちゃんって、桃からは出てこないわよね? キャベツ畑からコウノトリが運んでくるもののはずだけど……まあ、フィクションだから良いかしら」 「……「桃から生まれたから桃太郎」と名付けたらしいわ。マンゴーやメロン、パパイヤから生まれてたらと思うとぞっとするわね……」 「ふむ、ふむふむ……ふむ……そして桃太郎、すくすくと元気に育ったらしいわ。あっという間に大きくなるなんて……どこまで大きくなるのか心配になるけど……」 「そしてある日、桃太郎は鬼を退治しに行くと決心したらしいの。きっとどこかのヤバイ筋からのタレコミでもあったに違いないわ、これは」 「そしてなんやかんやあってついには、鬼が根城にしている鬼ヶ島へと向かい桃太郎は旅立つことになったみたいね」 「こう……悪の組織なんだからもうちょっと目立たないようにしたほうが、とは思うけれど……目立つのは目立つのでアウトローなのかしら……」 「おじいさんとおばあさんがなけなしのお金で揃えた服とおばあさんが丹精込めて作ったきびだんご……流石の私でもちょっとグッときちゃうじゃない……」 「さて……それから……ふむ、ふむふむ……なるほど……鬼ヶ島へ向かう道中、犬とキジとサルをきびだんごで買収した、と。流石桃太郎、アウトローだわ……モノで釣っちゃうなんて……」 「ふふっ、先生もご存じの通り、やっぱりチームは四人一組が一番なのよ。桃太郎もそれは分かっていたようね」 「それにしても……1つあげただけで危険を冒してまで鬼退治についてくるなんて……きびだんごってそんなに美味しいのかしら? 見かけたら今度食べてみたいわね」 「でも……そんなに癖になっちゃうよう食べ物……何か違法でアウトローなものでも入ってるのかもしれないわ……」 「えっ? 買って来てあげるからその代わり何か言うことを聴いて、ですって!?」 「……か、考えておくわ。せ、先生の言うことだったらきびだんごなんて要らずに聴くけど……」 「……それで、その後は……特に問題もなく鬼ヶ島に到着したそうね。桃太郎一味の恐ろしさに鬼たちも寄り付かなかったのかしら」 「さて、鬼ヶ島についてからはどんなことに……ふむ、ふむふむ……なるほどねー……」 「詳しくは書かれていないのだけれど……鬼はあっという間に退治されちゃったそうよ。そしてもう悪さをしないと降伏しちゃって集めた金銀財宝を桃太郎に渡したみたい。金ならいくらでもやる!ってやつかしら」 「……鬼というのは悪魔の一種みたいなものよね……? それが降伏して二度と悪さをしないと誓った上にお宝を全て渡しちゃうなんて……どんな凄惨な鬼退治が行われたのか……アウトローな私でもちょっと想像できないわ……」 「そして……家に帰った桃太郎はおじいさんとおばあさんと幸せに暮らしたそうよ」 「……奪ったお宝で悠々自適な生活……アウトローよ……とんでもないアウトローだわ……」 「桃太郎……これは経営にも生かすべ内容ね……。後からじっくりと社員にも読み聞かせなきゃ……」 「さて、先生? 私の読み聞かせはどうだったかしら? ふふっ、あまりにも上手過ぎて眠れていないみたいね?」 「……」 「えっ? 読み聞かせというのは文字通り読んで聞かせることであって、読んだ内容を聴かせることじゃない、ですって!?」 「……な、なんですってー!?」 04_「歌っちゃうわよ!!」(子守歌) 「……ま、まあでもアレよ。私の噛み砕いた説明のおかげで先生も桃太郎がどんなお話かよーくわかったわよね?」 「えっ!? 自分で読むより何倍も分かりやすかったし面白かった、ですって!?」 「さ、さすが先生! 分かってるじゃない!」 「……で、でも……寝かし付けなのに面白かったらダメよね。面白すぎて眠れなくなるし……私の読み聞かせが上手なのもいけないのだけど……難しいものだわ」 「となると……仕方ないわ。寝かし付けの鉄板といきましょうか。ふふっ、流石に次は先生、眠っちゃうわよ♪」 「えっ!? 