相変わらずの目障りな快晴。教室は蒸していた。  残暑とは名ばかりで、依然として本格的な夏が続いている。  「過酷な暑さにより学習意欲が阻害されるから」というのが夏季休業の存在意義ならば、実情に応じて休みを延長すべきなのではないのか。柔軟性に欠けた愚かな教師共に呆れながら、今日も今日とて、教室の隅でお気に入りの小説を読み耽っていた。周囲の馬鹿げた会話を、聞き流しながら──。 「…………」  汗ばんだ指先で、ページをめくる。  その途中、ふと黒板の方へと目をやった。  ……いた。清楚可憐な美少女。姫宮小春さんだ。 「うんっ。最近は、弟に勉強を教えてあげるのが日課になってて──」  僕には見せてくれない『純粋な笑顔』で会話を楽しんでいる。  姫宮さんは、クラスでも上位の男女が集まるグループに所属している。勉強や部活動、校外のクラブ活動等で活躍する、いわゆる『陽キャ』の集団。あいつらは基本的に、僕のような人間を見下したがる傾向にある。しかし、姫宮さんだけは違う。誰にでも平等に優しく接してくれる。それ故に、勘違いしてしまう男子も多いと聞く。きっと、姫宮さんに親しげに話しかけているあのチャラそうな男も──その一人に違いない。何も知らない、哀れな奴め。 「いつか、りーくんにも教えに来てもらおうかなぁ。なんて……」  心に刺さった棘が、ぶるりと震えた、気がした。  いや……考えすぎだろう。  ああいう連中の間では、あだ名で呼び合うのが当たり前だ。だから別に、姫宮さんにとってあの男が特別だとか、そういう訳ではないはず。  何故か、全身が不気味な熱に侵されていく。  僕は、小説をぱたりと閉じた。 (……ちっ。せいぜい茶番を楽しんどけ。  …………姫宮さんは、僕のものだ)  チャイムが鳴り、本日最後の授業が始まった。  もう間もなく放課後だ。  僕と姫宮さんだけの、特別な時間だ──。     ※    ※    ※  きィ────────ン……♡♡     ※    ※    ※  先日と同様、夕暮れの時間に僕の家を訪ねてきた姫宮さん。  早速、部屋へと招き入れて、準備していた衣装に着替えさせた。  その衣装とは、メイド服だ。お屋敷で給仕する地味なメイドのそれではなく、明らかに淫らな行為に特化した──セパレートタイプで露出度が高いもの。姫宮さんの慎ましいお胸を包んでいる布地はビキニのような形状で、下半身はハート型のフリルがあしらわれたミニスカによって覆われていた。スカートの裾から溢れる、むっちりとした肉感的な太腿にはガーターベルトが這っており、絶妙な透け具合の黒タイツへと繋がっている。非常に官能的だ。  黒髪の長髪も、ツーサイドアップとして結われていた。  その髪型も衣装も、全てが僕好みの仕様。  理想的な性処理メイドの姿に、興奮が募る──。 「ふふっ。素敵な衣装ですね♡ ありがとうございます、ご主人様♡」  その場でくるりと回転をして、スカートを靡かせる。  何気ない所作一つで、薄汚い僕の部屋に──甘い香りが広がる。 「どうですか? 似合ってますか……?♡」  小さな歩幅でこちらに近付き、上目遣いで尋ねてくる。  クラスで嫌われ者扱いされているこの僕に、姫宮さんから歩み寄ってくれるだなんて。こんなに優しくて可愛い女の子を、他の男になんて渡すものか。姫宮小春さんは、僕だけのお姫様なんだ。そう考えながら鼻孔を膨らませる。たっぷりと匂いを嗅いで、独占欲を滾らせていった。 「……す、すっごい可愛いよ。姫宮さん」 「……っ♡ わ……♡ お褒めに与り、こ、光栄、です……♡」  ぽしゅ~っと顔から蒸気を上げて、恥じらっている。  