私の子守歌、とても楽しみ、ですって?」 「……あ、あまり楽しみにしていると眠れなくなっちゃうわよ、先生!?」 「……さ、さて……それじゃあ……」 「あー、あーあーあー、あー」 05_「舐めちゃうわよ!!」(飴舐め) 「……んあっ」 「……い、いふのまひふぁ(いつの間にか)……気を失っていたわ……」 「……せ、先生は……はぁ、やっぱり寝付けないみたいね」 「えっ!? わ、私と一緒だと楽しくて眠気が薄れちゃう、ですって!?」 「と、当然よ!! アウトローでハードボイルドな私と一緒にいるんだもの、今夜は寝かせてなんてあげないわ! 今の一言で私の目もすっかり覚めちゃったし!?」 「……って、寝かしつけなのに今夜は寝かせなかったら良くないわね……。今夜はたっぷり寝かせてあげるわ!」 「と、思ったんだけど……ここまで先生が寝付かないとなると、なかなか難しい――」 「……」 「ん? 先生? 何かしら?」 「あら? 頑張っているからご褒美を……? そ、それは……ありがとう」 「じゃあこれは先生を寝かし付けた後に――」 「えっ? 今、ここで飴を舐めてほしい、ですって? それは別に構わないけど……」 「先生がそういうなら……今頂いちゃおうかしら。甘いものは喉にも良いものね♪」 「それじゃあ……いただき――」 「……えっ? そのまま舐めるんじゃなくて、もっと近くで……ですって……?」 「せ、先生は何を言っているのか分からないけど……先生がそう言うなら……」 「こ、これくらい近くで良いかしら? 先生、私の顔を近くで見たかったのね。ちょっと顔が近すぎて少し恥ずかしいけど♪」 「えっ? 近くは近くだけど正面じゃなくて……耳元に、ですって?」 「……な、何を言っているのかちょっと分からないけど……先生がそう言うなら……」 「でも……耳元で飴なんて舐められたら煩いんじゃないかしら?」 「えっ? うるさくないし全然眠れる、ですって? せ、先生がそう言うなら……」 「それじゃあ……頂くわ」 「ふふっ、美食研の誰かさんが言っていたけど……先生に貰う飴、世界で一番おいしいわね」 「えっ? こっち側だけじゃなく、逆側も、ですって?」 「た、確かに……何事もバランスは大事な気がするわ」 「……こうして飴を舐めているだけの寝かし付けを知っているなんて……流石先生ね」 「ふぅ、ご馳走様。棒付きの飴なんて久しぶりに食べたわ」 「さて、言う通りに耳元で飴を舐めたけど……先生、やっぱり寝てないわね……」 「っていうか……何かちょっと目が冴えちゃってないかしら……気のせいかしら……」 「うーん、困ったわね。他の寝かし付けと言ったら……何があるかしら……うーん……」 06_「……な、舐めちゃっていいのかしら」(耳舐め) 「えっ? 門外不出でハードボイルドでアウトローな寝かし付け方法がある、ですって!?」 「ちょっと言い方が嘘っぽいけど……本当にそんな寝かし付けがあるなら教えて欲しいわ」 「ふむ、ふむふむ……な、なんですってー!?」 「……と、驚いたけどそんなに驚かなかったわ。でも驚いたわ」 「……飴を舐めるだけじゃなく……耳を舐める、ですって? 先生、本当によく分からないことを知っているのね……」 「飴を舐める前も聞いたけど……本当にそれで寝かし付けになるのかしら。飴よりもよっぽど寝ることに集中出来なさそうだけど……」 「えっ? 逆にめちゃくちゃ集中するから大丈夫、ですって……?」 「先生がそういうなら……仕方ないわね。その耳を舐める寝かし付け、しちゃうわ」 「……ふふっ、それじゃあ……言われたとおりにしちゃうんだけど……」 「当たり前だけど、こういうことはしたことが無いから……あまり上手じゃないかもしれないけど……」 「えっ? 逆にそれはそれでご褒美、ですって? よくわからないけど……ご褒美なら良いわ! ……良いのかしら?」 「それじゃあ……早速……」 「…………」 「や、やっぱりちょっと緊張しちゃうわね。先生の髪の良い匂い、してくるし……」 「…………」 「……こ、今度こそ寝かし付けを始めるわ」 「ぺろぺろぺろり」 「……ほ、他の人の耳を舐めるなんて初めてだけど……ふ、不思議な感触ね……」 「ぺろぺろぺろり」 「ど、どうかしら? こんな感じで……問題無い?」 「そう。それなら続けるわ」 「ぺろぺろぺろり」 「ふふっ、分かってるわ。こっち側の耳も、でしょう? 先生♪」 「ぺろぺろぺろり」 「……こ、これであってるのかしら」 「ぺろぺろぺろり」 「な、何か先生……寝入るどころかちょっと変な声、漏らしちゃってるけど……本当にこれで良いのかしら……」 「ぺろぺろぺろり」 「えっ、あまりのリラックス効果に声が出ちゃっただけ、ですって? そ、それなら良いけど」 「ぺろぺろぺろり」 「それにしても……先生の耳、丸いタイプの耳なのね」 「あまり耳をじっくり見ることなんて無いから……新鮮かも」 「ぺろぺろぺろり」 「ふふっ、そんなに良さそうにしてくれて……それじゃあ少し長めにしてみちゃうわ」 「ど、どうかしら? こんな感じで続けても大丈夫……みたいね」 「初めてで勝手が良くわからないけど……何かちょっとクセになっちゃうかも……」 「こう……耳を攻めるなんてちょっとした拷問みたいでハードボイルドだと思うの」 「……せ、先生の髪の匂いまでこんなに近くで感じられるし……凄いわね……これは……」 「……先生がちょっと気持ち良さそうな声、出しちゃうのも……グッとくるわ……」 「こう……舐めているだけでこんな反応だったら……こうしたらどうなっちゃうのかしら……」 「はむはむ、はむはむはむっ」 「せ、先生? 私……初めてアウトロー映画を見たとき並みにゾクゾクしたわよ……?」 「はむはむ、はむはむはむっ」 「そしてこの噛み心地……グミキャンディーを食べるたびにアウトローな気持ちになっちゃいそうだわ……」 「はむはむ、はむはむはむっ」 「……こっち側のお耳は……噛み心地、どうかしら?」 「はむはむ、はむはむはむっ」 「……同じような、違うような。先生の反応は……ちょっと違う、気がしないでもないわ」 「はむはむ、はむはむはむっ」 「……ちょっと念入りに味わってみちゃうわね、先生」 「ふぅ」 「こう……耳のこりこり感、何かちょっとメンマみたいな感じがするわね、先生」 「ふふっ、こりこりメンマ、しっとりメンマ、どっちの食感にも似てるわ♪」 「……メンマより好きかも♪」 「ふぅ」 「もしかして……先生も噛んでみたくなっちゃったかしら? ふふっ」 「えっ……? 私の耳を噛ませてくれるのか、ですって……?」 「……せ、先生がどうしてもと言うなら……ちょ、ちょっとくらいなら……」 「先生がこんな風に気持ち良さそうにしてくれると……私も少しは興味が無いこともないわ」 「……ま、まあ、そのときは改めて依頼を頂戴、先生」 「……」 「ふふっ」 「私……初めて本物のアウトローを見かけたときみたいに……ゾクゾクしちゃってるかも」 「……」 『先生? こうしちゃったら……ど、どうかしらー?』 「……わ、悪くはなさそうね、先生。でも、確認は大事だからもう1回……」 「……や、やっぱり悪くはなさそうね。流石先生」 「反対側の耳は……どうかしら?」 「ふふっ、こっちの耳も気持ち良さそうね。具合が悪くないようで良かったわ」 『それじゃあ……ちょっと長めにするから……たっぷり味わいなさい♪ 先生♪』 「……ふぅ」 「長めだと集中出来て気持ち良い、ですって?」 「ふふっ、流石先生。正直に教えて貰えると私もやりやすいわ」 『じゃあ……長めにしちゃうわね』 「ふぅ。流石にちょっとアゴ? 舌?が疲れるわね……」 「べ、別に先生の耳を舐めるのが嫌で疲れてるわけじゃないわよ!?」 「アウトローとして……こう……舌も鍛えなきゃと痛感しているくらいだから!」 