何だか、僕の胸中にも甘酸っぱい感情が湧いた。  しかし、その処理の方法が分からず、姫宮さんに背を向けてしまった。他人と話さず、孤独な青春を送っている弊害だ。気恥ずかしさを誤魔化すように、足早にベッドへと向かって、全裸になり、仰向けで寝そべった。  予め、「今日は姫宮さんから奉仕するように」と命令してある。  その為の教材として、メイド系のAVも何本か視聴させている。 「……じ、じゃあ、今日も性処理を頼むよ」  僕の短い言葉に、姫宮さんは「はいっ♡」と大きく頷いた。  やる気と自信に満ち溢れた表情から察するに、ご奉仕の予習にかなりの時間を費やしたのだろう。姫宮さんは真面目だから、きっと、相当なテクニックを会得しているはず。 「んしょ、っと……♡」  ベッドに上がり、僕に寄り添い、そして──抱き付いてくる。  まさに蛞蝓のような絡みつき方。両手両足を使って僕に密着している。それだけでも多幸感で頭がくらくらとするのに、あろうことか姫宮さんは「んべっ♡」と舌を伸ばして、そのまま僕の乳首をれろりと舐め始めたのだ。  ご奉仕の基本、乳首舐めである──。 「んれぇ……♡ んれる、んべぇぁ……♡ れるぅ~っ……♡」  しかも、単純にAVの模倣をしているのではない。  見映えだけを重視した激しい手法ではなく、愛するご主人様に喜んでもらうための丁寧な乳首舐めだった。無地のキャンバスを絵筆でなぞるように、ねっとりと舐め上げられる。時には、狡猾な蛇の如くちろちろと左右に舌を振り、責めてくる。その上、熱っぽい視線をこちらに傾けてくれるのだ。 「男性の方も乳首が弱い……そうですよね……?♡ このように舐めたら、おちんちんにすぐいらいらしてもらえて、効率的な性処理に繋がると学びました……♡ ねっ……♡ 合っていますか、ご主人様……?♡」  姫宮さんは乳首を舐めながら、白い手で僕の股間を撫でた。  裕福な家庭に生まれた彼女は、幼少期からピアノを嗜んでいると耳にしている。きっと、その細い指先で美麗な音色を奏で、人々を魅了してきたのだろう。両親から寵愛を受け、健やかに育った姫宮さん純白の手は──しかし今や、僕の肉棒をむらつかせるための道具と化している。覆す事が困難な過去でさえ、僕の所有物として塗り替えてしまっている、凄まじい全能感。これは王様以上の存在、神様になってしまったと言っても過言ではない──。 「あはっ……♡ ご主人様、嬉しそうな顔してます……♡」  繊細な指先で、かりかり……♡と肉棒の裏筋を引っ搔かれる。  大きく脈打つ肉棒を見て、姫宮さんは淫蕩的な表情となった。  そして、より一層熱烈な乳首舐めで、僕に奉仕する。  ──んべろれろれろれろんっ♡んべぇる♡れるれるれぇる♡  いよいよAVじみた下品な舐め方になってきた。  縦横無尽に蠢く舌から飛び散った唾液で、胸板が濡れていく。  同調して、指先の動きも淫らになり、肉棒への刺激が強まる。  女性慣れしていない僕は思わず射精してしまいそうになり、姫宮さんから逃げるように身体を反転させた。仰向けから、うつ伏せへ。暫くの間、枕に突っ伏して呼吸を整えていたのだが──ドスケベ性処理メイドの姫宮さんは妖しく微笑み、次の攻撃を仕掛けてきた。 「逃げちゃいけませんよ?♡ ……ご主人様っ♡」  小さな両手で僕のお尻が掴まれて、かぱっと開かれて。  その間にある、汗ばんだ尻穴へと──唇が近付けられた。  姫宮さんの、艶めかしい吐息を感じた、その直後。  「ぶっちゅ~♡」と粘ついたリップ音が、室内に木霊した。  遅れて、未経験の快感が背筋を這う。女々しい声が漏れてしまう。 「うぁっ、どこっ、舐めてるのっ……姫宮、さんっ……」 「……んぶれるぅ♡ んふぅ♡ おひりの穴、れふよぉ?♡」  性処理なのですから当然ですと、アナル舐めを平然と続ける。  透明な声音で言葉を紡ぐあの桜色の唇で、僕のお尻が舐められている。唾液塗れの舌をアナルに挿入され、ねろねろ♡と動かされている。姫宮さんの顔は見えないけれど、恐らくは鼻ごと尻肉に埋めているはず。尻たぶの汗と、自分の唾液で、顔全体をべとべとに濡らしながらも、懸命におしゃぶりを続けているはずだ。あの『姫宮小春』にこんな下品な奉仕をさせているという事実が、強烈な背徳感を生み、僕の脳に禍々しい快楽を落とす。   「んふぶっ……♡ ぶっぽっ……♡ ぶぢゅる、んべるぅ♡ は~むっ♡ ん、まっ……♡ ん~まぁ♡ んべぁ、あぶ、んれるれろれろれるぅん……♡」  あぁ──最高だ。  これぞまさに、僕好みの性処理メイドだ。  姫宮さんがアナルを舐めやすいように四つん這いになり、恍惚感に浸る。  四六時中、下らない事ばかり考えている馬鹿共に見せてやりたい。お前らが囲っている『姫宮小春』は、僕のケツを舐めて喜ぶ変態メイドなんだぞと。  どうせあいつらだって、家に帰った後に姫宮さんをオカズにして抜いているに違いない。夏の風に靡く黒髪、皺のない制服、優しい笑顔。それらを材料に、好き勝手に妄想しては、夜な夜な精液をぶちまけているはずなのだ。  だからこそ──独占欲が満たされる──。 「んぶちゅるぅ♡ んべぇ~るぅっ♡ んれぁ♡ はぶぅ♡」 「おっ……おっ、ほ……姫宮さんの舌使い、すっげ……」 「ぶぽっ♡ ぶっちゅぅ♡ ありがとぉ、ございまふぅ……♡」  やがて姫宮さんは、「んれぇ──♡」と手の平にも舌を這わせた。  そして、唾液でねっとりと濡れたその右手で、僕の肉棒を握る。  アナル舐め手コキ。極上ご奉仕の予感に、生唾を飲む。  「……なあ、姫宮さん。一つ、質問していいか……」 「え──?♡ どうぞ、何でもお聞き下さい……♡」  僕は「好きな人や恋人はいるのか」と、低い声で訊いた。 「────っ……♡」  もしかしたら、姫宮さんの心に変化が起きているかもしれない。  この情熱的な奉仕は、恋愛感情がそうさせているのかもしれない。  催眠状態にある姫宮さんは、普段の真面目さや健気さを余す事なく僕に向けてくれる。調子に乗っていた僕は、それによるリスクの想定を失念していた。今の姫宮さんならば「私の好きな人はご主人様です♡」と即答するはずだと、決めつけてしまっていた。  ……姫宮さんは、言葉に詰まっていた。 「個人的なことなので恥ずかしいのですが、ご主人様に隠し事はいけませんよね……」  それから、はふ、と息を吐き、曖昧な感情を吐露する。 「こ、恋人はいません……♡ ですが、幼馴染のりーくんとは……あ、鈴木陸斗君とは、とても良い関係にありまして……向こうも、私の事が気になっているような雰囲気があって……でも、まだ気持ちの整理ができていないんです……♡ えっと、話にまとまりがなくて申し訳ありません、ご主人様……♡」  ぶぢり。僕の頭の中で、何かが切れた。  あぁ──そうか──そうかよ──。  脳内を「りーくん」という言葉が駆け巡る。  どす黒く濁った、汚い感情が渦巻く。  自分でも分かる程に強烈な嫉妬心が、肉棒を強張らせる。  正常な思考を奪われている姫宮さんが、僕の気持ちを理解できるはずもなく──再び柔らかな唇を尻穴にくっつけ、あわせて手コキも開始した。  怒涛の快楽が、押し寄せてくる。  ──ぶっちゅ♡ぶちゅるっ♡んべろんれるぅ♡ぶちゅ♡  ──ちゅこちゅこちゅこっ……♡ちゅこちゅこちゅこ♡  潤滑油代わりの唾液で濡れた手が、幾度となく上下する。  