「だから……練習を兼ねて……こう、たまには……ね?」 「ふぅ」 「……そ、そろそろ仕上げといこうかしら」 「えっ? 疲れて来たなら無理しなくても大丈夫、ですって!?」 「だ、大丈夫よ! 便利屋の社長として依頼はちゃんとしちゃうわ!」 「で、でもしすぎちゃうと耳がふやけちゃうかもだし……」 「ふぅ」 「ちょっと頑張っちゃってみたけど……ふふっ、問題無さそうね。流石先生」 「もうちょっと続けて……」 「ふぅ」 「もちろん、こっちの耳も、ね♪」 「……ふふっ、もうちょっと、ね♪」 「ふぅ。何だかクセになっちゃうわね、これ……」 「ほーら、先生? 先生もクセになっちゃんじゃないのー?」 07_「くっ……覚えてなさい!」 「……依頼は……失敗みたいね……。不覚……とんでもない不覚だわ……」 「えっ? でも楽しかったから良い、ですって?」 「ま、まあ、私も楽しく依頼をこなせたのは間違いないけど……それでも……失敗は失敗だから」 「次は便利屋総出で先生を寝かし付け、しちゃおうかしら……物理的に寝かし付けしそうな子もいるけど……背に腹は代えられないものね、先生?」 「えっ? そしたら両耳同時に攻められてパラダイス、ですって!?」 「そうは言うけどね、先生? 4人よ? 4人。たまにいる耳が4つある生徒じゃないんだし、耳を攻めるにしても2人余っちゃうわ」 「……そのときはそのときでいろいろと寝かし付けて貰う、ですって……? 流石先生……大人はいろいろ知っているのね……」 「……」 「……と、それはそうと先生、結局寝かし付けられなかったわね……どうしようかしら……」 「……ん? 寝かし付けの仕上げに手を握っていて欲しい、ですって?」 「べ、別に……それぐらいなら全然構わないけど……ここまで丹精込めて寝かし付けをしたのに、手を繋いだくらいで寝かし付けられるなら苦労はしないわよ、先生?」 「……」 「……っていうか、アレね。手袋のまま繋いじゃってるけど……こ、こういうときはも、もしかして……ちょ、ちょちょちょ直接手を繋いだ方が良いのかしら!?」 「そ、そもそも先生? もう繋いじゃってるけど……手を繋ぐっていうのはどうなのかしら!? 私と先生、生徒と先生の関係で手を繋ぐって言うのは……」 「ち、違うわよ!? べ、別に嫌だとかそういうのはないわ! ただこう……大分こう……ハードボイルドでアウトローなんじゃないかなーと思ったり……するわけよ」 「も、もちろん!? ハードボイルドでアウトローなのは大歓迎よ!? 望むところでどんとこい! ね?」 「……つ、次の機会があったら手袋を取って手を繋いであげちゃうわ! ふふっ、社長たるもの、クライアントの隠れた要求にも気付いて応えるのも当然よね!」 「でもアレね……。また寝かし付けとなったら……他に何をしてあげたらいいのかしら。されて眠くなるようなこと……」 「文字ばかりの書類に目を通していると眠くはなるけれど……それは寝かし付けとは違うし……うーん……難しいわね」 「次の依頼までちゃーんと調べておくわ。折角だし便利屋の面々にも聞いてみようかしら。もしかしたら何か良いアイディアも出るかもしれないし」 「……そ、そういえば……ちょっと長めに寝かし付けをしていたら……時間的にお腹がすいてきたり……してないかしら?」 「こんな夜遅くに、眠れなくてついつい食べちゃうラーメン、それはもうアウトローな味わいがするに違いないわ」 「ふふっ、大丈夫よ? ちゃーんとこの時間でも営業してるラーメン屋さんは調査済みだし、安心して。先生♪」 「それじゃあ、ふたりで行く? それとも……折角だし、便利屋の面々も呼ぼうかしら? せ、先生がふたりきりが良いって言うならふたりきりにするけど……」 「うーん、一応依頼で出かけてるって言ってあるし、心配してるかもしれないから連絡だけでもしてみて、それから決めちゃっても……」 08_「寝てるわ」(寝息トラック)