快楽を堪能しようだとか、そんな遊び心は感じられない。  性処理メイドとして、徹底的な搾精を意識した高速手コキ。   ヒクつく尻穴も継続的にしゃぶられ、僕はすぐに追い込まれた。 「んぷはぁ……我慢なさらずに、出していいでふよ……?♡ んぶぽっ♡ ぶひゅぅ♡ この逞しいおちんちんから、ご主人様ザーメン♡ 出してくらふぁいっ……♡ 最後まで、お尻をたっぷり舐めてあげまふからっ……♡」  射精の間際。窮地に立たされた僕は、先刻の嫉妬心をあえて無視して、歪な愉悦を覚えていた。姫宮さんの『本当に好きな人』がアイツだとしても、関係ない。今この僕に、アナル舐め手コキご奉仕をしている現実は不変だ。  それに、僕のほうが、アイツよりも姫宮さんを理解している。  ……僕の勝ちだ。惨めなのはアイツの方だ。  そうに決まっている。だから、だから──。 「うぉ、おっ……でるよっ……愛してるよっ、姫宮さんッ……」  僕は腰を突き出して、姫宮さんの顔に尻穴を擦り付けた。  そして、限界を迎えた肉棒から、精液を放っていく。  ──どぴゅっ♡とぷとぷとぷんっ♡ぶぴゅっ♡ぶりゅ~っ♡  ベッドのシーツに飛び散る自分の精液を見下ろしながら、肩で息をする。嫉妬。愛欲。然るべき努力を怠ってきた自分への苛立ち。目を逸らしたい感情ばかりで、埋め尽くされる。やがて心の棘の数が増え、快楽の中で『痛み』を感じていた。誰に宛てた訳でもなく「くそが……」と漏らして、身を翻す。 「……きゃっ♡ な、何をなさるおつもり、でっ……?♡」  姫宮さんの顎を掴み、その美貌に萎えた肉棒を叩きつけた。  直前までアナル舐め奉仕に勤しんでいた姫宮さんの口元は、涎まみれだった。縮れた毛も張り付いていた。他でもない、僕によって汚された『お姫様の唇』に、真っ赤な亀頭を、むにっ♡と押し当てる。 「姫宮さんは……僕の、何だったっけ?」 「わ、私は、ご主人様だけの……性処理メイド、です……♡」 「それなら、射精後のおしっこも処理してくれるよなぁ?」 「あ゛っ……♡ ふぁ……♡ はぁ、い……♡」  処女を奪う時のように、一時的に正気を取り戻されたら面倒だ。  嫌がる隙すら与えず、姫宮さんのお口の中へ肉棒を挿入する。  涎でたっぷたぷの生温かい口内に──沈み込ませる。  僕は「ほっ……」と極楽気分のまま、下半身から力を抜いた──。 「ん゛ふっ……!?♡ ん゛ぼっ……♡ お゛ぼゅっ……♡」  じょろろろろっ──ぶしゅっ、じょ、じょろろぉ~っ……♡  便所以外での排尿。禁忌を侵している享楽がじんわりと広がる。  際限なく溢れる尿を──姫宮さんは懸命に受け止めていた。  そして、前髪で双眸を隠しながら、ごきゅっ♡と飲尿する。 「う゛ぶゅっ……♡ ん゛ぶぉっ♡ お、こひゅっ……え゛ぁ♡」  最後────ごっきゅん♡と嚥下した姫宮さんが、微笑む。  一滴たりとも零さずに飲み切ったと、僕に示しているのだ。 「んもう、ご主人様ったら……♡ 乱暴、なんですから♡」  口から漏れた吐息で、姫宮さんの前髪がふわりと浮いた。  彼女の瞳は、間違いなく……僕を見詰めている。  それなのにどうして──完全に奪い切れないのか。 「…………ッ」  明日の昼間、僕たちは、同じ教室で同じ時間を過ごす。  しかし、その時にこうして目を合わせたり、会話をする事はない。  結局、催眠アプリの力を借りなければ、僕は無力なのだ。 「────?♡」  僕からの命令を待つ、従順なメイドの姿を凝視する。  ぽっかりと開いた胸の穴とは、今後も付き合っていくしかない。  喪失感と満足感。矛盾した感覚を抱えながら、彼女の頬を撫でた。